この国はどこへ行くのか?

少し体調を崩してお休みをいただいていた。その間にパリオリンピックは終わり、自民党総裁選挙が始まろうとしている。パリオリンピックでは印象に残る場面が多くあったが、私の心に最も印象として残ったのは、卓球の早田選手の「特攻資料館へ行きたい」発言である。

それに対して、韓国や中国のみならず、国内からも反発の声が上がっていたが、太平洋戦争では数百万人に上る日本人が犠牲になった。われわれが今先進国の一員として過ごしている背景として、多くの人々の犠牲があった事実を認識するのは、同じ不幸を繰り返さないために極めて重要だ。

その犠牲の象徴として、知覧を訪れ、英霊たちに改めて思いを馳せることに何の文句があるのだ。十代の特攻隊員の書き残した文章には、戦争の悲惨さが凝縮されている。その痛々しい様を知り、その犠牲の上に今日の我々があり、今、幸せに暮らしていることに感謝し、不幸を繰り返さないように努めることは日本人として当然だ。

南太平洋の島々で、東南アジアで、沖縄で、硫黄島で、日本本土で、多くの軍人だけでなく、膨大な数の民間人も犠牲となった。もちろん、広島や長崎の原子爆弾による犠牲者は言うに及ばない。

そんなことから、特攻隊員だけ特別でないと批判する声もあったが、十代の若者が、自らの意思で、死を覚悟で敵艦に突撃していくに至った過程を知ることは、戦争を回避する術を考えるには不可欠なことだ。繰り返してはならない過ちを避けるには、「なぜそのようになったか」から目を背けてはならない。

首相官邸HPより

と思いながら、自民党総裁選への報道を見ていると、メディアの馬鹿さ加減が嘆かわしくなる。野党も何をしているのかと思う。旧統一教会や裏金問題も確かに大切だが、国家観やこの国が抱えている問題が埋没している。

「刷新感」という情緒的な動きが前面に出ているが、候補者の年齢でなく、「日本をどのような国にしたいのか」が最も重要だ。国の防衛、医療福祉、少子超高齢化、経済格差など待ったなしの課題が山積している。

閣僚ポストに群がるような派閥は卑しくて醜いが、どのような国つくりを目指すのかといった政策集団は必要だと思う。右がダメなら、極端に左に振れる、年寄りがダメだから若者をといったような発想が国を亡ぼす。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。