安倍を6連勝させた右から3割の岩盤保守は比例で自民に入れない

第50回衆院選が15日公示され、9党と無所属の1300人超が全国289小選挙区と11ブロックの比例代表の計465議席を争う。石破総理は勝敗ラインを「自民と公明党で過半数」としつつ、「それよりも少しでも議席をいただければありがたい」と語った

3年前の衆院選では自民261、公明32の合計293議席だった。定数465だから過半数は233議席だ。公明は毎回ほぼ全員当選だから自民は201、すなわち60議席減らしても「勝った」というつもりらしい。

自民は直近4回の衆院選で単独過半数を得ている。これでは何のための解散か判らない。実に呆れた話で自民党支持者はたまったものではない。本稿では、長らく「党内野党」だった石破氏の総裁選での主張と就任後の「変節」、旧安倍派のみならず自民党にもトドメを刺すかも知れぬ「不記載」議員への再処分などが、衆院選での有権者の投票行動にどう影響を与えるかについて、素人なりに分析をしてみたい。

石破首相インスタグラムより

『産経』が12日、「自民30減、立憲24増で自公議席過半数割れも」との見出しで、選挙プランナー松田馨氏による『夕刊フジ』の選挙予測記事を転載した。記事で松田氏は「自民党は、現有256議席から30議席減、小選挙区165、比例61の226議席」と予測した。小選挙区はプロの予測を信じることし、筆者は「比例」に限ってマクロ予想を試みる。

その理由は、小選挙区を云々できるほどの情報を持ち合わせていないからだが、比例については、石破執行部が今回一部「不記載」議員の重複立候補も認めなかったことや日本保守党が比例を中心に30名擁立したことなどを含めて、自らも一人の有権者として、素人にも有権者の投票行動を予測し得る世論調査や各種報道など判断材料が頻繁に提供されているからだ。

以下に、21年10月の衆院選の政党別の比例獲得議席と得票数と共に、それを基礎として筆者が予想した今回の比例区の議員数を予め示しておく。

政党 合計 小選挙区 比例区 比例区今回予想
議員数 議員数 得票数 得票率 議員数 得票数 得票率 議員数 得票数 増減
自民 261 189 27.6 48% 72 19.9 35% 39 11.0 ▲33
立憲 96 57 17.2 30% 39 11.5 20% 48 13.0 9
維新 41 16 4.8 8% 25 8.1 14% 32 9.0 7
公明 32 9 0.9 2% 23 7.1 12% 23 7.0 0
共産 10 1 2.6 5% 9 4.2 7% 10 4.5 1
国民 11 6 1.2 2% 5 2.6 5% 10 4.5 5
れいわ 3 0 0.3 0% 3 2.2 4% 4 2.5 1
社民 1 1 0.3 1% 0 1.0 2% 0 1.0 0
保守               10 5.0 10
合計 465 289 57.45   176 57.47   176 57.5

(得票数の単位:百万票)

前回の結果から幾つか傾向が読み取れる。先ず小選挙区の立候補者の多い自民と立憲は比例の得票が少ない。公明は候補を立てない選挙区の自民候補に「比例は公明」と言わせているので、その分自民の比例票が減る。他の野党も総じて比例票の方が多く、特に「れいわ」は比例のみで3議席を得た。「日本保守党」もこの線を狙って、小選挙区は河村たかし氏ら愛知の4人に絞った。共産は今回200近い小選挙区に立てるので比例票を増やすだろう。

松田氏は自民比例を▲11議席の61議席と見ている。が、筆者にはその程度の減少で収まるとは思えない。石破執行部は「不記載」議員12名の非公認者を含む34人に比例との重複立候補を認めず、代わりに泥縄で小泉選対委員長を中心に64人を比例単独に追加した。党への逆風を踏まえ総裁が若手や女性中心の選考を指示したそうだが、これらの大半は受かるまい。

自民党の世論読み違え振りには呆れる。その淵源は拙稿「懺悔なしでの岸田不出馬は『責任の放棄』」*に書いた通り、①「旧統一教会問題」②「LGBT理解増進法」③「不記載問題」での岸田総理総裁のハンドルミスにある。当初から彼に安倍派潰しの意図があったとは思われないが、②の最終処理を任されたのが清和会の後継と目された萩生田政調会会長であり、③も清和会ぐるみが多かったことで、結果的にそうなった。

これらの相乗効果が岸田政権の支持率を急落させた訳だが、石破氏は総理就任後これらの火に更に油を注ぎ、支持率、延いては選挙結果に大きな影響を与え得るミスを幾つも犯した。それは選挙中に主張した「アジア版NATO」「日米地位協定改定」「直後の解散否定」等々を悉く掌返ししたことだ。中でも最悪なのは「不記載」議員の再処分断行である。

