どうする?老朽マンション:問題解決のための大技とは

日本には築40年以上たった老朽マンションが現在137万戸あるそうです。今後、この老朽マンションが飛躍的に増えるにあたり、その対策に頭を悩ましています。

老朽マンションの解体後の土地の値上がり分について非課税にするなどの優遇措置はありますが、分譲マンションの所有者にとって解体後の土地の大きさは区分所有なのでそれこそ、どんだけの土地の価値なのよ、と言わざるを得ない状態です。そんなの貰っても嬉しくもなんともない、それが実態でしょう。発想の転換が必要な気がします。

Masaaki Ohashi/iStock

カナダでは区分所有の法律が整備されたのは1970年代なのでそれまではマンション(分譲住宅、コンドミニアム)という発想がありませんでした。古い高層の建物の多くが賃貸マンションでこれは住民の権利がぶつかり物件により全く建て替えが出来ない迷路にはまっています。

例えばダウンタウンに「バンクーバーのハワイ」と私が勝手に称している海岸線沿いの南向き最高の立地にはそのような築50年以上の古びた賃貸の高層住宅がずらりと並びます。過去何度かデベロッパーが再開発を目指しましたが全てとん挫。その理由はそんな美しい眺めを賃貸住宅の住民は誰もギブアップしないから、であります。

日本の場合は先日も書いた「住めば都」という発想が強いのと定年後、安定した収入がなくなった方が引っ越しをする物理的ハードルの高さがクリアできないと思います。私は東京で賃貸物件事業もやっている関係で不動産屋といろいろ話しますが、大家に高齢者の入居者を避ける傾向が強いのはほぼ公然の秘密とされます。

なぜ嫌なのか、といえば賃料回収のリスク、あるいは病気などで知らぬ間に部屋で亡くなっていたというようなケースを極端に嫌うためとされます。これを逆に言えば高齢者にとって今住んでいる住宅から動けと言われたらカネの問題ではなく、俺の住む場所を探してからモノを申せ、ということなのでしょう。

日経に「老朽マンション、全面改修・解体に税優遇 再生後押し」とありますが、あくまでも建て替えに関する議決権とか税優遇など表面的な後押しだけであって本質的な解決策は提示していないのです。

築40年以上たった老朽マンションの居住者の平均年齢を想像したらわかるでしょう。仮に新築時、住宅ローンを組んだのが30歳だとします。しかも今から40年前と言えばバブルが始まる少し前で物件価格が上昇し始めた頃です。とすれば「住めば都」に「住宅ローンの呪縛」「下落するマンション価格で売るに売れない」方々がそのままずっと住んでいる確率はそれなりに高いはずでそれらの方々は当然70代になっています。

そんなところに建て替え提案をされてみることを想像したらよいでしょう。考えるまでもなく「ハンターイ!」です。今ならローンも終わり月々の管理費や修繕積立金が2-3万円で済むのです。それをアパートに移るだけで月に7-8万円の出費、しかも嫌がられる高齢者となれば全く機能しないのは自明の理であります。

ではお前ならどういう知恵があるか、と言われたらその物件の状況にもよります。例えば私は東京にいる時にサイクリングをする際、板橋の高島平団地とか北区の桐ヶ丘団地を通るコースがあり、そこを横目で見ながら思うことがあるのです。

このような団地の再生は比較的簡単だと。まず、2棟か3棟の複数の建物の開発計画案と買収案を第三者のデベロッパーが同時に発表します。その後、5割の同意が得られ買収が進んだとします。残り5割はたいがい上記の理由により動けない方々です。

そこでそれらの方々をその複数棟の中の一つの棟に集約させる、つまりわかりやすく言えば「恐れ入りますが、お隣の棟に移っていただけませんか?」です。団地なので間取りはほぼ同じ、場所も隣の棟なら了解は取りやすいでしょう。更に大規模開発前にそちらの建物の外壁や共有部を手直し、美化し、大規模開発が出来た時に老朽化陳腐化したイメージを出さないようにする、これが一つのギミックかと思います。

では単独のマンションの場合はどうするか、です。デベロッパーは正攻法で力づくの買収をしようとするから話がややっこしくなるのです。上述の通りカネの問題ではなく、安住の住処の問題なのです。よって老朽マンションのそばに一定規模の代替住宅を先に確保し、美化を行い、居住の確保を行う、これがやりやすいかと思います。

この大技が出来るのは一定規模のデベロッパーであり、管理組合がどれだけ知恵を出しても政府がどれだけ税制優遇をしても状況は改善しないのです。ただいわゆる日本のデベロッパーはイメージ第一主義でこんな泥臭い住宅の安定供給的な発想をする会社は少ないでしょう。UR都市機構も違うと思います。これができるデベがいれば老朽マンションの問題解決はだいぶ進むと考えています。

都市の再生とアップグレードは絶対に必要なのですが、人口減が進む日本に於いてそれほど立替需要が生まれるのか、という素朴な疑問もあります。災害時にエレベーターが使えないことを考えればむしろせいぜい20階建てぐらいに抑え、緑化を重視するような都市計画が必要ではないでしょうか?都市の進化とはむやみやたらに高層化することだけが能ではないと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年9月9日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。