インデクス運用の功罪と投資家の責任

ベンチマークとは、投資収益率を評価するときの外部参照基準だが、年金基金等の機関投資家や投資運用業者は、大きな社会的責任のもとで運用をしていて、こうした社会的責任を負う投資家にとっては、説明責任を果たすために、ベンチマークが必要なのである。

投資運用業者にとって、ベンチマークで説明される部分は、顧客の責任に帰されるものである。なぜなら、ベンチマークとは、顧客が投資運用業者に委託するときに、投資対象として指定した範囲に対応するものだからであって、投資運用業者は、むしろ、顧客の指示に従って、ベンチマークを参照して投資する義務を負うわけである。

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ベンチマーク評価には、投資運用業者の行動を説明しやすい方向へ傾斜させる弊害がある。例えば、株式投資において、銘柄を厳選して少数に絞り込めば、ベンチマークの収益率が高いときに、著しく劣後した結果を生じて、まさに説明のつかない事態に陥る可能性があるからである。しかし、説明は投資の目的ではないから、説明しやすさの追求は、投資の能力の発展を阻害するだけのことである。

では、機関投資家が投資運用業者に委託するとき、どのような責任関係になるのか。機関投資家の総合収益率と複合ベンチマークを比較したときの差異は、確かに投資運用業者の巧拙を示すものだが、機関投資家自身の責任が問題とされるときには、投資運用業者の選択の巧拙に関する責任が問われることになる。つまり、機関投資家は、自己の責任のもとで投資運用業者を選択して委託するのであって、そのことで責任が投資運用業者に転嫁されることはあり得ないのである。

そこで、インデクス運用があるわけだ。インデクス運用とは、ベンチマークと同じ投資収益率が実現するように、投資内容をベンチマークの属性と一致させることである。機関投資家がインデクス運用を利用する背景には、いくつかの理由があるが、投資運用業者の選択に関する責任の放棄は、必ずしも自覚的に意図されることではないにしても、重大な帰結であることは間違いない。しかも、インデクス運用の拡大は、投資運用業者の説明しやすさの追求と相まって、投資能力を低下させるという更に重大な帰結を招いているのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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