インド主催の「グローバル・サウスの声サミット」で理解しておくべきこと

インドが主催する第3回「グローバル・サウスの声サミット」が開催された。オンラインで123カ国が参加したという。2023年に二回開催された同サミットは、第1回の際に125カ国の参加を得ていたので、ほぼ同程度の数の諸国の参加が維持されているようだ。

今回のサミットの参加国のリストはまだ公開されていないようなので、完璧な比較はできないが、インド政府報道内容等を見る限り、同じようなやり方で、同じような諸国が、同じように関与したようである。

政変のあったバングラデシュから暫定政府の長になったユヌス氏が参加するなどの個別的な話題もあったようだが、インドが主催で、オンラインでセッション単位の参加が可能という利便性の高い方式で120カ国以上の参加を維持するやり方など、決まったパターンが確立され、今後も踏襲されていくようである。

昨年のサミットはインドが議長国であったG20サミットに向けた諸国の関心事項の洗い出し共有という実務的な意味があった。今回は、9月の国連総会に向けて重要関心事項の洗い出し共有という実務的な意味が設定されていたようだ。

国連では、非同盟運動(Non-Aligned Movement: NAM)という120カ国が参加するグループが、1961年以来存在している。冷戦が激しくなり、国連が自由主義陣営と共産主義陣営の対立の場と化していく中、脱植民地化をへて独立した新興諸国は、どちらにも属さないまま、しかし複数の諸国で政策議題を提案していく仕組みを求めた。

そのニーズに応えたのが、NAMであった。冷戦が終わってからも、国連総会における投票行動などで存在感を見せる有力な加盟国グループとして、確固たる存在感を持っている。

このNAMの主要国の一つがインドである。伝統的にそうだったが、現在の参加国の経済力や人口を考えると、NAMにおけるインドの存在は突出している、とすら言える。

NAM参加国と「グローバル・サウスの声サミット」の参加国は、かなりの程度に重複している。安全保障理事会に継続的に席を持たないインドであるからこそ、NAMでの存在感もいかして、国連の場に「グローバル・サウスの声」123カ国の意見を持ち込む代表として行動することには、強い関心があるだろう。

ただしインド政府は、「サミット」で、慎重にNAMに言及することを避けている。後述するように、NAMに属していながら、「サミット」に招かれてない国があるからだろう。そこは正確に理解しておく必要はある。

気をつけなければならないのは、日本では、一方的な思い込みと偏見により、かなり根本的なところでの「グローバル・サウス」の誤解が広まっていることだ。勝手な思い込みと偏見で、インドがやっていることを理解したつもりになったり、否定したりしてみせるのは、百害あって一利なしだ。

昨年のG7広島サミット準備段階から始まった、「中身は何だかよくわからないが、とにかく片っ端から、グローバル・サウスは大事だ、と唱えておく」ことを良しとする日本政府の姿勢には、私は極めて批判的である。戦略的ではない。有力国に失礼ですらある。

ところが政府に相乗りして、そのまま中身なく、「最近はグローバル・サウスなるものが大事だということになっているそうなので、とにかくグローバル・サウスは大事だ、と唱えておこう」式の日本のマスコミの風潮があることにも、辟易としている。

ただし、私は特にインドに批判的なわけではない。インドがやっていることの意味は、むしろ誰よりも声高に唱えたいくらいだ。インドは、国際事情をよく知ったうえで、自国の外交政策の中で「グローバル・サウスの声サミット」を位置付けている。

私が批判的なのは、何も知らず、考える意図もないまま、「とにかく最近はグローバル・サウスが大事だと唱えたほうがいいと政府が言っているので、わが社でもグローバル・サウスは大事だと唱えることにした」という態度をとっているような日本人に対してである。

留意点を列挙しておこう。第一に、NAMを思想的源流とするインド主導のグローバル・サウスの流れには、ロシアはもちろん、中国も入っていない。共産国である(あった)中国は、NAMのオブザーバーの地位は持っているが、正式参加国ではない。サミットについて言えば、インド政府は、中国は招待していない、と明言している。

日本では、グローバル・サウスを勝手に非欧米諸国の連合体のように理解してしまいがちなので、中国やロシアとの関係で、グローバル・サウスを理解しようとしがちだ。だが少なくともインドが主導するグローバル・サウスの理解は、それではない。

グローバル・サウスの盟主の地位を争って中国とインドが主導権争いをするのではないか、といった話もよく見るが、意味不明である。グローバル・サウスに実体はない。それは組織体ではない。オンライン開催で会議を開いて意見共有を図る場だけを設定している「グローバル・サウスの声サミット」にしても、新しい国際組織の準備のようなものでは全くなく、インド政府にそのようなものを作る意図がある素振りも全くない。

個別的な地域や国に対して、中国とインドが影響力の競争関係を持つことは当然ある。バングラデシュ、スリランカ、モルディブなど南アジア諸国が典型例だが、より広範に、世界的規模での影響力の競争は始まっていると考えてよい。だがそれは「グローバル・サウスの盟主」といった架空の疑似組織体の長のような地位を想像して描写する状況とは、全く異なる。グローバル・サウスは、いわば思想的な結びつきであり、実体を持っていない。

第二に、インド主導の「グローバル・サウスの声サミット」のイニシアチブを、G7とBRICSが対峙する構図に当てはめて理解しようとする傾向も、間違いだ。インドがやっているのは、BRICS強化の試みではない。

「グローバル・サウスの声サミット」参加国リストをよく見てみるべきだ。もともとのBRICSの5カ国から参加しているのは、主催国のインドだけだ。ロシアや中国だけではない。ブラジルや南アフリカも、参加していない。

(今年からBRICSに新規加盟した5カ国であれば、サウジアラビアを除く残りの4カ国が参加国だが、これはまた別に考えるべきであろう。)

南アフリカについては、アパルトヘイト体制を脱した後の1994年にNAMに加入していることを考えても、インド主催の「サミット」に参加していないのは、注目できる。インド主催の「サミット」は、対外的にはっきりとBRICSと切り分けられている、ということである。

あえて言えば東南アジアの雄と言ってよいインドネシアや、ラテンアメリカの有力国であるメキシコとアルゼンチン、そしてトルコや韓国も、欧米諸国とBRICS諸国及びオーストラリアとともに、「サミット」に参加していない。つまりG7だけでなく、G20の参加国は、「サミット」に招かれていない。

これは昨年の「サミット」が、G20首脳会議に、非参加国の声を届ける、という実務的な趣旨を持っていたことを考えると、わからない話ではない。参加国が2カ国減っているとはいえ、今年の「サミット」で少し事情が変わるような要素があったどうか、私はまだ確かめられていない(が、報道等を見る限りG20参加国が招かれた形跡はない)。

インドは、非欧米の有力国を集めた連合体を形成する意図は持っていない。むしろ非欧米の有力国を、取り除いている。「グローバル・サウスの声サミット」は、あくまでもインドの外交政策の一環として実施されている。

第3に、NAM参加国であり、G20参加国でもないのに、招かれていない国がある。パキスタンである。インドが主催する限り、当然、パキスタンが招かれる可能性はない、ということだろう。とにかく「グローバル・サウスの声サミット」は、徹底してあくまでもインド外交の一環として行われているものなのだ。それ以上でも、それ以下でもない。