組織コンサルタントがこっそり教える、入社してはいけない会社の特徴(岩澤 雅裕)

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シニア講師/東北営業所 所長 岩澤 雅裕

さまざまな会社を見てきた識学講師の立場から、「入社してはいけない会社」にはどのような特徴があるかを解説します。転職を希望する方の助けになれば何よりです。

社員は歯車である

本題に入る前に、私が学生だった頃、経営学の講義の最終日に担当教授から聞いた言葉を紹介したいと思います。

「君たちは将来、会社で働くことになると思う。そのときは会社の歯車になる。願わくば、その会社にとって欠くことのできない歯車になって欲しい」

この言葉は、受講生に対するいわば「送る言葉」です。これを聞いたときに「サラリーマンには夢も希望もないってことか」と感じたのを今でも覚えています。

当時は、アルバイト経験こそあったものの会社でフルタイムの社員として働いた経験はもちろんなかったため、教授の言葉の意味を理解できませんでした。しかし、識学講師となった今は、この言葉が会社と社員の関係性を的確に捉えた興味深いものだと考えるようになっています。

教授が言う通り、社員は会社にとっての歯車なのです。

会社と社員の意識には「ずれ」がある

会社で働く社員は、自分の人生の一部をその会社に預けている感覚を持っているでしょう。しかしながら、組織コンサルタントの立場で社長と接していると、社長の感覚と社員の感覚には「ずれ」があることに気付きます。

社長は、社員に人生の一部を預けてくれることを望んでいるわけではありません。売り上げを伸ばし、事務処理を行い、商品を製造する働きが欲しいわけです。先程の教授の言い方を借りれば、「目標を達成するための歯車が欲しいのだが、その歯車は人の形をしている」ということです。

もちろん、社員は文字通りの歯車ではありません。社員は心を持ち、そして成長していく人間です。ときには会社が期待するような働きをしないこともあります。経営者から見れば、社員は限られた人生の限られた時間を会社での活動に使うことで生きる意味を見出すような、働く環境に応じて成果が変動する、なんとも不安定な歯車なのです。

社員は、それぞれの価値観のもと、働きがいのある職場で成長し、意味がある人生を送りたいと考えるでしょう。一方で会社は、目標達成のための歯車を第一に求めます。このずれをその会社の社長がどのように捉えているかが、今回のテーマである「入社してはいけない会社」を見極める上で一つのポイントとなります。

配慮はするけど遠慮はしない

社長は、歯車としての社員に可能な限り高速で回転してほしいと考えています。一方、社員の立場からすると、働きやすい職場で自分のやりたい仕事を自分のやりたい方法でやり、自分の納得できる報酬や地位を手に入れ、その先に成長の実感を得たいと思うはずです。

社長が個人の尊厳や働く側にとっての価値観を全く意識しなければ、社員は会社から離れていきます。しかし、社員側の意向が強すぎて会社が個々人の価値観に合わせるばかりであれば、歯車がかみ合わず成果が上がらない会社になり、遅かれ早かれ倒産してしまうでしょう。

理想は、社長が「配慮はするけど、遠慮はしない」ことです。優れた経営者は、会社が求める役割を明確にし、その役割を担う社員を採用した上で、社員がやりたい仕事と実際にやる仕事のマッチング度合いを引き上げます。

働きやすい職場をつくるための労働環境の整備、報酬や地位を決める際の透明性を高めて社員の納得感を醸成する環境をつくることで、社員に配慮します。そして、会社が求める目標達成に向けて遠慮なく指示を出し、目標に対する不足を埋める行動を促すことで、会社の業績を上げていくわけです。

この「配慮はするけど、遠慮はしない」というバランスがあってはじめて、社長と社員は同じ方向を向き、会社の歯車は効率的に高速回転することができます。

バランス感覚がある会社でなければ継続できない

求職者の方は、このバランスが適正かをチェックすることで「入社してはいけない会社」かどうかの判断を下すことになります。では、どうすればよいでしょうか。

入社するまでに、以下のような言葉を聞いたら要注意だと思いましょう。

① うちの会社は成果さえ出して貰えれば、給料はすぐ上がるし、あとは君のやりたいことを君が思うようにやることができるよ
② うちの会社は、ノルマもないし、上司と部下の関係もない、フラットな職場だよ

①の発言は、会社側の意向(遠慮しない)が強く、社員側の意向(具体的な配慮)が不明確な状態です。社員の多くは入社後、成果の出し方が分からないまま遠慮ない社長や上司からの指示を仰ぐことになります。できる人はできるけれども、できない人はずっとできるようにならない、そんな殺伐とした職場風景が想像できます。

