”SPDのバイデン”に誰が退陣求めるか:ショルツ首相では選挙に勝てない

年齢的には彼はまだ66歳になったばかりだ。再選出馬を断念したジョー・バイデン米大統領は81歳だ。「彼」とバイデン氏は党内の幹部たちを「彼では次期選挙には勝てない」と悲観的な思いにさせた点で似ている。

ベルリン市民と会談するショルツ首相(2024年9月4日、独連邦首相府公式サイトから)

バイデン氏の場合、高齢で職務履行能力が疑わしいこともあって、「彼ではトランプ氏には勝てない」という思いが米民主党内に根強くあったので、党大会直前になって急遽、バイデン氏に代わる候補者を探した。そして59歳の若いハリス副大統領を選出することで次期大統領選でトランプ氏にひょっとしたら勝てるのではないか、というまでに米民主党は勢いを回復してきた。

米民主党の危機管理を大西洋を越えて目撃してきたドイツの社会民主党(SPD)では今、SPDのハリス探しが密かに行われているというのだ。「66歳の彼」とはドイツのオラフ・ショルツ首相のことだ。

ドイツ民間ニュース専門局ntvのコラムニスト、ヴォルフラーム・ヴァイマー記者は3日、「ショルツ首相はSPDのジョー・バイデンだ。誰がそれを彼に告げるのか?」という見出しで非常に面白い記事をntvのサイトに掲載していた。同記者は「SPDの東部2州の州議会選での大敗は屈辱的だ。ベルリンでは首相の黄昏が始まっている。このままいくと、SPDはショルツ氏と共に2025年9月の連邦議会選で破滅することは分かっている。それゆえに、SPDの多くの党員が、アメリカの民主党のように人事的なブレイクスルーを望んでいる。それでは、SPDのカマラ・ハリスは誰になるのだろうか?」と問いかけているのだ。

今月1日に実施された東部テューリンゲン州議会選でSPDは得票率6.1%と党歴代最低の得票率に終わり、辛うじて5%の壁をクリアできた。同時に行われたザクセン州議会選ではSPDは7.3%だった。ドイツ政界を戦後から主導してきた伝統的な政党としては大きな敗北と言わざるを得ない。今月22日にはブランデンブルク州議会選が待っている。同州ではSPDは与党だ。ここでも極右「ドイツのための選択肢」(AfD)に破られるようだと、そのダメージはもはや取り返しがつかなくなるだろう。その最悪のシナリオはかなり現実的なのだ。

SPDの低迷の責任はショルツ首相にあることは言うまでもない。ヴァイマー記者は「辛辣な真実は、ドイツ人の3分の2が首相をリーダーシップに欠けると考え、彼の『信号連立』は失敗し、国内での尊敬も失われ、彼は衰退の首相として見られていることだ」と指摘している。

ところで、ここで問題がある。テーマの中心にいるショルツ首相自身はそのようには受け取っていないことだ。換言すれば、首相と大多数のSPD幹部たちの間では現状に対する認識で相違がある。ショルツ首相は1日、東部2州議会選の結果に対し、「結果は苦々しいものだが、SPDは5%の壁を越えられないという暗い予測があったものの、現実にならなかったことに安堵している」と語っているのだ。ショルツ首相自身が東部州議会選には余り期待せず、戦う前から敗北は織り込み済みだったことを示唆しているわけだ。

アメリカではバイデン米大統領に再選断念を説得するために苦労したように、SPD幹部たちは今、ショルツ首相に「あなたではもはや選挙は勝てないから、来年の総選挙では党筆頭候補者の立場から降りてほしい」と言わざるを得ない状況になっている。それだけではない。ショルツ氏に代わる指導者、後継者を準備しなければならない。SPDのハリス探しだ。

ちなみに、ヴァイマー記者はショルツ首相の後継者候補として、①ボリス・ピストリウス国防相、②ステファン・ヴァイル・ニーダーザクセン州首相、③ラース・クリングバイル党首の名前を挙げている。そのうち、年齢的に若い46歳のクリングバイル党首を有力候補と見ている。すなわち、‘SPDのハリス’だ。

いずれにしても、SPDにとって最初の仕事はショルツ首相を如何に退陣へと説得するかだ。誰もその仕事を喜んで引き受ける幹部はいないだろう。ショルツ首相自身が全く退陣の意思がないからだ。唯一、可能な道は今月22日に実施されるブランデンブルク州議会選でSPDが与党の地位から落ち、AfDに第1党の地位を奪われ、ショルツ首相退陣の声がSPDの支持者から飛び出してくるケースだろう。

バイデン米大統領の場合、昨年末ごろから再選出馬を断念すべきだという声がメディアや一部の民主党議員から聞こえてきたが、バイデン氏が実際、再選出馬を断念するまでは半年余りの時間がかかった。それを考えるならば、ショルツ氏に来年連邦議会選で筆頭候補者の地位を断念し、SPDのハリスにその席を譲るまで1年余りしか時間がない。停滞する党を再生復活するためには十分な時間とはいえない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。