負のサイクルから抜けられない中国経済

先日、「中国とどう対峙するか」というテーマを書いたばかりですが、その際にあまり取り上げなかった中国の経済面もどうも悪化の度合いが進んでいるように感じます。そのあたりを今日は考えてみたいと思います。

習近平国家主席 中国共産党新聞より

2008年のリーマンショックの際、株価が軒並み暴落する中、私はこのブログで「株価が上がるのは100均業者ぐらいかもしれない」と申し上げました。16年前に書いたことですが案外覚えているものです。その代表格、Dollar Tree社の株価は08年9月当時は12㌦程度。そこから長く見事な右肩上がりとなりピーク時には160㌦を超えていました。

人間、消費行動はある程度本能的に行うもので「お金を使う癖」がどれだけしみついているか次第でほぼ無意識に消費をします。ところがそのお金がないとなれば使う金額を減らしてでも消費を愉しむ行動に出るので100均は大賑わいになるのです。俺はモノは買わないぞ、という方も無意識に飲み屋に行っている方もいるでしょう。私も週に1-2回(いやもっとかも)行く方です。本能的行動なのでしょう。

もしもその100均ですら買えないとなればこれは経済的にかなりシビアな状態にある、こう考えるべきでしょう。私が長く持っていた中国のミンソウ社の株も程よい金額で売却しました。これは国内消費が伸びないので海外でいくら成長しても経営数字にはボディブローのように効いてくると判断したからです。中国安売りECの両綱といえばSheinとTemuです。Sheinは非公開企業なのですが、Temuを持つPDD社の4-6月決算発表では売り上げが予想に届かなかったことを受け一日にして29%の株価下落し、その後の展開もさえない状態になっています。

中国小売りについては11月11日の独身の日セールに次ぐ二大イベント、6月の「618セール」が行われたのですが、これが今年は開催以来初の前年比マイナス7%の売り上げになりました。中国人の消費意識はそれまでの爆買いにみられた消費型から貯蓄型に一気に転換しています。「貯金は良いことだ」とした人はこの6年間で20%ポイントアップし60%を超えてて来ています。日本の1990年頃をはさんだ前後の動きとほぼ同一と考えてよいと思います。中国の消費者物価指数は下落に次ぐ下落で現在はゼロ前後をさまよっています。

中国の一人当たりGDPは現時点で12500㌦程度で世界ランクで見れば74位で同じくらいの位置にはトルコやマレーシアがあります。一人当たりGDPは国民の富を見るうえでは参考になるのですが、今、面しているのは中進国の罠というより共産主義の限界といったほうが正しい気がしています。経済は不正不当競争防ぎながら自由な競争と市場の需給の自動調整機能を重視すべきというのが基本シナリオです。

ところが中国の場合2つのエラーが起きたとみています。1つは国民の消費行動が受動的で人の話や評判による行動規範が強く出る点です。(中国ほどではないですが、日本もこの点は否定しません。)そのため例えば、不動産⇒儲かる⇒買う⇒儲かった⇒人に言う⇒皆が買うという流れが強く出ます。不動産をEVに置き換えた場合、皆が乗る⇒自分も乗る⇒補助金の大盤振る舞い⇒Buy Chinese 主義万歳 ということになるのでしょうか?

もう1つのエラーは政府が経済の自由度に制約を加えたことです。これは習近平氏が考える共産党のイデオロギーとの対比において困る業種、例えば民間企業のビッグデータが国家保有データを凌駕するリスクとか、教育の仕方が欧米的になれば共産主義を否定する輩も出るだろうといったリスクです。これらは中国共産党が自らの身を守るために設定した制限ルールです。

一方、以前も書きましたが、国内の需要が十分でなければ海外で売り捌くという姿勢があり、中国製品が雪崩のように諸外国に押し寄せています。これで世界経済の歯車は当然狂ってしまいます。これが今起きていることです。

ここでカナダが立ち上がりました。中国製EVに100%関税実施をアメリカに先駆けて実施することにしたのです。アメリカはEVの100%関税をアナウンスしていますが、手続きに時間がかかっており、具体的な発表は9月下旬以降になるはずでカナダが先行した形になります。ではなぜカナダが先行したか、これはたぶん日本のメディアは触れていないと思います。

理由はテスラにあります。アメリカで売っているテスラはアメリカ製。ところがカナダのテスラは中国上海製なのです。カナダ政府はこれを嫌ったのでしょう。今回の100%関税はテスラ社への対抗措置なのです。テスラ社はやむを得ないのでアメリカか欧州で作るテスラをカナダに振り替える準備に追われるのです。ちなみにカナダではテスラ以外は中国製EVは市場に実質的にはないと理解しています。

日本市場ではBYDを含め中国EVの販売を展開する動きが出てきています。政府は関税なりで対抗措置をとれるのでしょうか?日本はそもそもEVに対する反応が鈍いのですが世界でも名だたる自動車王国で中国製EVとなれば恥ずかしいどころではありません。

中国が経済的に回らない、少額消費すらおぼつかないとなれば次に起きるのは富裕者層の国外脱出だとみています。これは以前ほどたやすくないでしょう。お金があれば外国のパスポートを取得できた時期もありますが、その後、中国人が移住先国で様々な活動、主に中国共産党との連絡を含めた協力者となるケースがあるためです。このあたりの感覚が日本では鈍いですから中国の富裕者にとって移住対象になりやすいのが日本になりかねないとみています。

香港で1997年返還前富裕層の国外脱出がおきたのを私はつぶさに見てきました。今、それが中国本土で起きた場合、それは中国にとっても世界にとっても頭痛のタネになるでしょう。

中国はモノだけでなく、人も輸出してきたぞー、ということです。

では今日はこのぐらいで。

参照:中国とどう対峙するか? 岡本 裕明


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月2日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。