ハリスを好感する「世論調査」のカラクリを暴く「世論調査」

ニューヨークタイムズ紙とシエナ大学が8月17日に発表した世論調査によると、ハリスはトランプをアリゾナ州では50%対45%、ノースカロライナ州では49%対47%とリードし、トランプが依然として優勢なネバダ州とジョージア州でも夫々48%対47%及び50%対46%とハリスが差を縮めている。

ハリス氏と副大統領候補ワルツ氏 ハリス氏インスタグラムより

同じタイムズ/シエナの8月10日発表の調査でも、ハリスがウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州でトランプを4%ポイント差でリードしている。本年初めの世論調査では3州何れもトランプがバイデンを3%ポイントリードしていた。斯くて接戦7州の5州でハリスリードの状況となった。

筆者は8月13日の拙稿に「ハリス/ウォルズの『honey moon』は投票日まで続かない」との見出しを付け、その理由として投票までの80日間に「億単位のドルが投入されるTVCM合戦で『掘られる』悪材料の質と量は、ハリス/ウォルズ陣営の方に圧倒的に多いからだ」と書いた。

ハリス/ウォルズの「honey moon」は投票日まで続かない
カマラ・ハリスはランニングメイト(VP候補)にミネソタ州知事ティム・ウォルズ(60歳)を選んだ。筆者はペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロがVP候補になると周囲に公言していたので、ベン・カーソンを押したトランプのVP候補と同様にまた予想...

そのことに関連して、保守系のメディア監視団体「メディア・リサーチ・センター(「MRC」)」が8月14日に発表した世論調査の結果によると、民主党および無党派の有権者の7〜8割が、ハリスが上院議員時代に取った「多くの物議を醸す過激な立場」について知らないという、驚くべき状況がある。

調査は「MRC」の依頼で「McLaughlin & Associates」が8月2日~5日に実施したもので、対象は民主党登録者800人と20年にバイデンに投票したと答えた無党派層400人の計1200人。質問は対象者のハリスの左翼的な立場10項目についての知識および彼らの政治ニュースの入手先についてなされた。

前者の質問と回答は以下の通りだった。

  1. ハリスは死刑囚に投票権を与えることを検討した(86%が知らない、14%が知っている)
  2. ハリスは民間医療制度の廃止を支持した(81%が知らない、19%が知っている)
  3. ハリスは20年の暴動の際に暴力的な抗議者を救済するための基金を推進した(78%が知らない、22%が知っている)
  4. ハリスはICE(移民税関捜査局)の廃止を支持した(77%が知らない、23%が知っている)
  5. ハリスは19年に最もリベラルな米国上院議員に選ばれた(75%が知らない、25%が知っている)
  6. ハリスは米国への不法入国は犯罪とみなされるべきではないと述べた(74%が知らない、26%が知っている)
  7. ハリスはグリーン・ニューディールの共同提案者(73%が知らない、27%が知っている)
  8. ハリスは国境担当長官として国境紛争地帯を一度も訪問していない(知らない人72%、知っている人28%)
  9. ハリスは警察予算の削減を支持した(71%が知らない、29%が知っている)
  10. ハリスは米国の奴隷制を償うための賠償金支払いを支持した(71%が知らない、29%が知っている)

次に政治や大統領選に関するニュースの入手先については、TVではABCとCBSとNBC、ケーブルニュースではCNNとMSNBCという反トランプメディアが圧倒的に多かった。「MRC」の調べでは、ハリスが大統領の最有力候補になって3週間(7月21日~8月10日)のABC・CBS・NBCの夕方の報道では、上記10項目の2項目を除く8項目は全く触れられなかった。

筆者は前掲の拙稿で、「11月の勝敗の帰趨は」「接戦州7州のそれぞれの数万票を取れるか否かにかかっているから」、「全米単位の世論調査結果は意味がない」と書き、「接戦7州の2割の浮動票にどう影響するかのみがポイントとなる」として、無党派層の浮動票の重要性を強調した。

そこで「MRC」が調査対象とした民主党員800人はハリスの主張がどうであろうとトランプに投票する可能性は低い。が、20年にバイデンに投票した無党派の400人はどうだろうか。8月16日の『Politico』は、ハリスが同日にノースカロライナで行った経済政策演説について次のように論評した。

ハリスの政策展開の本質は、短縮された彼女の選挙運動の重要な課題を浮き彫りにした。それは、インフレが悪化しているという有権者の認識によって傷ついたバイデン政権から距離を置くことと、パンデミック後の経済を活性化させ、労働者階級に多くの長期的な利益をもたらすことに概ね成功したバイデン政策を維持し、さらに発展させることだ。・・『ワシントンポスト』の編集委員会はハリスの計画を「時代は真剣な経済政策を求めている。ハリスは小細工を提供しているだけだ」と痛烈に批判した。

反トランプの急先鋒『ワシントンポスト』に痛烈批判されてはハリスも形無しだ。筆者は7月27日の拙稿「スタッフの92%がこの3年間で退職したハリスの人望と政策」でこうも書いた。

スタッフの92%がこの3年間で退職したハリスの人望と政策
秘書やスタッフの離職率の高さは政治家の人望を測るバローメータの一つだ。自民党総裁候補の某幹事長や某デジタル相なども、そのせいか実績の割に人気がない。バイデンがメモやプロンプターで4年近く隠蔽してきた老衰ぶりを先の討論会で露呈し、急遽民主党の...

候補を降りたバイデンが「核のボタン」を委ねられ続ける矛盾はあと半年間だが、それはまたハリス元来の左傾した主張が、バイデンのVPであり続ける彼女の言動に大きな制約をもたらす期間でもある。民主党の「エリート」が急拵えしたバイデン降ろし・ハリス擁立のこうした矛盾を、トランプが突かない訳がない。

つまり、これから投票日までの期間に、ハリスが如何にバイデン/ハリスが遂行した施策の都合の悪いところを取り繕おうとも、何れはインタビューでその変節を問われるだろうし、討論会でもトランプに攻撃されて、有権者の知るところとなる。それは先述の左翼的10項目も同様だ。付け焼刃は脆い。