イスラエルの撤退を求める国連総会決議とガザ危機の関係について

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前回の記事で、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの「違法な存在」を12カ月以内に終了させることを要請する国連総会決議について書いた。

イスラエルのパレスチナにおける「違法な存在」終了を要請する国連総会決議について
9月18日、国連総会は、124カ国の賛成(14カ国が反対、43カ国が棄権)を得て、パレスチナ被占領地におけるイスラエルの「違法な存在」を12カ月以内に終了させることを要請する決議を採択した。7月19日の国際司法裁判所(ICJ)勧告的...

これについて、決議案に賛成した日本の山崎国連大使は、法の支配を重視する国として、力による領土の獲得を認めない立場から国際司法裁判所の勧告的意見を極めて重く見たこと、そしてイスラエルの入植活動がパレスチナとの2国家共存による和平の可能性を脅かしているという2点が賛成の理由であると説明した。

国連 イスラエルに占領状態終わらせるよう求める決議 採択 | NHK
【NHK】イスラエルによるパレスチナの占領政策は違法だとする国際司法裁判所の勧告的意見を受けて、国連総会で18日、イスラエルに対し…

だからというわけではないだろうが、SNSなどを見ると、「イスラエルの入植活動の停止を求めた決議」と理解している方もいらっしゃるようだ。

しかし「違法な存在(unlawful presence)」はイスラエルの一連の占領政策を指している。そのため、パレスチナ被占領地を構成しているガザにおけるイスラエルの占領政策の停止と、イスラエル軍の撤退が要請された。

ガザに対しても、ヨルダン川西岸地区と東エルサレムと同様に、イスラエルが1967年以降、占領を行っている。2005年にガザにおける入植を停止して入植者を撤退させ、それにともなってガザ地区内のイスラエル軍も撤退したため、2005年以降のガザは占領体制にはなかったのではないか、という見方もある。

しかしガザ地区内の居住者は、イスラエル企業に雇用されてイスラエル政府から特別に許可を取るような場合でなければ、ガザから出ることを許されない。海に面しているが、船で沖合に行ける距離も制限されており、海から外部に出ることも許されていない。エジプトを通るルートについても制限されている点については、同じだ。ガザが「天井のない監獄」と言われていた所以である。

また、イスラエルは、2005年以降、2023年以前にも、ハマスの拠点のみならず、アルジャジーラ支局など反イスラエル的と思われる施設や人物に対する軍事攻撃を繰り返していた。

2023年10月以降は、ガザ地区全域が廃墟となる中で、住民たちは依然としてガザの外に出れないため、ガザ地区の中だけで逃げまどっている。監獄に閉じ込められ、断続的に暴力を振るわれる人物が、管理者の統制下にあるのは自明なので、ガザについても世界の大多数の人々は、2005年以降もイスラエルの占領体制下にあるとみなしているわけである。

7月19日のICJ(国際司法裁判所)勧告的意見と、9月18日国連総会決議は、この見解を正式に法的に正しい見解として採用している。ガザは、入植活動の対象ではなくても、「パレスチナ被占領地」の一部であり、パレスチナ人民の自決権行使の不可欠の構成要素である。

ICJ勧告的意見と国連総会決議は、イスラエルの「パレスチナ被占領地」からの撤退を求めているが、これにはガザからの撤退も含まれる。

イスラエルの「継続的な違法な存在(continued unlawful presence)」は、1967年から続いていると考えられているため、2023年10月以降の軍事作戦の停止は、「違法な存在の終了」の一部ではありえても、十分条件にはなりえない。ガザを「屋根のない監獄」の状態から解放することが、イスラエルの「継続的な違法な存在の終了」である。

前回の記事でも書いたが、「占領」概念それ自体は、必ずしも自動的には違法だとは断定できない状態を指す概念である。なぜなら、たとえば合法的な自衛権行使の結果として、あるいは集団安全保障に基づく行動の結果として、一時的に他国の領土を「占領」することは、起こりうる可能性があるからだ。

たとえば、現在、ウクライナは、ロシア領クルスク州の国境の町スジャ及びその周辺地域を「占領」している。これについて、「違法」だという声はあがっていない。ロシアのウクライナに対する侵略行動が違法であると想定され、ウクライナがそれに対して合法的な自衛権を行使し、クルスク侵攻作戦がそのウクライナの自衛権行使の一環として行われている場合、「占領」も違法性は阻却されるはずである。これは「武力行使に関する法(jus ad bellum)」の観点から精査される事項だ。

あるいはイスラエルも、1967年当時の状況だけを見たら、安全保障上の懸念を除去する自衛目的の行動の一環として、現在「パレスチナ被占領地」と呼ばれている地域を「占領」したと言えるかもしれない。

しかしICJ勧告的意見は、その後半世紀以上に渡る長期の「継続的な占領」が、そのような理由で合法性を認められる可能性はない、と判断している。入植活動その他の一連の占領政策は、仮に完全「併合」の宣言を伴ったものでなかったとしても、事実上の「武力による領土獲得」を構成している、と考えざるを得ないものだ。

ICJの勧告的意見については、多数派の判事が、「武力紛争中の行為に関する法(jus in bello)(国際人道法)」の理由をもって、「武力行使に関する法(jus ad bellum)」(自衛権行使と占領の関係はこちらに属する)の事項の判断をしているのではないか、という見方もあるようだ。

しかし「継続的で事実上の力による併合」の要素を伴う占領は、合法性を認められない、というのが、ICJの判断だ、と考えるのが妥当だろう。国連総会における多数派の諸国も、そのような判断をした。

こうした経緯があり、ICJとそれを踏襲した国連総会は、イスラエルの「違法な存在」という概念を用いている。仮に「占領」概念には合法性を認められるものがあったとしても、あるいはイスラエルのガザ政策に安全保障上の考慮に基づく事情があったとしても、さらにはガザに対するイスラエルの政策は純粋な意味での「占領」ではないと主張する者がいるとしても、なお現実の「イスラエルの継続的な違法な存在」は、違法であるがゆえに、決して認められない、という立場を、ICJも国連総会も、とっている。

別途、ジェノサイド条約に基づく仮保全措置命令によるガザにおける軍事行動の停止をICJから求められている(そして無視している)イスラエルは、「国際社会の法の支配」から完全に逸脱している状態にある。

今回、日本が国連総会決議に賛成票を投じたことは、日ごろから「法の支配」を重視していると説明している日本政府の外交姿勢の一貫性を保つために、絶対に必要なことであった。公然と「二重基準」をとって臆さないような国になってしまえば、日本のような実力の国では、とても国家運営を円滑に維持していけない。

ただし日本の国会には、親イスラエルの姿勢をとり、イスラエルに依頼されたかのような国会質問を繰り返す議員もいる。そうした国会議員の先生方には、是非この機会に、日本外交と「法の支配」について、真剣に考え直していただきたい。

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