不祥事に見る階層型組織オワリのはじまり:改善力を鍛える階層型組織2.0

はじめに:不正の連鎖、そして「上にモノが言えない雰囲気」

日本を代表する名門企業による耳を疑うような不正が続々と明らかになっている。IHIの子会社が船舶用エンジンのデータを改ざんしていた。燃費や排ガスの数値をごまかす行為は1980年代から続いており、この20年間だけでも不正の対象は9割弱の製品に及ぶという。

同様の不祥事は枚挙にいとまがない。ダイハツ工業、日野自動車、三菱電機など、いずれも有力企業だ。

トヨタグループの一角をなす豊田自動織機については、フォークリフト用エンジンの排出ガス試験において、法規に定められた手順を踏まなかったことが原因で発覚。この不正行為は、少なくとも2014年から行われていたとされている。

同社ウェブサイトに掲載されている「エンジン国内認証に関する調査結果について特別調査委員会調査報告書(公表版)」が極めて示唆深い。組織をむしばんでいくのです。

当該社員および管理職へのインタビュー返答が「」でほぼそのまま記載されており、身につまされる内容が記載されている。

特に後半は組織論に言及されている箇所が多数あり階層型組織の弱点が露呈している。

・開発室の室長等に対して、無理のあるスケジュールであるということを伝えたが、スケジュールが変わることはなかった。

・量産開始日を遵守するほかに選択肢はなく、量産開始日を遵守するためには、何らかの法規に反する行為に及ぶ必要があるものと認識していた。しかし、グループマネージャーに対して、メールで量産開始日を遵守するよう露骨に指示することははばかられたため、メールに返信することはしなかった。

・上司に相談したところでどうせ『何とかしろ。』などと言われる雰囲気があり、技術部長に相談したとしても無駄であると半ば諦めていたため、技術部長に報告することはなかった。

・「産業車両用エンジンの開発部門においては、上司に相談したところでどうせ『何とかしろ。』などと言われる雰囲気があり、技術部長に相談したとしても無駄であると半ば諦めていたため、技術部長に報告することはなかった。技術部長経験者らは開発スケジュールに無理があったとは認識していなかったと口を揃えているし、週報にトラブルの記載があったことなどにも十分に意識に止まらなかったなどと述べている。

抜粋:豊田織:エンジン国内認証に関する調査結果について 特別調査委員会調査報告書(公表版)より

例として豊田自動織機の第3者委員会による報告書をあげたが、ほぼすべての不祥事に関する報告書類には判で押したように「上にモノが言えない雰囲気だった」という種類の述懐がなされている。

一方で、まとめ部分の、「不正の防止という観点からは、「人は不正を行うものである」との前提に立った対策を講じることも重要である。(中略)人の恣意的な介在を排除し、不正が入り込む余地をなくすことが可能となる。」が弱点克服のヒントになる。

本コラムでは、一連の不祥事から階層型組織の弱点を捉え、階層型組織のままその弱点を克服する方策を検討したい。

Ⅰ:階層型組織の弱点と「不正のトライアングル」

不正のトライアングル

不祥事の発生メカニズムとして米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーの研究をもとに、会計学者のスティーブ・アルブレヒトがモデル化した「不正のトライアングル」というフレームワークを用いたい。

不正は動機・機会・正当化の3要素がそろった状態で発生しやすいとしている。一連の自動車業界における認証不正。

これに関連する調査報告書でも納期へのプレッシャーが動機となり、品質部門の脆弱性が機会を創出し、品質に問題がなければよいと正当化する、という3要素の存在が指摘されている。

また、以下の問題も指摘している。

動機:納期を厳守しながら規定通りの検査を実施するという、同時に果たせない複数の要求が課せられジレンマが発生していた

機会:軽微・グレーな行為から始まって一線を踏み越えた

正当化:改善の声をあげても上司支援が得られず、致し方なしという雰囲気の醸成

階層型組織の弱点=情報流通不全

「不正のトライアングル」はまさに負の連鎖であるが、階層型組織における最大の弱点=情報流通不全が事態の発生・悪化を助長し、予防・防止を阻害している。

  • 情報伝達の遅延: ピラミッド型組織では情報が上から下へと階層的に伝達されるため、情報が変形したり、遅れたりする可能性がある。
  • 情報の歪曲: 中間層による情報の絞り込みや加工が保身などの目的で行われることがあり、組織内での情報の歪曲が生じる可能性がある。
  • コミュニケーションの障壁: 階層が多いピラミッド型組織では、部門間や階層間のコミュニケーションが円滑でない場合があり、セクショナリズムや部分最適化が台頭し、協力が難しくなることがある。
  • 創造性と革新の抑制: 上層部の意思決定が中心となるピラミッド型組織では、従業員の創造性や革新が抑制され、ボトムアップでのイノベーションが生まれにくい。

