来年119会期の上院議席が確定、共和党53議席・民主党47議席

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再集計中だったPA州上院選は、現職のケーシー上院議員が敗退を認めたことでやっと議席が確定した。共和党が53議席、民主党が47議席となった。

ブルーウォールといわれたMI州・WI州の上院議席を民主党は守れたが、PA州は現職上院議員が敗れた。PA州はさらに下院選でも2議席も現職下院議員が負けたので民主党には最も厳しい結果となった。

下院議会も219議席をすでに確保しているため、119会期がはじまる2025年1月3日~2027年1月2日まではオールレッド(トリプルレッド)となる。ヴァンス上院議員は副大統領に就任するため、一時的に空席がでるが、州知事が指名するため、すぐに空席は埋まるので問題ないだろう。

今回、オールレッド(トリプルレッド)となったことで、トランプ政権や共和党の思い通りになるような意見がたびたび見受けられる。

しかし、今回はトリプルレッドといっても、上下院の議席差はわずかだ。上下院の過半数で承認・可決できる投票でも、民主党から票をもらわない場合は、上院では4名、下院では2~4名の造反者がでれば法案は可決できない。

上院議会にはトランプ元大統領の弾劾に賛成を投じた議員が来年も3名いる。カシディ上院議員(LA州選出)、 コリンズ上院議員(ME州選出)、マカウスキ上院議員(AK州選出)だ。さらに、選挙前だからお互い協力していたものの、トランプ次期大統領から罵倒されていた元上院院内総務のマコネル上院議員も2027年1月2日までは在籍している。

政府高官の承認や法案可決にむけて、この4名の上院議員からの承認を得る必要がある。また、税制改正や連邦政府の年度予算、現行の連邦法の改正を伴うものは、議会での立法が必要になる。財政調整法案以外は、フィリバスターを突破する必要があるため60票必要となるのだ。この60票というのは極めて厳しいだろう。

【1】トランプ次期大統領が指名した政府高官・連邦判事は上院議会で過半数の承認が必要

トランプ次期大統領が指名した政府高官の評価がメディアで色々書かれているが、上院議会で承認されなければ就任できない。

大統領には政府高官を指名する権利はあるが、あくまで指名だけだ。正式に承認されるには上院議会の助言・投票が必要となり、承認には過半数の票が必要となる。

共和党は53議席を確保したから、50票なんて余裕だと考えられているようだが、決してそうとはいえない。先述したように、2021年にトランプ元大統領の弾劾裁判で弾劾に賛成を投じた議員がいる。

マカウスキ上院議員は新たにトランプ次期大統領が指名した政府高官は全員FBI審査を通過する必要があり、それをしないならば承認しないと発言したようだ※1)。 マカウスキ上院議員はトランプ次期大統領に投票しないと言い切ったし※2)、2022年中間選挙でトランプ氏を支持する対抗馬から予備選挙で挑戦をうけたこともある。すでに報復されていて、それでも勝ち残ってきたのだから、その姿勢を貫くだろう。

また、マコネル上院議員も引退後の身の振り方次第ではあるが、トランプ次期大統領の意のままに投票するような議員ではない。

一方で、コリンズ上院議員は再選を目指して2026年に再出馬する意欲をみせているため、トランプ次期大統領と良好な関係を保つために譲歩する可能性はあるだろう。

司法長官に指名されたゲイツ元下院議員は、上院議会からの承認を経ることが難しいと判断して早々と辞退した※3)

次に、上院議員内で承認が難しいといわれているのは国防長官に指名されたヘグセス氏だ。次期副大統領のヴァンス議員は共和党上院議員へのあいさつ回り(ロビー活動)をすでに進めている。上院議員が難色を示しそうな人物は、このようにヴァンス議員が紹介しにまわっているようだ。近々、国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバード氏もヴァンス上院議員とともに来訪するだろう。

【2】法案可決には上院議会でフィリバスターを突破する必要あり。ただし、財政調整法案は過半数で承認される。

トリプルレッドになったとしても、法案を可決・法改正するには議会でフィリバスターを突破しなければならない。フィリバスターを打ち切るには、60票が必要だ。53議席しかない共和党は、民主党から票をもらう必要があるが、それは期待できないと考えたほうがよい。ただし、年度予算で財政調整法案を使える部分については過半数で可決が可能だ。しかし、財政調整措置は魔法のように何でも実現できるわけではない。

細かい基準が数多あり、大きく4つをクリアする必要がある。

① 財政調整法が適用されるのは、義務的経費のみ。
義務的経費とは、 国債費、年金・医療といった社会保障費、国家公務員の給与や退職年金などのようにすでに政府に支出が義務付けられている経費をさす。逆に、国防費は裁量的歳出に分類される。

② 歳出と歳入に関わる予算

③ 年度に1回だけ利用できる

④ 上院議事運営専門家(Parliamentarian)が法案内容を確認し、バード・ルールに適応しないものは除外される

2022年の年度予算で民主党は財政調整法案を用いてIRA(インフラ削減法)を可決した。その時に、最低時給$15を法案に盛り込んだが、上院議事運営専門家により却下されたため除外された。スーン上院院内総務も、ルールを重んじると思われるので財政調整法案を利用したとしても、財政調整法案のルールは守るだろう。

来期の議会にとって、2017年トランプ減税が2025年末に期限切れを迎えるため、その延長(あるいは恒久化)が最優先の議案だ。

これらは財政調整措置で対処できるため、一定期間の延長は党内の多くが承諾するだろう。恒久化については、難しいのではないかとみている。

あと、 ルミス上院議員が提出した「BITCOIN Act of 2024(ビットコイン法)」への期待が高まっているようだが、これもフィリバスターを突破する必要があるだろう。民主党内で賛成派もいるので超党派で賛成できる気もするが、トランプ政権下で、民主党は協力しない可能性が高いだろう。

