ワクチン・ヘイト、デマの法規制と先端医療教育啓蒙を

CESAR MARTINEZ AMOR

新型コロナのワクチン接種が再開された。高齢者は公費補助で3000円程度(本来価格の約1/5)となり、国産含め5種のワクチンが供給となった※1)※2)

ところが接種開始前からSNS等で根拠のないデマや反ワクチン論が横行し、果ては接種者の利用拒否をホームページ等で公表公言する医療機関や店舗が多数発生した※3)※4)。ヘイト、差別だ。

特にレプリコンワクチンと接種者・医療機関が槍玉に上がっている。挙句ワクチンや創薬バイオテクノロジーとは無縁な? 学会を名乗る団体が声明※5)を喧伝し、批判に晒され投稿削除したようだが、燎原の火のように反ワクチンデマの根拠として拡散された。当然、科学的根拠をもって反論されている※6)※7)

新型コロナ以来、咳をすると嫌がられる世の中だが、利用拒否は差別である。差別は人権侵害となる犯罪的行為であり、許されない。国は科学的根拠のない反ワクチンデマや差別的ヘイト言動を即刻、法規制すべきだ。また公共広告機構等で国民に先端医療を教育啓蒙してはどうか※8)※9)

「コロナ・ワクチン接種者は拒否」という言いざまは、発熱外来やワクチン接種でまさに体を張って戦う我々コロナ医療最前線の者への侮辱愚弄だ。コロナ対策医療に関わりもせず口先だけ言い放題など無責任、学会を名乗りデマと悪意を拡散など、卑劣かつ笑止だ。

言論等の自由は他人の権利を侵害しない限りにおいて、と人権宣言以来言い古されて久しい。しかし誰でも言葉を発信できるネットでは、まさに悪貨が良貨を駆逐し愚者が賢者を脅かしている。

筆者は2002年に遺伝子治療関連のデマ実例から論文でインフォデミックを予見したが ※10)、それを超える事態だ。デマ誤情報拡散にとどまらず扇動、先のコロナワクチン接種で発生したワクチン冷蔵冷凍庫のプラグを抜きワクチンを棄損する破壊活動、器物損壊罪、威力業務妨害罪にまで至るなら、ネット上の言論、SNS投稿も取り締まるべきだ。SNS投稿は、会話と違い消えずにシェア拡散波及するからだ。

丁度「情報十分性の錯覚」についての記事があった。「ダニング=クルーガー効果」※11)として知られ、自分の知識が不十分にも関わらず「分かっている」と過大自己評価してしまう心理である。RNAやレプリカーゼ、免疫やウイルスについて無知なのに、無知と自覚できず自分が理解可能なデマを鵜呑みして分かったつもり、感情のままに喧伝する「バカはバカと自覚できないからバカ」、社会の迷惑害悪である。

総額77兆円をPCRやワクチンその他対策に注ぎ込んだ新型コロナ禍だったが、現在の流行株は喉の痛みと微熱程度で随分マイルドになった。ウイルスの共存戦略進化かワクチンの効果かは不明だが、新型コロナ禍が落ち着いた現状は、人類未曽有の大規模反復接種した結果としてある。ワクチン関連死や超過死亡が反ワクチン扇動の根拠とされるが、統計的に有益性が勝るというのが医学的コンセンサスである※12)

ワクチンヘイトの根拠とされるワクチン関連死は、明確な医学的因果関係を調査証明していない※13)。ワクチン接種後一定期間内に死亡したら、裁判でモメたくないから示談して終わり、最高4400万円強が寝たきり老人にまでも少なくない人数(の遺族)に支払われた※14)。医学的究明を放棄し金で解決し、未曾有の短期間大量反復接種を強行、安倍政権下で言われた「やってる感」のためにである。そこに一つの禍根がある。

安倍氏が二度目の政権投げ出し、後始末の菅政権はトランプ米大統領と声の大きな有識者の言うままに大量のワクチンを買い付け接種した。そのワクチンは米国のオペレーション・ワープスピードで異例の速さで緊急使用承認し生産したものである。保管に実験研究用の超低温冷凍庫が必要であり取り扱いが煩雑面倒で、医薬品として十分な状態とは言えなかった※15)