どうやら階層間で発生する情報流通の「遮断」「歪曲」「蒸発」が発生すること、これらにより精度の高い意思決定ができなくなることが弱点と見て取れ「不正のトライアングル」発生に寄与してしまっている。

ちなみに、この弱点の解消を構造的に乗り越えようとして着想された組織がティールやホラクラシー、DAOといったフラット型、自律分散型組織である。階層型組織の弱点を論じる時に組織構造を変えればいい、という主張も多く存在することを認識しているが本コラムではそのスタンスは取らない。あくまで、

階層型組織の弱点を階層型組織のままで克服する

ことにこだわりたい。

理由はそもそもこれらのフラット型組織の特徴を紹介するだけで1本のコラムが成立することと、まだ実証的にその有用性を証明する企業の件数が少ないこと、また論理的に考えて市場への価値提供を継続的に発揮する組織形態としてのデメリットが散見される点である。

この点については多くの読者や世の経営者管理者と広くディスカッションしていきたいテーマである。

参考著書①:「サイロ・エフェクト」ジリアン・テット(ファイナンシャル・タイムズ紙の副編集長)

情報流通不全を引き起こす構造的要因に「サイロ・エフェクト」があげられる。「サイロエフェクト」は、企業が成長を続けて、規模が大きくなっていくとほぼ確実に起きる現象で、顧客のための全体最適よりも、部署ごとの売上高や利益などの数字を守ることが重視されるようになる。

こうなると、部分最適化が各所で進行してしまう。

組織や企業内で部門やチームが互いに情報やリソースを共有せず、孤立した状態になることが発生し、パフォーマンス阻害要因となる。まさに、不祥事に見る原因の一旦と考えられる言及が数多く見られる文献である。

サイロ現象は、組織の文化や構造によって引き起こされる。テットは、人々が自分の専門分野や部門に固執し、他の部門との協力を避ける傾向があることを指摘している。これは、組織の成長や複雑化によってさらに顕著となる。

原因の一旦としてダンバー数(人間が安定した社会関係を維持できる限界数、約150人とする説)が挙げられる。

具体的には、

1. 組織構造の複雑化
組織が成長し、部門やチームが増えると、管理が複雑になり、部門ごとの独立性が強まり、各部門が独自の目標や方針を持つようになる。

2. 物理的距離
部門やチームが異なる場所に配置されていると、日常的コミュニケーションが減少し、情報共有が困難となる。

3. 専門化の進行
各部門が特定の専門領域に特化することで、専門知識やスキルが部門内に集中し、他部門との協力が困難となる。専門知識の壁が相互理解不足を助長する。

4. 部門間の競争意識
部門間の競争が過剰になると、協力よりも競争が優先され、情報の隠匿やリソースの奪い合いが発生している。部門間の競争が組織全体の最適化を妨げる要因となる。

これらは一定のスケールアップした組織では必ず起きるものと捉え階層組織の弱点である情報の流通不全を引き起こすものとして含み置く必要がある。

アイリスオーヤマ株式会社の大山会長も著書の中でこう語っている。

「どの企業も、もともとは何かしらの事業を顧客に提供したくて組織をつくったはずです。組織を存続するために事業を開始した会社は一つもない。しかし長く経営を続けていると、組織が事業をするための手段ではなくなり、組織を維持することが目的で、事業がその手段になるという逆転現象が起きやすくなる。それは結果的に組織をむしばんでいくのです。」

『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』大山健太郎著

参考著書②「なぜ人と組織は変われないのか」ロバート・キーガン

免疫マップとは、キーガンが提唱する、人や組織が変革に対して無意識に抵抗するメカニズムを可視化したツール。

これは、個人や組織が変わりたいと思いながらも、その変化を妨げる無意識の行動や信念を持っていることを示すものである。キーガンはこれを「心理的免疫システム」と呼び、人や組織が安定を保ち続けるために無意識に行っている自己防衛的なメカニズムとして説明している。

