秋篠宮は皇太子でなく皇太子は空位だという虚説

左から、佳子内親王殿下、秋篠宮皇嗣殿下、妃殿下、悠仁親王殿下
宮内庁HPより

皇位継承についての論争は、女性週刊誌やSNSでは、愛子天皇か悠仁天皇というかたちで議論がされているが、公的な場ではそんな議論は存在しない。

秋篠宮皇嗣殿下は、法律で「皇太子と同待遇」とし「立皇太子令」をすることが定められ、天皇の場合の三種の神器と同じような位置づけの『壺切御剣』の親授まで行われている。いってみれば、秋篠宮殿下は神に祝福された次期天皇なのである。

また、悠仁さまは、昭和天皇の時代の浩宮さまと同じ立場だ。

「皇太子が空席」と思っている人がいるが、皇室典範では、継承順位第一位の皇族を「皇嗣」とし、天皇の子であれば皇太子と呼ぶとしている。

弟ならどう呼ぶかは規定がないので、「弟でも皇太子」「皇太弟はどうだ」という意見もあった。ちなみに、中世にあっては、子でも弟でも「東宮」と呼んでいた。

しかし、2017年の「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」で「皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」とわざわざ定め、2020年11月8日に、「立皇嗣礼」が国事行為として行われた。平安時代の醍醐天皇の時代から皇太子のシンボルであった「壺切御剣」も陛下から親授された。

ただし、会計は、これまで皇太子一家には、陛下の家計である「内廷費」から支出していたが、皇嗣一家は、これまでの東宮経費と同水準とするため三倍に増額したうえで、独立会計にし、東宮職にかわる秋篠宮皇嗣職とした。

もう少し裏の話をすると、同じ皇位継承順位第一位であっても、天皇の長男の場合は、生まれながらにして天皇より先に死なない限り、皇位継承が約束される。もし、天皇によりその長男が先に死んだら、長男の長男が皇太孫と呼ばれると皇室典範にある。

ところが、天皇の弟が継承順位第一位のときは、もしその後天皇に男子が生まれたら、第一位でなくなる。たとえば、上皇陛下が生まれるまでの秩父宮殿下の立場がそうだった。英国では、エリザベス女王は父ジョージ6世の即位以来、ずっと王位継承順位第一位だったが、弟が生まれたらそちらが優先される立場だった。

いまの陛下の元では、論理的な可能性としては、雅子さまが男子を出産されるとか、離婚あるいは死別されて陛下が再婚されて男子が生まれたらそちらが優先になる。

それなら、立皇嗣礼はどういう意味を持つかと言えば、その可能性はないという判断を内外に示したということである。

だから、秋篠宮殿下が皇太子とは違う立場というとすれば、もし、天皇陛下に男子がこれからも生まれる可能性はあるから考えろということを意味するがその自覚があるのだろうか。

それから、海外の皇嗣は弟であっても皇太子と呼ばれているが、秋篠宮殿下は呼ばれていないから同格でないと誤解している人がいる。

そもそも、皇太子という呼称は中華帝国独特のものを律令時代や近代日本で真似ているものだ。たとえば、朝鮮王国や琉球王国では世子だった。

西洋でどうかと言えば、皇太子に似たニュアンスの称号がなく、皇嗣にあたるプランス・エリティエ(仏)とかクラウン・プリンス(英)と一般的にはいわれるだけだ。

また、歴史的にウェールズ公(英)とかドーファン(仏、ドーフィネ公)、アストリアス公(スペイン)、オランへ公(オランダ)、ローマ王(神聖ローマ帝国)などと呼ばれることもある。

そういったさまざまな呼称を日本のマスコミが勝手に皇太子という『誤訳』をしているだけであって、それに騙された議論が横行しているのであるから情けない話だ。

こうした議論も、新刊『系図でたどる日本の皇族』(宝島社)で詳しくきちんと論じている。