それから三年半、念願の国産コロナワクチンが武田薬品工業、Meiji Seikaファルマ、第一三共で開発された。武田は昆虫細胞で培養生産したスパイク蛋白質を成分とする、遺伝子組換えワクチンである。ウイルスは含まれず感染することは無く副反応は最も少ないと予測できるが、十分な開発期間が必要なので新型コロナのような緊急時には間に合わない。第一三共はファイザー等と同じmRNAワクチンである。

Meijiのレプリコンワクチンとは何か。レプリコンとはレプリカ、複製する、という意味である※16)。新型コロナワクチンは、コロナウイルスが感染するための「手」であるスパイクタンパク質の一部の遺伝子を成分とする。タンパク質を細胞に作らせるmRNA(メッセンジャーRNA)が成分なので、RNAワクチンという。

コロナウイルスは、我々「真核生物」の遺伝子がDNAであるのと違い、RNAが遺伝子である。ここで誤解曲解を招くのは、RNAワクチンはウイルスを作る、という「大間違い」である。そのようなことは「ありえない」。

今後発展するであろう遺伝子治療やその技術を応用する再生医療含めた基本的常識理解として「遺伝子は生命の設計図である。医療で用いるのはその一部である。一部の設計図では全体は作れない」。車のエンジンの設計図だけでは車を作れないのと同じ、それを理解する必要がある。

RNAはDNAを設計図として必要な部分を写し取り、生命を構成する蛋白質を作るための命令書である。ワクチンとして細胞に入るとスパイク蛋白質を作らせ、それが細胞表面に出てT細胞などの免疫細胞に認識され、免疫をもたらす※17)

しかしRNAは細胞内や自然界にあまねく存在するRNase(RNアーゼ、RNA分解酵素)により、どんどん分解される。折角RNAワクチンを接種してもすぐ分解してしまえば、スパイク蛋白質を作る量と時間は限られる。

ならば細胞内でまずRNAを増やしたらどうか。様々なウイルスにはそのためのRNA複製酵素レプリカーゼの遺伝子が存在するので、スパイク蛋白質の遺伝子と一緒にワクチンの成分とすれば、ワクチンのRNAが沢山コピーされ沢山スパイク蛋白質が作られ、効果は強く長続きするはず、というのがレプリコン・ワクチンの原理である。

これまでの新型コロナワクチン同様に、レプリコンワクチンもコロナウイルスのスパイク蛋白質だけを作る。スパイク蛋白質はコロナウイルスの感染に必須だが、病原性は無い。

新型コロナウイルスはスパイク蛋白質の「手」で細胞表面にあるACE2蛋白質をつかんでウイルス本体を細胞に取りつかせ、潜り込み、ウイルスRNAが細胞に侵入する。そして細胞のシステムを乗っ取り自らを大量に作らせ、細胞の機能を狂わせ、結果的に細胞を破壊することで、病原性と症状につながる。しかしスパイク蛋白質だけでは何も起こらず、レプリカーゼで大量にコピーされても感染発症することは無い。異物として免疫に処理されて終了である。

レプリコンワクチンは「シェディング」が危険だと喧伝される。シェディングとはウイルス感染者が咳、飛沫などでウイルスをばらまくことだ。

先般、鼻にスプレーするだけで済むインフルエンザワクチンが実用化されたが、生ワクチンつまり弱毒化した生きたウイルスを成分とするため、「シェディング」する可能性がある※18)。ウイルスそのものが成分だからである。近年キャッチアップ接種が行われている風疹ワクチンも、生ワクチンなので同様である。

しかしシェディングはワクチンでは問題にならない。ワクチンは予防薬であり、発症しないか発症してもごく軽症で迅速に回復し、免疫を得られるからだ。タダでワクチン成分に被爆し効果が得られるなら、新型コロナワクチンは一万数千円だから極めてお得だ。ウナギのかば焼きの匂いで飯を食べるようなものである。