また、会社には目標があるため、会社の目標を度外視して個人のやりたいことができる会社は存在しません。このような発言が出る会社は、求める社員像が明確ではなく、人が足りないからとりあえず採用しようという発想で動いています。入社後、事前のイメージと異なる仕事に就く恐れがあります。理想は、会社側が求職者に求める仕事の明確なイメージを提示し、その仕事が求職者のやりたい仕事と合致する状況です。

②のノルマや上下関係がないということは、中長期的なゴールをイメージできない会社である可能性が高いです。中長期的なゴールイメージに向かって、会社と社員を成長させるためには、具体的かつ計測可能な目標と、この目標達成のための調整機能としてのヒエラルキー(管理者としての上司)が必要になります。これがないということは、未来に向けての具体的な変化のイメージがないまま現状維持に甘んじている会社か、仕事が個々人の裁量に委ねられていて、組織としての体をなしていない会社のいずれかでしょう。

会社の意向と社員の意向が合致し、配慮と遠慮のバランスが取れていて、かつ会社と社員が同じゴールに向かっているのか。求職者の方はこれらをチェックしてみることをお勧めします。

バランスを取るための組織の仕組みとは

労働環境を整備したり、社員が納得できる報酬や地位を提供したりするためには、会社は遠慮なく社員に不足を埋める行動を促していくことが必要となります。業績が上がらなければ、社員に配慮することなどできないからです。この配慮と遠慮のバランスを取るために必要なものがルールと評価制度です。

ルールを設定し、配慮と遠慮のラインを明確にしなければ、社員は個々人の価値観でさまざまな要求を会社にするようになるでしょう。結果として社員同士がまとまらず、社長の場当たり的な判断で社員に際限なく仕事を求め、社員が疲弊していくことになりかねません。

評価制度が整うことで、会社が社員に求めていることと、社員が会社から求められていることが一致するようになります。明確で透明性の高い評価制度、報酬制度の運用により、社員の待遇に対する納得感を高め、社員にとっての仕事のやりがいを醸成していくこと、そして、会社が求める方向で社員がしっかりと機能することが実現できます。

ルールと評価制度の二つが整っていることが、バランスの取れた会社の条件の一つと言えます。

欠くことのできない歯車とは

冒頭に挙げた言葉の一節、「願わくば、その会社にとって欠くことのできない歯車になって欲しい」について考えるとき、会社の視点と社員の視点が交差する部分に、非常に興味を覚えます。

会社側の視点で見たとき、代替不可能な欠くことのできない歯車が存在することは許されないのです。その歯車がなくなると会社が継続できなくなってしまう状況になるためです。継続を前提に運営をしている会社という組織において、このような状態は即座に改善しなければなりません。

一方で、社員から見たとき、自身が欠くことのできない歯車であると感じることができる状況は望ましいものです。誰もが、「この会社で自分は代替可能な存在だ」と思って働きたくはないでしょう。

無機質な歯車に、代替不可能性を付与させるという矛盾を解消する方法は、会社と社員を共に成長させていくことです。成長できることが、本物の歯車と、歯車としての人間の違いです。

「会社が成長することで、社員が成長する」
「社員が成長することで、会社が成長する」

この相互作用が起こる状況になることで、社員は歯車として維持されながら、その瞬間において、代替不可能な存在になるのです。

「会社の成長期を支えた社員」
「会社の危機的状況を救った社員」
「大きな戦略的な転換を担った社員」

その瞬間では会社の歯車の一つであったとしても、将来のある時点で過去を振り返って見たときに、会社の歴史上でも社員の記憶のなかでも特別な存在になっているはずです。この状態が、欠くことのできない歯車になれた状態ではないでしょうか。

終わりに

会社の視点と社員の視点は異なることを理解した上で、社員が会社に求めるものと会社が社員に求めることのバランスが取れた会社を選ばないと、失敗します。そして、会社と個人が特別な成長を共有することによって、代替可能な機能としての社員が、将来の一時点から振り返ってみたとき、その会社にとっての唯一無二の存在になっているのです。

ご自身の視点からこの二つを見て、バランスが悪い会社、会社と個人の成長のイメージが重ならない会社であれば、入社を控えた方がでしょう。

岩澤 雅裕
一橋大学経済学部を卒業後、金融機関で法人融資業務などを担当。 その後、中堅中小企業向けのコンサルティング会社で役員として従事。資金調達や資金繰り支援、事業計画策定支援などを担当。 現在は東北営業所所長として勤務する。