投資の成果は、投資対象と投資環境によって規定されるから、投資の巧拙を評価するためには、市場、即ち、投資の対象となる範囲を確定し、確定された範囲毎に、投資環境の動向が測定されなくてはならない。ベンチマークとは、そうした投資収益率を評価するときの外部参照基準である。
実は、投資の世界には、年金基金等の機関投資家や投資運用業者があって、大きな社会的責任のもとで運用をしていて、こうした社会的責任を負う投資家にとっては、説明責任を果たすために、ベンチマークが必要なのである。
説明責任とは、説明の対象となる事実の原因について、誰にでも検証可能な客観的事実によって説明することだが、例えば、マイナス10%という投資成果の事実について、その原因を問われたときに、ベンチマークもマイナス10%ならば、いとも簡単に説明できるわけである。
なお、投資の基本は分散だから、どの投資家も、複数の投資対象に分散投資している。そこで、資産全体についてベンチマークを設定するためには、投資対象毎にベンチマークを定めて、資産配分、即ち、各投資対象への配分比率の加重をかけて平均をとる必要がある。こうして算出されたベンチマークは、複合ベンチマークと呼ばれる。
説明責任とは、別のいい方をすれば、責任の所在を説明することだから、実際の投資収益率のうち、ベンチマークで説明される部分についての責任は、誰にも帰し得ないことになり、ベンチマークとの差異についての責任は、機関投資家自身に帰属することになる。ちなみに、機関投資家の機関とは、その責任を負う主体のことである。
投資運用業者の投資収益率については、ベンチマークで説明される部分は、顧客の責任に帰されるものである。なぜなら、ベンチマークとは、顧客が投資運用業者に委託するときに、投資対象として指定した範囲に対応するものだからであって、投資運用業者は、むしろ、顧客の指示に従って、ベンチマークを参照して投資する義務を負うわけである。
また、実際の投資収益率とベンチマークとの差異は、投資の巧拙を示すもので、投資運用業者は、それが傾向的に正の値になることをもって、事業目的としているのだから、投資運用業者の責任に属することは自明である。そして、投資運用業者には、差異についての説明責任があるというよりも、ベンチマークを下回ったときの言訳の必要性と、ベンチマークを上回る根拠についての営業話法があるというべきである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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