  • 「批判を避けるためにフィードバックを控える」
  • 「重要なタスクを先延ばしにする」
  • 「他人に嫌われたくない」
  • 「失敗することを避けたい」
  • 「他人に批判されたら自分の価値が下がる」

「完璧でなければならない」などの心理的免疫システムは無意識の目標や恐れ。これらは表面的には見えないが、実際には個人や組織が安定を保つために維持しようとしているもの。

根本的な信念や行動規範から成り、個人や組織の深層心理に根付くもので、ヒトの重要な行動決定要因となっている。

多面的な視点や時間軸を柔軟に長く見るとこれらの免疫によって具現化された”回避“行動はその瞬間回避できると錯覚するが、実は危険を回避できていなく、より危険に近づくものであるため個人、組織のパフォーマンス改善を阻害する。

Ⅱ:弱点克服の歴史

では、階層型組織の弱点=情報流通不全を克服するために、どのような法律や制度の補完を行ってきたのだろうか。

法律面

2000年以降の日本における企業統治の整備は、以下のような法令や制度が制定されている。

  • 2003年:個人情報保護法が成立し、事業者に安全管理措置義務。
  • 2005年:会社法が成立し、内部統制システムの構築が取締役の義務として規定。これにより、多くの企業がグループ横断的なコンプライアンス・リスクマネジメント体制の構築に動く。
  • 2006年:金融商品取引法(J-SOX法)が成立し、内部統制報告制度が新設。この制度は、有価証券報告書提出企業に内部統制の基本方針を取締役会で決議を求める。
  • 2015年:コーポレートガバナンス・コードが金融庁と東京証券取引所によって発表され、上場企業はこれに沿って取り組みを報告することが求められるようになる。
  • 2018年:改正会社法により、社外取締役の義務化や株主総会の運営に関する規制が強化。
  • 2021年:コーポレートガバナンス・コードの改訂版が発表され、サステナビリティやダイバーシティの要素が強化。(これはサステナブル投資市場の急速な拡大に伴い、企業のリスクマネジメントやコンプライアンスの取り組みが企業価値向上と合致するようになったことを意味する。サステナブル投資はESG(環境、社会、企業統治)やサステナビリティを重視し、機関投資家がこれを投資判断に組み入れる動きが広がっている。)

これらの法令や制度の導入により、日本企業のガバナンス体制は強化され、透明性やコンプライアンスの向上が図られている、とされている。

しかし残念ながら、法整備を固めながらも下記の代表的な不祥事を見てもわかる通り、外形的な、ハード面の整備のみでは不祥事を回避できないことは明らかである。

(参考)日本における企業の品質偽装や不正会計などの不祥事

  • 2000年 – 雪印乳業:牛乳の再利用による品質偽装事件
  • 2005年 – カネボウ:粉飾決算
  • 2011年 – オリンパス:損失隠蔽のための不正会計(約1,177億円)
  • 2015年 – 東芝:長期にわたる利益水増し(約2,248億円)
  • 2016年 – 三菱自動車:燃費データの不正計測
  • 2017年 – 神戸製鋼所:品質検査データの改竄
  • 2018年 – スルガ銀行:不正融資
  • 2021年 – SUBARU:データ書き換え問題
  • 2023年 – ダイハツ工業:衝突試験の不正認証

社内制度面

内部告発

不正の発覚自体はその多くが内部告発だ。しかし、一連の製造業で相次ぐ検査などの不正の共通点のひとつに、現場にはびこる強い「ムラ意識」があり、本社が監査に乗り込んでも、不正の実態を解明することは容易ではない。

実際、日産自動車や神戸製鋼所の検査不正が明らかになった2017年には、経団連が加盟するメーカー約1300社に品質データに関する総点検を求めた。

多くの加盟社が実行したはずだが、十分な成果があったとは言い難い。本気で不正をあぶり出すためには、従業員へのアンケートなど旧来の手法だけでは不十分だろう。

また、不正が起きた事後の告発であるため、防止・予防の観点から効果は限定的と言える。

制度自体の改正も求められている。「内部通報しても事実確認せず当該の部長などに連絡が行くのみで、隠蔽されるか通報者の犯人捜しが始まるだけだ」ダイハツ工業の品質不正問題で第三者委員会が2023年12月に公表した調査報告書は、自社の内部通報窓口に対する社員の強烈な不信感を取り上げた。

