目下、針の筵に座らされている感のある斎藤元彦兵庫県知事が、8月30日に開かれた兵庫県議会の調査特別委員会「百条委員会」で初めて証言した。告発文に「20メートル歩かされただけで怒鳴り散らした」とある問題については、「(公用車)の進入経路が確保されていないことに怒った」と述べた。
普段テレビを見ない上、新聞も無料のネット記事頼みの筆者は、パワハラ問題の全貌を知っている訳でもなく、まして斎藤元彦氏の人柄や人物像もほとんど存じ上げない。が、この「20メートル歩かされた」件には興味があったので、ネットで経緯を調べた上で、親しい友人二人とそれぞれ居酒屋談義をしてみた。
結果はご両人異口同音、亡くなった人もいるとんでもない話で、知事は辞めるしかたあるまいと鰾膠(にべ)もない。3人寄れば大概議論は2対1に割れる。そうでないと酒も旨くないという訳で、筆者は他のことは措いて「20メートル歩かされた」件につき、しばしば反論に晒されながら以下の持論を展開した。
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このままだとおそらく知事は辞めることになるだろう。が、そうなると今後もこの「出張先の施設」を訪れる者が皆「20メートル歩かされる」ことになるが、それは兵庫県にとって好ましいことなのだろうか。調べると「出張先の施設」とは「兵庫県立考古博物館」なので職員は県職員であり、元締めは県知事だ。
知事が「20メートル歩かされた」のは去年11月のことで、当日はこの博物館で行われた地域の市長らとの意見交換の場に向かう際だった。車を降ろされた知事は「何でこんなとこに車止めが必要なんや。こんなに歩かせるなんてなにをやっとるんや」と怒鳴ったという(6月5日の「FNNプライムオンライン」)。
ならば意見交換に出席した複数の知事らも同様に「20メートル歩かされた」のだろう。筆者はこの記述を読んで、例えば皇室の方々や海外の要人などがこの考古博物館を訪れる際にも、その日の天候がどうであろうと、20メートル手前の車止めで車から降ろし、玄関まで歩かせるのだろうか、と友人二人に問うた。
報道で見る限り玄関までの道路は精々幅3メートルほどで、車がすれ違えるほどの道幅はない。が、1台が通るには十分だろう。とはいえ、もし見学者が多い場合などにも車の玄関横付けを認めるなら、それは不測の事故など起こりかねないと想像できる。なので、20メートル手前の車止めに意味がないとは言わぬ。
が、やんごとなき方々、海外からの来賓や政府要人など、言い換えれば事前連絡に基づいて受け入れが必要な人々が訪れる際には、予め車止めを撤去して車を玄関に横付けできるようにしておくことが「社会通念」からも当たり前の措置ではあるまいかと筆者には感じられる。それには知事も当然含まれる。
ところが叱責された同行職員は証人尋問で、「非常に強い叱責で、想定外だった。車止めなので触るのはどうかと思ったが、移動せざるをえなかった」と証言した。また委員から叱責について問われ、「社会通念上必要な範囲とは思わない。理不尽な叱責を受けたと感じている」と述べている。
筆者も40年近い宮仕えではいくつもの失敗経験がある。若い頃に重役のお供で工場を訪れた際の報告書に、「〇〇重役の工場見学」と書いてしまい、上司に「『見学』とは何事か、外部のお客様でもあるまいし会社の幹部なら『視察』とするに決まっているだろう」とこっぴどく叱責された。
こんなことを思い出しつつ、斎藤知事が辞任するとなれば、「兵庫県立考古博物館」を訪れる者は誰であろうと、また雨が降ろうが槍が降ろうが、車止めから玄関までの20メートルを歩くことになるのだろうし、他の案件ももしかすると大同小異で、この類のことかも知れないよ、と二人に述べた。
が、友人二人は、それはそうだがやはりこの知事には問題があるよ、と譲らなかった。