ルーマニアに欧州最大NATO基地建設中

ドイツ民間ニュース専門局ntvのホームページでケヴィン・シュルテ記者の記事「ルーマニア、欧州最大のNATO基地を建設中」(18日付)を読んで正直いって驚いた。なぜならば、ルーマニアのコンスタンツァ空港で建設中のNATO基地はウクライナ国境からわずか100キロしか離れておらず、ロシアにとって戦略的に重要な黒海から15キロしか離れていない場所に位置しているのだ。

NATO海軍が日本の海上自衛隊および同盟国と軍事演習。3隻のNATO艦船が東地中海で2隻の日本の艦船と追い越し訓練を実施した(2024年8月14日、NATO公式サイトから)

ウクライナはNATO加盟を目指しているが、ロシアの強い反対もあって現時点では実現できない状況にあるが、NATO最大の基地がルーマニアに完成すれば、ウクライナ国境から100キロしか離れていない場所にNATOの陸軍、空軍、海軍がロシアの軍事動向を監視できる。それに通じてウクライナの安全保障はかなり保障されるのではないか。もちろん、加盟国ではない場合、侵略された加盟国への共同の防衛義務を明記したNATO憲章第5条は発効しないが、ロシアに対して十分な脅威となるはずだからだ。

実際、ロシアは、ルーマニアにおけるNATO基地拡張計画に対し強い警戒心を有している、ロシアの外交委員会のアンドレイ・クリモフ副議長は今春、「ブカレストにとっての脅威となるだろう。反ロシアの軍事基地が大きくなり、ロシアの国境に近づくほど、ロシアに対する攻撃が行われた場合に報復攻撃の標的になる可能性が高まるからだ」と警告し、「ルーマニア人が望むのならば、それは彼らの選択だが、NATOの自殺クラブは通常、このような冒険に一般市民を巻き込み、彼らの家族や子供たちに悲惨な結果をもたらすのだ」と述べている。

NATOがルーマニアに最大規模の基地を建設する狙いはNATO同盟の東側防衛線の強化だ。ロシア軍のウクライナ侵略以来、同防衛線は戦略的に重要となってきたからだ。ウクライナに近接し、ロシア領からも近い。NATOはこれまでこの地域を重要視してこなかった。

以下、シュルテ記者の記事に基づいて、NATOが建設中の欧州最大規模の基地について報告する。

ミハイル・コガルニチャーヌの町にあるコンスタンツァ空港は、一見するとルーマニアの普通の地方空港のように見える。しかし将来的には、ヨーロッパ最大のNATO基地がここに設置される予定だ。数年後には、陸軍、空軍、海軍の兵士1万人が駐留する見込みだ。

同空港には、ルーマニア空軍とそのNATO同盟国が使用する軍事施設が既にある。しかし今後20年にわたり大規模に拡張され、現代化される予定だ。この基地は3000ヘクタールに拡張される計画で、これはベルリンのテンペルホーフ空港の約10倍の大きさで、ラインラント=プファルツ州にある大規模なラムシュタイン基地をも凌駕する。

戦闘機用の新たな滑走路や誘導路、大型軍用機のための格納庫、さらに弾薬庫や燃料貯蔵施設、技術機材の保管場所が新設される予定だ。拡張工事は最大20年かかる見込みで、総工費は25億ユーロだ。また、NATO兵士の家族もここに住むことになるため、学校や幼稚園、商店、病院も建設される。事実上、ルーマニアの大都市コンスタンツァの郊外に独自の軍事都市が誕生することになる。

現在、ルーマニアには合計で7万人のNATO兵士が駐留している。ドイツ連邦軍もユーロファイター戦闘機を空軍基地に配備した。ここからNATOは東側防衛線の空域を監視し、非常事態に備えて訓練を行っている。ただし、ロシア軍との衝突、エスカレーションを引き起こさないように注意が払われている。実際、2022年9月、ロシア戦闘機が英国偵察機に向かってミサイルを発射するという事故が起きているし、23年3月には米軍の無人機がロシアの戦闘機によって墜落されている」。

以上、シュルテ記者の記事からの引用だ。

欧州では英国とフランス両国が核保有国だ。そのうえ、NATO加盟国には米国の核兵器がイタリア、ベルギー、オランダ、ドイツのラインラント・プファルツ州のビューヒェルに保管されている。ロシアの核の脅威に対し、欧州は米国の核の傘下にある。そしてフィンランドとスウェ―デンの北欧両国がNATOに加盟したことで、NATOの北部戦線は強化された。そしてルーマニアに東方戦線の防衛を目的に欧州最大のNATO基地が建設中だ。ロシアのウクライナ侵略後、NATO主導の欧州の安全体制(加盟国32カ国)は著しく強化されてきたわけだ。

ルーマニアに欧州最大のNATO基地が完成する頃、ロシアのプーチン大統領は政権にはいないだろうし、彼のナラティブを信じ、継承する独裁者が出てこない場合、ルーマニアのNATO基地は、その戦略的意味合いが変わるだろうが、軍事大国・ロシアにとって脅威であり続けるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。