京都市左京区内にある川端署と下鴨署を統合し、「左京署」を新設することになりました。川端署は京都大学を管轄区域とし学園紛争のときなど活躍したし、下鴨署はドラマのロケ地になったり、下鴨中央警察署とかいう名前の警察署が舞台にされたりしました。
この背景には、関東大震災後に大映の蒲田撮影所が移転して、「松竹下加茂撮影所」となり、ここで1950年の火災まで映画が、そののちテレビ・ドラマの制作が行われたことにも起因するようです。ただし、下鴨署は下鴨になく高野川の東の川端通にあります。
さて、今回は左京区について、拙著「紫式部と武将たちの京都」(知恵の森文庫)などから抜き出して紹介します。
上京区や北区と鴨川を挟んで東側を占める地域です。北側は戦後合併した八瀬大原から福井県との府県境まで含みます。上賀茂は北区になります。
京都市に編入されたのは、1888年(明治21年)6月25日-愛宕郡の南禅寺村・鹿ケ谷村・浄土寺村・岡崎村・聖護院村・吉田村・粟田口村1918年に下鴨村、田中村、白川村、1949年に岩倉村、八瀬村、大原村、静市野村、鞍馬村、花脊村、久多村を編入しました。
昭和になって交通が便利になると、東京では世田谷区とか田園調布など東急沿線が住宅地として開発され、大阪では、船場・堂島の富裕層が住居を南向き斜面の芦屋など阪神間に移しました。
京都では、岡崎周辺などは平安時代から開けていましたが、排水や日当たり、景色がいい場所です。昭和の初めに東大路や北大路に市電が付設されて、その外側が区画整理され、そこへ都心に店舗をもつ裕福な経営者、高給とりの帝国大学教授、芸術家、高給サラリーマンが、庭付きの一戸建て住宅を建てて、移り住みました。南禅寺、北白川、下鴨などがその典型です。
明治になってできた琵琶湖疏水は、最初は舟の便も重宝されていましたが、蹴上げの下船場で78メートルですが、動物園の横では42メートルです。この落差を利用して水力発電が行われ、市電が走ったのです。
南禅寺から北白川にかけては、琵琶湖疏水の支線が山沿いを北上しています。水車を並べて工業地帯にしようとしたのですが、電力の時代になって水車小屋は不要になりましたので、庭園に水を引き入れて庭園をつくることに利用されました。
山縣有朋が南禅寺に無鄰菴という別荘をつくったときに、英国風の自然豊かな庭を日本風に再現したいと思い、東山を借景にして水が流れる庭を造るように指示したのが、小川治兵衛でした。山縣の信頼を得た小川は、平安神宮外苑の庭も設計し、さらに、野村別邸とか対龍山荘といった名作を残しました。
疏水はそのあと高野川を渡って下鴨地区を半円を描くように囲い込んでますが、これは、扇状地の地形を同じ標高の所に沿って流れているからです。
こうした邸宅は千坪単位ですが、北白川あたりでは、もう少し小さな200~300坪の邸宅が並んでいます。そして、昭和のはじめに市電北大路線の開通に合わせて区画整理された下鴨では、100坪前後の小住宅地が開発されました。現在ではさらに分割されて最低単位が40坪になっていますが、それでも、乱開発は免れています。
左京区の住宅地は、すぐ近くに東山や北山があり、鴨川や高野川が流れているという、世界の大都市でも希有な環境で、欧米人にも中国人にも大人気です。
左京区の下鴨地区には、パワースポットとしても人気の下鴨神社があり、府立植物園、鴨川の河原などがあります。
北白川から吉田にかけては京都大学、銀閣寺、哲学の道などがあります。岡崎には平安神宮、南禅寺、岡崎の美術館などがあります。京都大学と東大路を挟んだ向かいには、日仏会館(総領事館も兼ねる)がありますが、創立時には、哲学者のサルトルが館長に応募したのに落選しました。もし、実現していたら、世界の哲学の歴史は変わっていたかもしれません。
京阪電車終点の出町柳から、アニメ「けいおん!」の舞台になった叡山電鉄の沿線では、一乗寺が全国有数のラーメン激戦区。修学院には離宮があります。
ここから、叡山電鉄の鞍馬線をさらに進むと貴船や鞍馬に行けます。また、西に峠越えして上賀茂神社の奥に出ると京都産業大学もあります。
こういう経緯から、左京区は高級住宅地であり、一方で学生の街でもあります。
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すでに「京都人と名乗れるのはどこまで?:京都11区とグルメ情報」では、一乗寺界隈のラーメンを紹介しました。
スイーツ系では、「加茂みたらし茶屋」、御所で愛された粽の「川端道喜」(北山通)、出町の「阿闍梨餅本舗 京菓子司 -満月-」、洋菓子では日本でいちばん美味しいタルト・タタンを供する岡崎の「ラ・ヴァチュール」、お濃茶ラングドシャが喜ばれる北山通「マール・ブランシュ」などが人気。下鴨本通りの「ヴェルディ」はコーヒーの名店です。下鴨本通りと北大路の交差点の洋菓子店「バイカル」は今週、新店舗がオープンです。
高級料理店では、南禅寺の老舗「瓢亭」は15年連続三つ星、川魚料理の「美濃吉本店 竹茂楼」、三つ星を取ったこともある「京懐石 吉泉」、とろろ汁と若狭のぐじの塩焼きが名物の「山ばな 平八茶屋」、「下鴨茶寮」、「草喰なかひがし」など全国的な有名店です。貴船の川床で鮎料理というのは伝統的な京都人の夏の楽しみです。
京都大学の周辺では、洗練された中華料理を安くでという「華祥」は私は卵白かけチャーハンが好きです。ガチ中華ではその近くの「火楓源」、かつて日仏会館にあったフランス料理お惣菜の「フジタ」、鶏料理や親子丼がおいしい「京のつくね家」、「ローストチキンダイニング吉田チキン」などお勧め。
西洋料理系もいろいろありますが、それはまた、別の機会に紹介します。