問題を長年放置した同社の信頼は大きく傷付き、消費者庁は24年1月、内部通報制度の運用に不備があるとして同社に改善を求めた。

活用が進まない実態がある。

消費者庁の23年度の調査で、体制整備が義務付けられた企業の約9割が導入済みだったが、導入企業の6割は受付件数が年5件以下にとどまっていた。相談・通報者の調査でも約3割が「後悔した」「良かったこともあったが後悔もした」と回答した。

通報したが調査が行われないほか、通報後の人事異動や評価で不利益な取り扱いを受けたとの理由が多い。

360度評価

判で押したように「上意下達で内向きな傾向があった」に対して対策として出てくる「360度評価やります」は不正を防止し、組織パフォーマンスを上げるためには扱いを間違えると逆効果を生むので、基本やらない方がいい。

効果的な運用は難易度が高すぎるからである。

いわゆる多面評価であり、上司、同僚、部下など、立場の異なる複数の評価者が、対象者の管理職としての能力を明らかにする評価手法だ。直属上司には観察しにくい対象者の特性が把握でき、人物評価の信頼性・妥当性を高められるとされる。

部下が上司を評価する場合、

①責任を負わないのに評価権限がある、という矛盾

②そもそも“管理職としての能力”に評価を下すことは管理職リテラシーのない者には困難である

③評価対象の管理職を評価するさらに上の上司の育成指導責任の放棄となる

以上3点の危険性が組織パフォーマンスをさげてしまう。

①はチーム全体の結果を負っている管理者が下すさまざまな意思決定は、メンバーにとって心地よいものばかりではない。

ただ、全体の最終的な結果責任を負っているからこそ方針やルール、戦略の決定権限をもっているという構造上、下は上を評価できない。部下に上司の評価をさせるという作業自体、組織構造、特に指揮系統に異常をきたす危険性があるため注意が必要である。

②は「上司の管理職としての力量は?」という問いに答えるための知識経験がないため、結局は好き嫌いという別の尺度による評価コメントが繰り広げられることになる。

360度評価を管理職評価のメインに据えている場合、査定にも影響することとなり、管理者は部下に好かれることも自身に求められる成果として考えなくてはならなくなる。

この場合、本来組織パフォーマンスをあげることで評価されるべき管理者は、ある種相反する目標=部下に好かれること、を念頭に置かなくてはならなくなり、真逆のベクトルに向かって同時に走らなくてはならなくなる。

例えば部長が課長に評価されている場合、課長のハラスメントを部長は容認してしまうかもしれない。

③360度評価が常態化すると対象の管理者を管理、育成する責任を負っているはずのさらに上の上司が責任を負っていない錯覚を起こす。

まとめると、やはり組織内の「評価者(上司)は常に一人」の原則を貫かなくては上述した不具合を回避することは難しい。

どうしても導入する場合には、そうしたリスクをしっかり把握することと、高度な運用スキルをもつことが組織全体に求められることになる。部下や左右同位置からの評価を「事実」と「見解」に分けて整理し、「事実」のみにフォーカスして管理者として求められる水準とのギャップを気づかせていく必要がある。

そもそも”忖度してしまう”状況下で、仮に無記名での360度評価だとして本音を記載するだろうか、という根本的な問いもある。

また、正直に書いたとして、指摘された本人が不足を自認し、改善に至るかが問題なのであって制度上モノを言えるようにすることで完結ではない。

まとめると、法律面、制度面から不祥事に対処してきたもののなくなっていない。つまり、これらハード面の整備だけでは階層組織の弱点を克服できない。ただし、新しいテクノロジーの応用などにより情報流通不全を補完していくことは積極的に検討すべきである。

例えば、

・AI活用の不正検知

人工知能と機械学習技術を活用することで、従来のシステムでは検出が困難だった複雑な不正パターンを識別することが可能になる。これにより、不正のトライアングルの「機会」要素を大幅に縮小できる可能性がある。

