石破茂総理は、内閣成立直後の所信表明演説の演説の中で「地方こそ成長の主役」と述べ、「地方創生2.0」として再起動させると宣言した。そして、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増させ、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後十年間集中的に取り組む基本構想を策定すると述べた。
地域の多様なステークホルダーが知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出し、都市に住む人も地方に住む人も、すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会。それが地方創生の精神です。今一度、地方に雇用と所得、そして、都市に安心と安全を生み出します。
などと言っている。
しかし、まったく期待はできない。私は2018年の自民党総裁選挙に石破氏が立候補したときに、アゴラに「民主党マニフェストより非現実的な石破ビジョン」という記事を書いた。
石破茂氏の公約集らしい「日本創生戦略 − 石破ビジョン~時代の”ピントをチャンスに果敢に挑む~」を読んでの感想だが、
民主党マニフェストは、具体策にしっかり踏み込んでいた。ただ、財源がなかったり、高速道路無料化のように、ドイツのように最初からそういうように制度設計をしてけばそれもよいが、すでに有料前提の高速道路網があるものを、無料化しようというので、実行上の問題が多すぎて、だいぶトーンダウンしたが、それでも、料金の値下げなど民主党は実行に移せた。
それに比べて、石破ビジョンは目標と具体性のない政策テーマをぐだぐだ並べただけだから、それを具体的な政策として法案を通すだけで総裁任期や衆議院議員の任期は終わりそうだ。
とし、とくに地方創生ビジョンについて、は次のように書いた。
根本的な問題は、石破茂氏が安倍首相から地方創生を託されて、やりたい施策を実現できる立場にかつてあったということだ。そのころは、いまよりさらに、支持率が高い安倍首相の援護があるからたいていのことはできたのである。そのとき、なぜ、提案しなかったのか、まずは弁解が必要だが、それも、とりあえず、横に置く。また、石破氏が30年以上も代議士をやって鳥取のために実践してきたのか教えて欲しい。鳥取の惨状は石破父子の責任だ。
掲げられている政策は以下の通りだ。
- 東京一極集中の是正(国の機関の一部移転、本社機能の移転など)
- 脱炭素化・再生可能エネルギーを原動力に地方創生を実現
- 地域の個性を活かした小水力発電など再生可能エネルギーの最大限活用(=「エネルギーの地産地消」)
- 地方の個性や自主性、経営力向上を担保する財源の充実や補助金・交付金制度の見直し
- 地方の財源拡充による地方の自主性の醸成
- 地方創生を担う人材や政策機能の確保(地方公共団体のガバナンスやシティマネージャー制度等による機能強化、霞が関や企業からの人材移転、ローカル・ビジネススクール等)
- 地方創生深化のための規制緩和・制度改革の推進
- 地方創生のための法人税改革(本社や人材の地方移転支援等)
- サービス基本法の制定と生産性向上国民運動の展開(=地方経済・農林水産業の高付加価値化)(業務プロセス改革、サービスの「質」の見える化と適正対価、過剰サービスの見直し、持続可能(SGDs)な消費行動(無断キャンセルガイドライン、食品廃棄ロス解消等)等)
- 「モノからコトへ」(産業構造の転換)、「コトづくり」等を通じた観光・文化・スポーツ・ゲーム等の地域のサービス産業の生産性向上(ワクワクする日本、ナイトタイムエコノミー)
- 世界一の観光立国(訪日外国人旅行者数目標2030年8000万人)-「地方の宝の山」(世界有数の長寿国・日本が誇るおいしい食べ物とお酒、世界遺産・国宝・日本遺産をフル活用した交流人口の拡大)の最大限の活用、地域観光ポイント制度の創設、アジア30億人の新中間層をターゲット
- 地方における最先端の基盤技術を活かしたスマートシティの展開(無人コミュニティバス、IoTによるインフラ管理、スマート農業等の「世界の実験場」)インバウンド戦略の強化と日本の各都市がアジアのスマートシティーと共鳴、共同で地方を世界に開く「架け橋プロジェクト」の推進(2020オリパラのホストタウン招致プロジェクト、スマートシティ国際共同事業、海外市場の成長の取り込み等)
- 地域の個性を活かした成長インフラの整備推進
1の首都機能移転は結構なことだが、まず、東京都は反対するだろうが、それを押し切れるのか石破派の大番頭で東京都連会長である鴨下氏は当然、納得して責任を持って反対を抑え込む決意を当然されているののだろうが、それを、鴨下氏が決意表明していただきたい。
2、3は再生可能エネルギーが災害に弱いことも露呈し、電力買い取り価格を下げねばならないときに、「地方再生の原動力となるほどに推進」するというのは相当に難しいし財源もかなりにのぼりそうだ。
4、5は、それをするなら、国の施策はかなり削減しなくてはならないが、できるのか。
6、7は、維新あたりがさんざん地方のボス、首長、議員、労働組合と対立しながら取り組んで、それでも、なかなか成果をあげるのに苦労しているテーマだが、対話と合意重視の石破哲学のもとではますます難しい。とくに自治を強化したら、そんなもの実現できないわけで、4、5と矛盾している。
8は地域によって法人税率を変えるのだろうか。かなりの冒険だし、どこにどのような税率を適用するか、合意形成をどうするのか。こんなのは、積み上げ式を主張する石破流では無理で、安倍首相を上回りプーチン以上の大独裁者が出現しないと無理だ。
9、10のサービス産業化やその合理化は大都市集中を進めると思う。
11は安倍内閣のもとで大成果がでているし、これからも出るだろう。何を付け加えるのか。
12もけっこうなことだし、いまも進んでいるが、どうしてそれが大都市に対する地方創生なのか不明。
13は誰も反対しない。ただし、経済合理性の高いインフラ整備は、地方住民の要望にはあわないので、要望が強いインフラ整備を切ることと同義だが、分かっているのか。
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以上が寸評だが、はっきりいって学級委員選挙の選挙の公約なみで、大人の文章になっていない。
防衛政策について石破氏は、いずれは第9条第2項も削除だが、とりあえず、急がず、鳥取と島根が参議院で一議席ずつ確保できる憲法改正のほうが大事だから優先する。
そして、集団的自衛権には第9条の制約が及ばないので、日米安保条約に基づき、アメリカと一緒に地球の裏側までいって戦争に加わる。そうすることで、日米地位協定の見直しにアメリカに同意してもらって、そのことで、沖縄の人々は満足するだろうから、辺野古移転もできるはずというのが、石破防衛政策と理解している。
これが、100日プランのなかで成立して、アメリカも野党も沖縄の人も納得してくれて、法案や条約の改定もできるなら、結構なこととしかいいようがない。
それから、石破氏の総裁選挙特設ページには、短編小説「やわらかい日本」がついている。ネットで最初にみたときは、石破氏のなりすましかと思ったら、総裁選挙用の特設ページの目玉のようである。
これについて、ある人が、「女子大生の父親は、単身赴任(東京)母親はネールサロン経営。シングルマザーの女子大生の子供は保育園や近所のお年寄り等がみてくれている。親の女子大生や単身赴任の爺さん、ネイル婆さんは孫に関わらない」と皮肉っていた。たしかに、息苦しくはなさそうだ。
上記のような評価は、いまもなにも変える必要ないと思う。