総理自身は総裁選中に再処分を否定していたし、森山幹事長もこれと同意見との報道があった。従ってこれは、総裁選中にこの問題をあちこちで謝罪しまくっていた小泉選対委員長が、選対として責任が持てない、などとでしゃばって、両ベテランを焚きつけたと筆者は考えている。これに同意する年寄り二人の議員経験とは一体何だったのか。

その結果は、13日に夕方に『共同通信』が配信した世論調査「石破内閣の支持率は42%、不支持率36%」に早速反映された。政権発足時には各社ほぼ50%前後だったから8%ポイントの急落だ。だが一方では、11日に『日本農業新聞』が631人の農政モニターから回答として「支持65% 農業政策に『期待』6割」といった浮世離れした報道もある。

さて、筆者の見るところでは岸田内閣の支持層と不支持層は次の4つのグループからなっている。①左派の主流新聞やTVワイドショーに煽られたいわゆる情弱層と選挙に関心薄い浮動票層、②習慣的に自民に投票している地方に多い層、③安倍政権を支えた強固な保守層、④何があろうと反自民の左派リベラル層である。

各グループが有権者57百万人余の何%を占めるかを、数字が判り易い方から埋めてゆくと、④は政党支持率では10数%、比例選挙では30数%なので25%と置く。③は右から2割とか3割とか言われているので25%とする。残り50%の区別は難しいが、①と②を半々の25%ずつと置く。すると①~④が各々25%となる。

筆者は今回の石破総理自身の「変節」と執行部による「不記載」議員の非公認+比例重複禁止のせいで、③は誰が候補者かに関わらず比例投票で自民党に入れない者が大半と思う。つまり、泥縄追加を含む比例単独候補76人の内、当選するのは単独比例上位の野田聖子ら23人の一定部分と比例復活者だ。従い、その減少分がどの党にどれだけ回るかが本選挙のポイントである。それは④には1票も回らず、日本保守、維新、国民の保守系野党3党に回る。

次に③以外の自民党票の行方について、②の多くは『農業新聞』に代表される地方票だが、さすがに今回は25%の2割(=5%分)が野田立憲に、同じ5%分が他の野党(維新や国民や日本保守)に流れよう。①には「裏金処断」に快哉を叫ぶ層も多かろうが、逆に「不記載なのに」と考え始めている層もあり、これも25%の4割(10%分)が立憲と維新と国民と日本保守に行くのではなかろうか。

極めて荒い数字を置いたが、都合自民のマイナスは25%+10%+10%=45%となる。これの主たる受け皿には日本保守党が成るだろう。なにしろ「LGBT法」に憤慨して立ち上げた保守派のための党だから、25%分は流れるだろう。残りの20%分は公明党には行かずに、立憲と維新と国民に行くはずだ。

これを前述の前回比例獲得票に当て嵌めると、自民は20百万x55%=11百万票(▲9百万)だ。行先の内訳は日本保守党に20百万x25%=5百万、立憲に1.5百万、維新に1百万、国民に1百万と見る。ドント方式は複雑なので議席の増減は腰だめの数字だが、前表の通り自民が失う33議席を日本保守+10、立憲+9、維新+7、国民+5で分け合うだろう。立憲の増え過ぎはドント方式の妙を見込んだ。

松田氏の自民の小選挙区予想165議席(前回から▲24)に筆者予測比例39(前回から▲33)と公明の現有32を足すと236議席で、自公で過半数は維持しそうだ。辛うじて石破総裁の目標は達成するが、これで勝ったとは到底言えず、石破降ろしの政局になるのは必至だ。

石破執行部の世論の読み違いの原因は、左派メディアの影響を大きく見過ぎることだ。今ではNHKですら「裏金」と言わず「不記載」と報じるようになった。筆者は1月の拙稿「保守主義の手法は既存を維持しながらの改革」で「焦点は『収支報告書への不記載』に尽きる」とし、4月の「犯意の有無を蔑ろにする岸田自民党の迷走」で「裏金」との表現は「『私的に使われた』という決め付けだ」と難じた。石破総理も漸く党首討論で「不記載」だと色をなして反論したが、遅きに失している。

日本人は古来「判官贔屓」の民族だ。旧安倍派の「不記載」にしろ、兵庫県知事の事件にしろ、一億総バッシング状態になるとこの民族性がふつふつと姿を現す。「不記載」にしろ「パワハラの内部告発」にしろ、それを構成する1件1件の事実を軽視したり、その解明を蔑ろにしたまま、雰囲気で叩くことは厳に慎むべきだろう。日本人に「打落水狗」は馴染まない。