ドイツ東部のブランデンブルク州議会選挙は22日、投開票が実施され、与党「社会民主党」(SPD)が躍進する極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)を僅差で抑え、第1党を堅持した。一方、「キリスト教民主同盟」(CDU)は前回選挙(2019年)より得票率を失い、左翼党から離脱して新党を結成した「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」(BSW)の後塵に甘んじ第4党。ショルツ連邦政権で与党の「緑の党」と「自由民主党」(FDP)は議席獲得に必要な得票率5%の壁を破れず、いずれも州議会議席を失った。
選挙管理委員会によると、SPDは得票率30.9%で前回選挙より4.7%増、ブランデンブルク州で11年間首相を務めてきたボイトケ首相(62)の個人的人気もあって今月実施された東部3州議会選でSPDは初めて第1党となり政権を維持した。複数の世論調査で一貫してSPDを抜いて第1党と予想されていたAfDは29.2%で前回比で5.7%得票率をアップさせたが、SPDに惜敗。第3党にはBSWが13.5%でテューリンゲン州とザクセン州に続き、二桁台の得票率を獲得した。CDUは前回比で3.5%得票率を落とし12.1%に甘んじた。
一方、「緑の党」は得票率4.1%で前回比でマイナス6.7%と大きく票を失った。「緑の党」はテューリンゲン州議会選でも3.2%に終わり、議席獲得に必要な得票率5%の壁をクリアできずに州議会で議席を失ったばかりだ。ザクセン州議会選では5.1%と辛うじて5%を超えた。FDPは9月に実施された3州の議会選ではいずれも完敗し、3州議会には議席を有していない。BSWに票を奪われた左翼党は得票率3%で前回比マイナス7%の大敗を喫した。投票率は約72.9%と前回の61.3%より大きく上回った。
州議会の定数は88議席だ。SPDは32議席を獲得(2019年:25)、AfDは30議席(23)、BSWは14議席、CDUは12議席を獲得した。過半数を獲得するには45議席が必要だ。SPDはこれまでCDUと「緑の党」の3連立政権を組んできたが、「緑の党」が5%の壁を突破できず議席がない。ボイトケ首相はCDUとだけでは過半数を獲得できないので、BSWの政権参加を促すことを検討しているという。いずれにしても、東部3州議会選ではAfDと連立政権を組む政党がないことから、安定した新政権組閣に難航することが必至だ。
ブランデンブルク州議会では、ショルツ政権の行方を左右する選挙と受け取られた。もう少し厳密にいえば、ショルツ首相の首がかかっていた。東部3州議会選で敗北するならば、SPDは「ショルツ首相では選挙に勝てない」ということで、ショルツ首相落としが本格的に始まるだろうと予想されていた。その意味で、有権者200万人のブランデンブルク州議会選とはいえ、SPDが第1党となったことでSPDだけではなく、ショルツ首相個人にとっても朗報だ。
ところで、ボイトケ州首相のSPDがなぜAfDを破り第1党を堅持することができたかを見てみる必要がある。投票2日前、ボイトケ州首相は「SPDがAfDに敗れて第2党となれば、私は辞任する」と表明し、州国民に「私の政権を維持させたいか、どうか」の最後通告を発している。同州を11年間担当してきたボイトケ州首相は人気のある政治家だ。州の経済もドイツ東部ではトップだ。オーストリア国営放送のドイツ特派員は「ブランデンブルク州議会選はボイトケ首相の過去11年間の政治への信任投票だ」と述べていた。同州のSPDの選挙ポスターには、「ボイトケを望むならSPDに投票を」と書かれていた。
興味深い点は、ボイトケ首相は連邦政治で批判に晒されているショルツ首相の選挙応援を断っていたことだ。ボイトケ首相は連邦SPDとの距離を置いてきた。「暖房法案に反対」「農業補助金削減に反対」「市民給付の増額に反対」「大麻の合法化に反対」といったように、ショルツ政権の政策に対して批判的な立場を取ってきた。ボイトケ首相の勝利が決まった22日、ショルツ首相はニューヨークで国連主催の「未来サミット」に参加していた。ボイトケ首相は電話で選挙の結果を報告したというが、詳細な内容は明らかにしていない。
第1党を維持したボイトケ首相は「州を極右政党に委ねることは絶対にできないから、全力を投入してきた。ただ、AfDが州国民の3割の支持を得ていることを深刻に受け取らなければならない」と語っている。
ショルツ連立政権はSPD、「緑の党」、FDPの連邦レベルでは初の3党連立政権だ。来年秋には連邦議会選挙が待っているが、予算問題から移民対策まで連立政権内の政策の違いから対立が絶えなかった。FDPは東部3州議会で議席がなく、「緑の党」はザクセン州だけで辛うじて議席を確保するといった惨憺たる結果だった。東部3州ではショルツ連立政権は存在しないのに等しいわけだ。ブランデンブルク州議会でのSPDの勝利はあくまでもボイトケ首相の個人的人気と11年間の実績によるものだ。その意味で、SPD内でショルツ首相への辞任要求は治まらないだろうという声が依然強いわけだ。
なお、ドイツでは「ブランデンブルク州議会選が終われば、来年の総選挙のキャンペーンが始まる」といわれている。確かな点は、SPDはショルツ首相を次期総選挙でも党筆頭候補者にするか否かで、SPD内の議論は更に熱を帯びてくることだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。