【3】 新たに就任したスーン上院院内総務

採決スケジュールを決める権利は、基本的に上院院内総務がもつ。数十年間、マコネル上院議員がこのポジションにいたが、今年11月の党内投票でジョン・スーン上院議員(ND州選出)が就任した。すでに上院院内幹事というNo.2のポジションを務めていたので、順当といえる。

上院院内総務を決める党内選挙の結果は以下の通り※4)

1回目:ジョン・スーン院内幹事(27票)/ジョン・コーニン議員(15票)/ リック・スコット議員(13票)
2回目: ジョン・スーン院内幹事(29票)/ジョン・コーニン議員(24票)

トランプ次期大統領やイーロン・マスク氏、MAGA支持者が支持したリック・スコット上院議員は最下位で13名しか支持しなかった。2022年の党内選挙の時は10票だったので、あれだけトランプ次期大統領や支持者らが呼びかけたにも関わらず、たった3票しか増えなかったということだ。

上院共和党トップを巡るトランプ次期大統領の呼びかけは、上院議会に影響を与えられていないことがわかるいい事例のようにみえる。スーン上院議員は上院院内総務に就任してから、トランプ次期大統領と既に電話会談をしたようで協力関係は築けている。

スーン上院院内総務は予備選時はティム・スコット上院議員を強く支持していた。1/6議事堂襲撃事件が起こってからトランプ前大統領を厳しく非難していたし、2024年大統領選での最終的な支持も上院議員内ではやや遅かった。といってもマコネル上院議員よりは早かったが※5)

トランプ次期大統領の要求にこたえるかというと、それはまた別問題である。記者からの質問にもうまく受け交わして「すべてを検討する」と慎重な姿勢でのぞんでいる。今後、フィリバスター廃止を求めるトランプ次期大統領と協議する必要もでてくるだろう。以前からスーン上院院内幹事はフィリバスターを支持しているため、今のところは存続するだろう。

【4】一枚岩になりきれていない下院議会

下院議会の選挙は、まだ続いている。AP通信は3議席、Decision Desk HQで2議席で当選確実がでていない。現在の集計状況ならば、共和党は221議席、民主党は214議席となるだろう。

下院議会は過半数の議席218議席を確保したとはいえ、全員出席したと仮定すると党内から4名の造反者をだすと法案が可決しないことになる。

また、既にFL州州務長官はゲーツ元下院議員のFL州1区と国家安全保障担当補佐官に指名されたウォルツ下院議員のFL州6区は補欠選挙が告知された※7)。ウォルツ下院議員は1月20日に下院議員を辞任すると発表した※8)。この2議席は予備選挙、本選挙を経て議席を埋めるのは2025年4月になる。

そのため、来年119会期は1月に空席が2議席出ることになる。その際は、共和党219席、民主党214席、空席2席でスタートすることになるだろう。

また、国連大使に指名されたステファニック下院議員※9)も下院議員を辞任することになるため一時的に218議席まで議席が減ることになるだろう。

下院議員の空席は、基本的に補欠選挙となるため空席を埋めるために時間がかかる。

11月13日、下院共和党の指導部を決める党内選挙が行われた。全会一致で、ジョンソン下院議長とスカリス院内幹事が再選した※10)。トム・エマー院内幹事も再選。また年初に下院議長選で混乱がある可能性もあったが、その懸念はほぼなくなっただろう。

トップ3は118会期と変わらないが、No.4とNo.5に入れ替えがあった。新たに下院共和党会議議長にリサ・マクレイン下院議員、下院共和党政策委員会議長にケビン・ハーン下院議員が就任した。ケビン・ハーン下院議員は、共和党内最大のコーカスRSC(Republican Study Committee)の議長。

下院共和党には、より強硬姿勢をだしてくるフリーダムコーカスが数十名いる。

MAGAと同じ政策を掲げている一面もありトランプ次期大統領支持者も多いが、決して同じ方向を向いているわけではない。財政赤字に対してはより厳しく、積極的な緊縮財政を掲げている。政府閉鎖を回避するためのつなぎ予算の採決では、フリーダムコーカスはだいたい反対票を投じている。なんなら、共和党下院議員からは毎回90名前後の議員が反対に票を投じている。

議席差が現在とほぼ変わらないので、ジョンソン下院議長は引き続き難しい舵取りを行う必要があるだろう。

ただ、下院議長の解任投票を要求するために、下院議員9名を集めるルールに変更されたのは朗報だろう。今までは1名だったので、誰でも下院議長の解任投票を要求できたが、少しだけハードルが上がった。来期はマッカーシー下院議長の解任劇のような事態は避けられるだろう。

※1)https://x.com/krassenstein/status/1860092889025642712
※2)Murkowski says she isn’t voting for Trump or Harris
※3)Gaetz withdrawal from AG nomination is among quickest in history
※4)Thune elected Senate majority leader
※5)No. 2 Senate Republican John Thune endorses Trump
※6)Trump picks Florida Rep. Waltz as national security adviser
※7)PRESS RELEASE: Florida Department of State Announces Special Election Dates for Florida Congressional District 6
※8)Mike Waltz to resign from House day of inauguration to join Trump administration
※9)5 things to know about Elise Stefanik
※10)House Republicans lock in leadership positions for next Congress


編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。