レプリコンワクチンでシェディングが発生し、接種していない人にワクチンRNAが取り込まれたとしても「感染発症はありえない」。そのワクチン成分のRNAは前述の通り、感染病原性が無いスパイクタンパク質しか作れないからだ。

ちなみに現在接種されているインフルエンザワクチンは、培養したインフルエンザウイルスの一部のタンパク質を分離精製したもので不活化ワクチンと言われ、感染性も発症する可能性も無い。

筆者は2000年前後に難病の遺伝子治療の実現を目指し先端バイオ創薬ベンチャーに肉迫し役員としての責も果たし、本邦看護専門誌初の遺伝子治療解説連載を敢行した※19)。しかし遺伝子治療の歴史は遺伝子が「効かない」歴史であり、20余年後の今ですらまともに遺伝子治療は実現していない。生命を護る遺伝子的防衛システムゆえである。

RNAワクチンどうこうと喧伝する者は、生命と遺伝子の神秘とその鉄壁の強固さを知らない無知な愚者、社会の迷惑害悪でしかない。

新型コロナ上陸から3年余、国や自治体は特例異例づくめのイレギュラーな対応は終わりにして、今後の感染症対策を考えるべきだ。

温暖化によるマラリア等の熱帯感染症の上陸や、グローバルサウス発展による持ち込み感染症は危惧されて久しく、国内でも新型ウイルス等の発生はあり得るし、わが国は結核の「中程度蔓延国」をやっと脱したばかりである※20)※21)。人類医学の歴史は感染症との戦いの歴史だったことを、忘れてはならない。

新型コロナウイルスのゲノムは、上陸から半年経たずに解析されている。RNAワクチンはゲノム解析できれば、開発生産は従来のワクチンより原理的には早いので、突然現れた未知の感染症対策としては有用である。

一方で従来型のワクチンは、開発生産する時間的余裕があれば有益である。特例承認はここまでとして「次回」の対策シーケンスを考えておくべき、きちんとしたGCP/GMP治験・製薬基準に即した手続きを行い管理すべきだ※23)。イレギュラーが常態化することは、今後不適切な医薬品そして薬害を招きかねない。

今回のレプリコンワクチン・ヘイト・デマは、政権の思慮の足りない対応や不作為に大きな責任がある。前例の無い新奇ワクチンを国民のほとんどに短期間で繰り返し接種、延べ接種人数4億3千万人余ともなれば、有害事象や死亡例が多くて当然だ※22)。それについて十分な国民への説明周知は無く、不安を増長した。

新型コロナウイルスはACE2蛋白質に取りつき、それが多く存在する血管内皮細胞を傷害すると一年足らずで解明された※23)※24)。ハイリスクなのは動脈硬化した人や高齢者と分かるので、対策を絞り込み無用なワクチン接種や予算バラマキ、飲食業など経済への悪影響を避けられたのに、トランプ米大統領に言われるがままに(?)大量に余り破棄するほどワクチンを買い占め接種した。科学に基づかない感情的煽情的施策が、今に至る問題の根源にある。

新型コロナワクチンは「爆買い」が過ぎ2億4000万回分6653億円分がゴミ箱に捨てられた※25)。バイオ実験手法のPCRが一躍注目され雨後の筍のように検査所ができたが、終息宣言とともに消え、水増し等の不正請求等が露見し、東京都だけで393億円に上った※26)。コロナ減収しない生活保護受給者にコロナ貸付金を16都道府県で14億円も貸し付けていた。まさに狂乱無駄遣い「コロナバラマキ」だ※27)

「魚は頭から腐る」というが、為政者、政権が浅薄煽情的施策では、国民が一部でもデマ風評に踊らされるのも然りだ。しかしワクチン接種者や医療機関をヘイト差別は、ハンセン病や精神疾患患者への差別と何ら変わらない、無知の罪である。速やかに罰則付きインフォデミック規制法を制定し、今後の遺伝子治療・再生医療時代をも見据えた国民教育啓蒙を国、霞が関は考えるべきだ。