・ブロックチェーンによる透明性

ブロックチェーン技術の導入により、取引の透明性と追跡可能性が向上する。これは「情報流通不全」の問題に対する強力な解決策となり、不正行為の隠蔽をより困難にする。

Ⅲ:階層型組織のまま階層型組織の弱点を克服する

階層型組織2.0に求められるリーダーの素養

資本主義の限界が指摘される中、その基盤を支えてきた階層型組織もまた、現代の環境変化に直面している。階層型組織は、効率的な意思決定と管理を可能にすることで、資本主義の成長を支えてきた。

しかし、グローバル化やデジタル化が進む現代では、この組織構造も変革を求められている。環境の急速な変化に対応し、柔軟で迅速な意思決定を行うためには、階層型組織のバージョンアップが不可欠であり、新たな組織形態への進化が求められている。

A:メタ認知⇒環境認識を常にアップデートしながら自社・自身を客観視する姿勢

まず弱点克服に向けての絶対必要条件は、トップの「メタ認知力」である。「メタ認知」 とは自身を客観視する能力を指すが、トップがこれを欠くと階層型組織の弱点を克服することはほぼ困難となる。

メタ認知は正しくとりまく環境(変化を)認識するところからはじまる。大きな枠組みで言うなら経営リソースの希少性。ここ10年ほどで、経営における希少資源が「カネ」から「ヒト」へと完全にシフトし、この変化は人的資本経営の名のもとに大きなトレンド化している。

かつては、資金調達(カネ)や設備投資(モノ)が企業の成長を左右する主要な要因だったが、少子化など労働力減少、デジタル化やグローバル競争の激化、働き方の多様化により、今や優れた人材の確保と育成が企業の競争力の源泉となった。

企業が持続可能な成長を達成するために、社員一人ひとりのスキルや能力を最大限に活かす人的資本の価値が一層重要視されるようになった。日本国内の倒産件数約9千件に対して人手不足倒産は3%程度であるが年々倍増している。

企業が「ヒト」を中心に据えた経営戦略を展開することが、持続的な競争優位を確立する鍵なのは言うまでもないが、様々なコンサルティング、VC、再生の現場などからこの変化に対応して行動変化できている経営者はまだまだ少ない。

また、昨今の上級管理職によるセクハラ事案も後を絶たないが、これもメタ認知を欠いた結果といってよく、かつての環境化では許容、見逃されていた言動が現状許されなくなっているという環境認識をアップデートし、自身を客観視ができないからこそ起きている現象である。

参考著書③「倫理資本主義」マルクス・ガブリエル

冒頭に述べた不正のトライアングルにて、「動機」は過度な資本主義の行き過ぎ、利益追求によって醸成されている。

マルクス・ガブリエルの「倫理資本主義」は、現代の資本主義において倫理的側面が重要であると強調する。彼は、経済活動が単なる利益追求ではなく、社会的および環境的責任を伴うべきと主張。

企業や個人は、自らの行動が社会全体に対して責任を持つ必要があり、短期的な利益ではなく、長期的な社会的利益や環境保護を重視すべきと。

さらに、企業活動の透明性と説明責任の重要性を指摘し、持続可能な発展と労働条件の向上を倫理資本主義の重要な要素としている。彼の考えは、経済活動がより倫理的でなければ今後持続可能性を失うことを示している。

B:0次情報

情報流通不全を解消する手立てとして「0次情報」という概念を提唱したい。

0次情報とは、1次情報よりも身体感覚でとらえるRaw Date、ナマの事実情報を捉える、という視点である。

これまで、部下からの報告が基幹システム上のデーターやテキストや口頭(1次情報)に頼るだけでなく、さらに一歩踏み込んで、トップ自らの身体感覚や直接的な観察を通じて、最も根源的で未加工の情報(Raw Data)にアクセスし、現場の状況を直接確認することを意味する。

そんな時間は無い、という反論がありそうだが、月に1日、いや四半期に1日でよい、実践して欲しい。具体的には、顧客接点の現場、役務提供やサービスの現場、価値創出の現場を観察し、身体感覚でとらえることで一瞬で不具合に察知できることを体感できると確信する。

0次情報の収集の意義と利点

・リアルタイムでの現場把握:
0次情報の収集は、上司が現場に足を運び、実際の状況を直接確認することを通じて、タイムラグなく、フィルタリングされていない情報を得ることができる。これにより、上司は現実を即座に把握し、即時の対応が可能。

