トリノ「イエスの聖骸布」年代測定で新説

イエス・キリストの遺体を包んだ布だとされるトリノの「イエスの聖骸布」(Shroud of Turin)の年代問題では長年にわたり議論があったが、ここにきて「聖骸布はイエスの時代のもの」という新しい測定結果が発表され、話題を呼んでいる。

トリノの聖骸布のX線写真(バチカンニュース独語版2024年8月24日から)

「聖骸布」は1353年、フランスのリレで発見され、1453年にサヴォイ家の手に渡り、トリノに移動した後、1983年にサヴォイ家からローマ教皇に所有権が引き渡された。現在はトリノ大司教の管理下だ。

通称「トリノの聖骸布」と呼ばれる布は縦4.35メートル、横1.1メートルのリンネルだ。その布の真偽についてはさまざまな情報があり、多種多様の科学的調査が行われてきた。現時点では「その布が十字架で亡くなったイエスの遺体を包んだもの」と断言はできない。

1988年に実施された放射性炭素年代測定では、聖骸布の一部をサンプルとして取り、3つの異なる研究所で測定が実施された。その結果、「トリノの聖骸布」の製造時期は「1260年から1390年の間」という結果が出た。すなわち、イエスの遺体を包んだ布ではなく、中世時代の布というわけだ。その後、2013年に再度詳細に調査された結果、紀元前33年頃という年代が浮かび上がった。聖骸布に映る人物を詳細に調査した学者は「手、首、足には貫通した跡があった」と説明し、「遺体は180センチの男性だった」と指摘、「トリノの聖骸布は本物」と主張した。

いずれにしても、DNA鑑定やコンピューター断層撮影装置(CT)を使用して徹底的に調査されてきた。放射性炭素年代測定には批判はあった。反論者は、測定に使用された布が後に修復された部分であり、元の布とは異なる可能性がある、布が長期間にわたって煙や汚染物質にさらされたことから、年代測定に影響を与えた可能性があると指摘してきた。

「トリノの聖骸布」の研究で著名なエマヌエラ・マリネリ教授は「有名なフェイクは1988年、放射性炭素年代測定が実施され、トリノの聖骸布がイエス時代のものではなく、中世時代のものと結論を出したニュースだ。リンネルの布を放射性炭素で年代測定することは難しい。保存剤に漬けられたリンネルを測定しても間違った年代を測量するだけだ。ロウソクや人々の手が触ったりしているから、聖骸布のような歴史的なリンネルの正確な年代測定には放射性炭素測定は向いていない」と強調している。

それにもかかわらず、科学的なコンセンサスとしては、1988年の放射性炭素年代測定の結果が最も信頼性が高いとされてきた。現時点で、聖骸布が中世の産物であるという見解が主流だ(「イエスの『聖骸布』の真偽論争再発か」2018年7月20日参考)。

ところで、イタリアの研究者がトリノの聖骸布をイエスの時代のものという年代測定を発表して話題を呼んでいる。24日のバチカンニュース(独語版)によると、イタリアの研究者たちは、トリノの大聖堂に保管されている布はイエスの時代に属するという研究結果を「Heritage」誌に発表し、英大衆紙「デイリー・メール」紙が報じた。

新しい研究は広角X線技術(WAXS)を用いて行われた。この技術はリンネルのセルロースの自然な劣化を測定し、布の製造時期を特定する。糸はイスラエルのリネン布と互換性があると得られた結果に基づき、研究者たちは、聖骸布がヨーロッパに渡る前に約13世紀の間、温度約23度、相対湿度55%で保管されていたことを明らかにした。また、使用された糸は、イスラエルで発見された1世紀のリネン布と互換性があるとも述べている。イタリアの研究家の測定結果はバチカンを喜ばせている。

ちなみに、「トリノの聖骸布」は西暦2000年の大聖年に初めて公開された後、10年5月に再び一般公開された。当時のローマ教皇べネディクト16世はトリノに足を運び、観賞し、その前で祈っている。その後、15年にも一般公開された。世界から数百万人の信者たちがイエスの遺体を包んだ布を一目見ようとトリノ市に足を運んだ。

過去、考古学者によってダビデ王の家が発見され、ブルガリアの考古学者は洗礼ヨハネの遺骨を見つけた。また、トルコと中国の考古学者チームは2009年、トルコのアララト山の標高4000メートルで「ノアの方舟」の残滓を発見したと発表したことがあった。放射性炭素年代測定によると、発見された木は紀元前約4800年のものという。なお、当方が考古学者に期待しているのはモーセの足跡だ。エジプトからカナンへの道筋とモーセの墓だ。いずれもまだ考古学的に実証されていないのだ。

今回のイタリア研究者の「聖骸布」の年代測定結果が決定打となるか、それとも新たな説の一つに過ぎないのか、ここ暫くは専門家たちの評価に耳を傾けたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。