黒坂岳央です。
世の中で男女以上にわかり合えない関係が、社長とサラリーマンである。時にそれは真逆といっていいほどの違いだ。個人的見解を述べたい。
時間
社長とサラリーマンで最も価値観が異なるものが「時間」に対する感覚である。
自分はサラリーマンの頃、電話がかかってくることや営業されることにまったくの心理的抵抗はなかった。勤務時間中はむしろ気晴らしや雑談もあってウェルカムという感覚であった。
だが独立するとこの感覚は一変、とにかく営業電話嫌い、飛び込み営業嫌いになってしまった。理由はシンプルに時間を奪われるからである。同じ感覚を味わうなら、土日の午前中にのんびり過ごしている時間に突然、訪問販売されると想像してもらうとわかりやすいはずである。もちろん、相手と事前に通話するアポがあれば何も感じないし、突然の電話が嫌だといっても緊急連絡は仕方がない。あくまで「飛び込み営業」のような先方の都合100%の場合だ。
「お得なキャンペーンなので」といわれても、必要なタイミングの必要なものでなければ要らない。たとえ普段100万円で販売されているものを無料でプレゼントすると言われてもまったく要らない。特に疲れて仮眠中にかかってくる電話や、仕事が鉄火場に差し掛かっている時の飛び込み営業の対応はとても疲労してしまう。いっそ電話自体をなくしたいが、子どもの学校からの緊急連絡もたまにあるのでそれもできない。
この感覚の違いはどこから来ているのか?サラリーマンは月給なので勤務時間中はどう行動しても影響は少ない。自分は最後に勤めていた会社はホワイト企業だったので、暇なタイミングも多く日中に電話が来てもなんら影響はない。
しかし、独立すると持ち時間はすべて有意義に使うかどうかで、自分の仕事にダイレクトに影響する。相手の都合に振り回される突然の電話や飛び込み営業は、道を歩いていたらいきなり殴られて金品を奪われる暴力に近い感覚なのだ。実際、飛び込み営業に貴重な時間を強奪されている。
お金
お金についての感覚もずいぶん違う。
自分はサラリーマンの頃、恥ずかしいことにケチケチしていた。元が貧しかったというのもあって、貯金を減らすことの恐怖感は人一倍強くてお金を使うとそれがたとえどれだけ欲しいものでも「損をした」という感覚を拭うことはできなかった。それでいて全然貯金も持っていなかったのだ。
独立した今はお金を使うことの感覚がずいぶん変わった。お金を使うことは損をする、というのではなく「将来の利益を作るための先行投資」という感覚に変化したのだ。本を買う、映画を見る、カフェで会話する、旅行へ出かける、最新ガジェットを使う、これらすべてが何らかの仕事に直結する。
本を読めば知識への投資、映画を見るのは感性への投資、人との会話は人生観を広げ、旅行も同じ、最新ガジェットは効率と時間への投資である。つまり、お金を100使っても減らずに、105とか120になって返ってくる。
この感覚の違いは表現力の差である。サラリーマンの頃は会計職についていた。この仕事では会計に関する活動以外はすべてプライベート支出である。だが、現在は色んな仕事をしているのであらゆる体験が「仕事としての自己表現」になる。人生経験は記事や動画の中で話すことも多く、ビビッドな体験がなくなれば話すことが尽きてしまうのでむしろ、意識的に投資し続ける必要があるのだ。
人間関係
最後に人間関係である。サラリーマンの頃の人間関係とは「職場で摩擦を減らし、人事権を持つ上司に気に入られて昇進してもらうためのもの」。そのため、退職するとこうした人脈、人間関係は完全にリセットされて、新たな職場で一から構築するという感覚だった。
だが独立するとあらゆる人間関係は、次の仕事の呼び水になり得る。先日、あるイベントで偶然仲良くなった人と意気投合をして「よかったらうちのメディアであなたを記事に取り上げましょうか」という話になった。結局、色々話す過程でお互いの条件があわずに話は流れたが、サラリーマンだとあり得ないオファーである。また、お金を頂いているお客さんと協業で仕事をすることにつながったこともある。
よく「仕事は人脈が大事」という話があるが、サラリーマンは社内に限定される事が少なくないのであまり人脈は関係ない。一方で独立すると人脈は直接仕事に影響する。仮に自分がすべての仕事を失っても、それを関係者に知らせれば誰からか即仕事をもらえる自信がある。人脈は独立後の方が圧倒的に重要になるのだ。
もちろん、人脈を「自分に都合のいい人リスト」みたいに考えるテイカー思考は論外であり、一緒に気持ちよく仕事ができる人リストのギバー思考であることは大前提だ。
◇
サラリーマンと独立した人とでは、時に真逆と言えるほど感覚が違う。自分は昔ガチガチのサラリーマン思考だったが、立場が変われば感覚もあっという間に変わってしまう。時々、取引先の担当者や営業マンと会話してかつて持っていたが今は変化した「サラリーマンの感覚」に触れるたびに遠い昔の思い出のアルバムを開いたような懐かしさを覚えることがある。
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