日本のKawaii(かわいい)文化

‘可愛らしい’や‘愛くるしい’という時、ドイツ語では、niedlich、suss、hubsch、liebなど様々な形容詞があるが、それぞれ場所や相手によってその使用は変わってくる。niedlichという場合、やはり小さくで可愛らしい対象に使用する。小さな犬、猫、動物に対して使うケースが多い。可愛い赤ちゃんにはsussやliebもよく使われる。

わが家の小さな可愛いモルモット

ところで、今回はドイツ語の表現について話すつもりはない。niedlichな動物のポスターやぬいぐるみを部屋や職場、事務所に飾るだけで、それがストレス・キラーの効果を果たすという話を紹介したいのだ。そして日々生活や環境圏で可愛らしさ文化が溢れているのは日本社会というのだ。

独週刊誌シュピーゲル(2024年9月7日号)は、「Superkraft der Niedlichkeit」(可愛さの持つスーパーパワー)という見出しで、2ページに渡って可愛らしさのもつパワーを紹介している。ベルリン動物園で小犬や子猫、カバの赤ちゃんなどを見ると、人は一様にそれらを「可愛い」と感じる。動物園でカバの赤ちゃん「トニ」が誕生すると、動物園を訪問する人はトニの前で「なんて可愛らしいのかしら」と感嘆する。トニは、今年6月3日に生まれて以来、ソーシャルメディアで動物園のスターとなっているのだ。トニはベルリン動物園で北極熊クヌートの後継者だ。

興味深い点は、人間の頭脳には小さな動物を見ると、niedlich(愛らしい)といった感情や反応が生じるくることだ。そしてそれらの反応はアンチ・ストレス療法の役割を果たしているというのだ。

オーストリアの動物学者コンラード・ローレンツは著書の中で、「全ての生き物には小さくで可愛らしい赤ちゃんや動物を見れば、それを保護しようという本能のような作用が働く」というのだ。天敵の関係にある動物の世界でも相手の小さな動物の子を見れば、それを襲うことはなく、守ろうとするのだ。

神経学者には小さな生き物に対し、頭脳がどのように機能して可愛らしいという感情を生み出すのか、その感情は性別、文化、民族の違いで異なるのかなどを研究する学者がいる。通称、Cuteness Studies(可愛らしさの研究)と呼ばれる。その分野のパイオニアは神経学者Morten Kringelbach氏だ。同氏は「可愛らしさはスーパーパワーだ」と述べている。多くの学者は可愛らしいという感情がどのような神経ネットワークで生れてくるのかを脳磁図(MEG)などを駆使して研究している。興味深い点は、眼前に小さな動物や赤ちゃんがいると認識する前に、頭脳は既に「その対象は可愛らしい。保護する価値がある」というシグナルを発していることだ。

イスラエルの文化学者シリ・リーバー・ミロ女史(Shiri Lieber Milo)は長い間日本に住み、研究してきた。女史の現在の専門は「可愛らしさの心理学」だ。彼女は「規律が厳しい日本社会でポケモンやハローキティが溢れ、至る所に可愛らしさが見つかる」と述べている。

例えば、日本では人間の赤ちゃんは動物のベビーより可愛らしく感じる。一方、イスラエルでは逆だという。イスラエルは出産率が高い国だ。一方、日本は少子化社会だという人口学的な相違があるのかもしれない。また、可愛らしいものを身近に置いたり、見ることで日々のストレスを削減できるという。例えば、オフィスの壁に子猫のポスターを飾れば、ストレスが減少するという。

リーバー・ミロ女史は日本では小さな可愛らしいものへの需要が多く、日本の可愛い文化(Kawaii文化)を生み出しているという。同女史によると、日本の可愛い社会は一種の文化現象だが、可愛いものへの反応は国や文化を超えて同じだという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。