どうするセブン、カナダ大手に食われのか?:円安と経営不振の果てに

セブン&アイ社にカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン クシュタール社から買収提案がありました。今回の提案は法的拘束力あるものではない予備段階のものですが、経産省などのルールによりセブン社は取締役会を含めた検討をする必要があります。会社は誰のもの、という議論がしばしばなされますが、買収提案の場合には株主の利益保全を重視するスタンスになっているともいえます。

さて、この舌を噛みそうな会社ですが、名前の通りフレンチ系、つまり本社はカナダのケベック州にあります。ブランドはサークルK、クシュタールなどが主流で世界30か国程度で展開し、そのうち約8割弱がガソリンスタンド併設店やロードサイド店(大通りに面して立ち寄りやすい店)という特徴があります。

売り上げはセブンアイをやや下回るもののどっこいどっこいといってよいでしょう。ただし、時価総額については円建てで見れば買収提案発表前時点で倍半分近い差があり、稼ぐ力もクシュタール社がはるかに上を行きます。私はかつてこの会社の株を買う検討はしたことが何度かありますが、ケベックの会社で読みづらいのがあり手を出しませんでした。

セブンイレブン Wikipediaより

クシュタール社は実はセブン買収提案の報道がなされた8月19日にアメリカ東部で展開する「Get Go Cafe」社買収を発表しており、新たに270店舗を同社のリストに加え、約17000店舗体制としています。基本的には買収に次ぐ買収で大きくなった会社といってよいでしょう。

同社はカナダ、アメリカ以外に欧州北部で強みがあり、また香港でも高いプレゼンスがあります。今回のセブンの買収は世界規模のコンビニ事業を展開するにあたり、アジア地区が手薄だったこともあり、セブンは絶好のターゲットであったということかと思います。また同社が得意とするガソリンスタンド併設店においてアメリカの「スピードウェイ」をセブン社が昨年買収したことはクシュタール社にとってセブンがさらにおいしく感じられる魅力を作ってくれたということになります。

それ以外に2つ大きな理由が思いつきます。一つは円安。これでクシュタール社は想定価格よりはるかに安い価格で買収することが可能になります。あるいは交渉次第で価格上乗せ余地があるとも言えます。2つ目はセブンの経営が不振であることあります。同社決算を見ても利益率は下がり続け、さえない展開が続く中、イトーヨーカドー問題がこれから本格化する中で一種の負の遺産整理が続きます。

私はこのブログでセブンのことに何度か触れてきたのですが、基本的に現経営陣は及第点に及ばないと考えています。ずばり申し上げるとセブンは鈴木敏文氏の芸術作品であり、現経営陣は鈴木氏のスタイルと必ずしも意を共にしていないとしても経営方針に斬新感はなく、ただうわべの経営指標に基づき日々機械のような業務を行っている、そんな風にしか見えないのです。もちろん鈴木氏が活躍したコンビニ大成長時代はとうに終わっており、日本国内事業は飽和し、守りの姿勢がずっと続きます。そして事業の7割を占める海外利益は4-6月期には8割減と苦戦します。

ではお前は今回のクシュタール社の買収提案をどう見るか、と言われるとクシュタール社がそんなに簡単にあきらめるはずはないこと、セブンの経営陣はへたっていることから買収に妥当性と正当性は大いにあると思います。ただ、日本の代表的企業が日本人のほとんどが知らないカナダの会社に買収されてよいとも思っていないでしょう。ではホワイトナイトは現れるのか、です。

5兆円レベルの取引になれば日本のM&Aでは最高額になりますが、ありえるとみています。最有力候補は三井物産。というか、ここしか思い浮かばないのです。セブンの物流、流通を陰ながら支援しているのは物産グループです。とはいえ同社単独は厳しいので銀行団とシンジケーションを組み、白馬の騎士で買収提案合戦になれば買収提案額が吊り上がる可能性は大いにあります。私がクシュタール社は円安が理由で提案したと申し上げたのは取引金額は一発では決まらないのです。よって相当の懐を持つという意味で今回の動きは注目すべきでしょう。

もしもクシュタール社が買収すればイトーヨーカドーは一発で売却対象になるでしょう。欧米企業はドライです。一方セブンがクシュタール社と条件交渉をするなら円建てではなく米ドルでの売買が良いと思います。これはクシュタール社を思いっきり締め上げることになり、対等勝負が展開できるはずです。

私は円安はいいことがない、と言い続けてきましたが、それは日本企業が安値で買収されやすい展開があるから嫌なのです。目先の利益だけを捉えれば円安万歳という評論家もいますが、国家の正論を考えるとそんな話になるわけがないのです。通貨の価値は高い方がよいということです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年8月20日の記事より転載させていただきました。

アバター画像
会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。