・意思決定の質の向上:
実際の現場の「0次情報」に基づいて意思決定を行うことで、机上の理論や抽象的なデータに基づく判断ではなく、現実に即した具体的で的確な判断が可能。

・問題の早期発見と解決:
部下の報告だけでは見逃されがちな細部や、現場ならではの課題を早期に発見することができる。これにより、問題の発生源を早い段階で特定し、迅速に対応することが可能。

「0次情報の収集」という概念は、アナログながら従来のマネジメントにおける情報収集プロセスに、新たな視点を加えるもの。

上司が身体感覚を通じて現場の状況を直接把握することで、より実践的で現実に即したマネジメントを可能とする。このアプローチは、組織の健全な運営や、現場と経営層の間のギャップを埋めるための有効な手段となる。

C:観察⇒その場で指示せずにただ”観る”、物理的に身体感覚として現場に触れる

「0次情報の収集」という概念において、上司が現場で観察を行う際の重要なポイントは、“観察”そのものに専念し、その場で指示や指導、フィードバックを行わないこと。

上司が現場を訪れる際には、直接の干渉を避け、状況をありのままに観察することが求められる。これにより、現場の実態や雰囲気を歪めず、正確な「0次情報」を得ることが可能となる。

重要なのは、現場の管理責任があくまで部長や課長といった現場の監督官にあるという点。トップはその管理責任を尊重し、現場で得た情報や気づきをその場で現場のメンバーに伝えるのではなく、別の場で当該責任者に対してフィードバックを行うことが原則。

このアプローチは、現場の管理者が自らの責任で現場を運営するという意識を高め、現場の自主性や責任感を強化する効果を意図したものである。

トップが現場で直接介入することを避けることで、現場のメンバーは管理者からの指導や指示に集中でき、また、上司の介入によるプレッシャーや混乱を防ぐことができる。さらに、現場の監督官が自らの判断で状況に対応し、問題解決を図る能力が養われるため、組織全体の管理能力向上を期待する。

一方で、トップは別の場で得られた情報を基に責任者と対話し、フィードバックを提供し気づきの共有をしつつ、管理者が主体的に改善策を講じることを促進する。このプロセスは、組織内のコミュニケーションを円滑にし、現場の改善活動を効果的に進めるための重要なステップとなる。

0次情報の収集においては、上司が現場で観察を行う際に、あくまで管理責任を現場の監督官に委ねることが重要であり、フィードバックは別の場で行うという原則が、組織運営の効果を高める鍵となる。

おわりに:階層型組織をアップデートせよ

集団が効率的に目標達成すべく発明された階層型組織は岐路に立たされている。明確な責任と役割分担(決定と実行の分離)、効率的な意思決定プロセス、専門化と分業といったたくさんのメリットを享受してきた。

しかし、環境変化の性質やスピードの急激な変化に伴い、ここで見てきた様々な不正や不祥事からして情報の流通不全や管理統制の限界を露呈している。制度面法律面からの打開策も講じられてきたが抜本的な解決には至っていない。ティールやホラクラシーといった組織構造自体を変更する意思決定も今後増えていくだろう。

当社では、ソフト面からマネジメントのあり方を進化させることで階層型組織の弱点を階層型組織のまま解決する方法を模索、研究し、環境変化対応の先鋒としてこれからも経営者・管理者向けに最新のメソッドを提案していきたい。

ここで紹介した、0次情報や観察のススメは即時実践できるノウハウであり、我々がコンサルティングや事業再生の現場で臨床的に獲得した知見である。ぜひ、有用性を確かめて頂きたい。

【参考文献】

 

  • 文庫版『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』大山健太郎
  • 日本電産流「V字回復経営」の教科書 川勝 宣昭
  • 最高の戦略教科書孫子 守屋 淳
  • なぜ人と組織は変われないのかハーバード流 自己変革の理論と実践 ロバート・キーガン
  • 急成長企業を襲う7つの罠 水谷健彦
  • CHANGE 組織はなぜ変われないのか ジョン・P・コッター
  • 改革のカリスマ直伝! 15歳からのリーダー養成講座 工藤 勇一
  • 13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語 岩尾 俊兵
  • [新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)――人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン ブライアン・J・ロバートソン
  • 巨象も踊る ルイス V.ガースナー Jr.
  • サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠 ジリアン・テット
  • パワハラ上司を科学する 津野香奈美