10月最後の日曜日。横須賀に来ました。横須賀を代表するのは京急の横須賀中央駅ですが、JR横須賀駅の寂しいながらも港町の玄関口をイメージさせる駅舎が好きです。
JRの駅からはヴェルニー公園などを通って徒歩20分余り。戦艦三笠が停泊している三笠公園に到着します。この公園に着くと必ず
「俺の話を聞け~♪」
と、タイガードラゴンを口ずさんでしまうのですが、今回の目的地はここではなくその隣、三笠ターミナルです。
ここから東京湾に浮かぶ唯一の無人島、猿島(さるしま)に渡ります。9時30分に第一便の船が出るのですが、出発10分前の到着でもうかなりの人が並んでいてその人気ぶりを窺い知ることができます。
猿島は上の地図の赤いピンの位置にあります。東京湾の入り口部分にあるので防衛の拠点とされ、明治から戦時中にかけて軍事施設がいくつも建てられました。打ち棄てられたそれらの施設が今、新たな観光の目玉として人々の目を惹きつけ多くの観光客がこの島を訪れています。
多くの観光客を乗せた「ニューくろふね号」はまっすぐ猿島に向かいます。徐々に島影が大きくなり、三笠ターミナルから約10分で到着。本当に気軽に行ける島です。ただし入島料を含めて往復運賃は2000円。安いかどうかは微妙です。
猿島で満員の乗客を降ろすとすぐに三笠ターミナルに向けて折り返していくニューくろふね号。お迎えは1時間に1本しか来ませんので時間を考慮しながら観光を楽しむとしましょう。猿島は自分だけで観光することもできますが、ツアーガイドがいて島を案内してくれるツアーがあります。30分コースというかなりお手軽なコースがあったのでそちらに参加することにしました。
港のある場所にはレストハウスなどがありますが、その近くにあるのが発電所。明治時代に造られた建物が今も使われています。猿島の電気は本土から電線をひいてはおらず、今もここで発電して供給しています。煙突がありますが、これはかつて発電するために石炭を使っていた名残です。
発電所脇の山道を登っていくとそこに現れるのがレンガ造りの猿島要塞。もともとこの部分は小高い丘だったのですが、明治期に陸軍が丘を削り、3年の月日をかけて通路を作り、レンガ造りの要塞を作りあげました。かつては兵舎や弾薬庫として使われましたが今は使う人のないどこか寂しげなレンガ造りの建物。「天空の城ラピュタ」に似ていることもあり、猿島は「ラピュタの島」と呼ばれています。
トンネルを通って島の北側へ。このトンネルも兵舎や弾薬庫として活用されました。レンガの建物が多いですがこのトンネルのレンガの積み方は長辺と短辺を交互に並べる「フランス積み」。
レンガ造りの建物を最も美しく見せる積み方であるとして明治初期に好んで採用されたものであり、富岡製糸場もこの積み方でした。その後、長辺のみの列と短辺だけの列を交互に積んでいく「イギリス積み」の方が強度が強いという理由で主流となりフランス積みは衰退していきました。フランス積みのレンガ造りの建物が今も残っているということで建築学的にも貴重な施設です。
ガイドツアーの最後に案内されたのはこの砲台跡。時代は変わり太平洋戦争期に砲台が置かれた場所です。明治期に造られた兵舎や弾薬庫はもう使われていませんでしたが、地理的条件からくる猿島の軍事的な重要性は昭和期においても健在であり、ここに新たに砲台が置かれて東京湾を防衛しました。
今は観光で賑わいススキの穂が静かに揺れる穏やかな島ですが、かつては国防の重要拠点とされてきました。実戦で使われることはありませんでしたが、それがなにより幸いです。
レンガ造りの遺構が美しい島ではありますが、本当はこんなものを作らなくてもいいような平和な世の中であることが一番いいはずです。遺構がどこか物悲しく見えるのは、その向こうに戦争の悲しい歴史が重なって見えるからなのかもしれません。
ガイドツアーも含めて2時間ほど猿島に滞在しました。小さな島で船を待つ間手持ち無沙汰になってしまうかと思いましたが、遺構は存分に見どころがありあっという間に時間が過ぎていきました。弾薬庫の中まで見られるツアーもあるなどバラエティに富んでいて楽しめますし勉強になります。手あるに行けて非日常感を味わえるので是非皆さんも一度探検に出かけてください。
最後になりましたが、このブログで晴れて500記事となりました。何か特別な記事をとも思いましたが、結局通常運転の普通の記事になりました。これが私らしいのかなと思っています。
約3年。なにごとも3日坊主な自分がここまで続けられてこれたのはひとえに読んでいただいているみなさんがいたからだと思います。これからもみなさんが行ってみたいと思えるような旅先を紹介できたらいいなと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2024年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。