新・中野サンプラザ整備の中断をどう乗り越えるべきか

加藤 拓磨
要点まとめ

中野サンプラザ跡地再開発の中断は、総工事費増大や物価高騰に加え、プロジェクトマネジメントの問題が絡み合った結果といえます。この状況に対し、中野区は財政負担の軽減とプロジェクトの再構築を進める必要があります。具体的には、施工予定者への負担要求、基本計画の小規模見直し、さらには維持管理費の圧縮策としてMN21の解散や寄付制度の活用が提案されています。また、再選定を含む柔軟な対応と、長期的な開発計画を視野に入れた戦略が求められます。

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中野駅新北口駅前エリア拠点施設いわゆる、新・中野サンプラザにおいてはご周知のとおり、令和6年7月上旬に事業認可申請するも、2か月足らずの8月下旬に総工事費が900億円以上上昇することがわかり、急遽、事業認可申請の取り下げをすることになりました。

中野サンプラザ跡61階ビル、完成延期に 建設費900億円上ぶれか

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これまでの経緯は以下をご参考に。

新・中野サンプラザ再開発ストップの衝撃:中野区政に与えるインパクト

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9月25日、朝日新聞が「中野サンプラザ跡61階ビル、完成延期に 建設費900億円上ぶれか」の記事を掲載した。 区によると跡地に建設が予定されているのは地上61階、高さ約250メートルの複合施設「NAKANOサンプラザシティ(仮称)...

中野区議会議員としてこのトラブルにどう対処すべきか、11月27日の中野区議会本会議一般質問において提案しましたのでご報告させていただきます。

ニュースとしては以下をご参考に。

再開発見直しの中野サンプラザ、区長「事業者の再公募含め検討」

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 事業費の高騰で再開発計画を見直すことが決まった東京都中野区の「中野サンプラザ」について、酒井直人区長は27日、事業者を変更する可能性もあるとの考えを示した。変更になれば、現在の計画を白紙とする抜本

11月11日に開催された中野区議会の中野駅周辺整備・西武新宿線沿線まちづくり調査特別委員会における本件に関する報告では、「特定業務代行者から示された工事費(2636億円から900億円、30%以上の上昇)について、第三者への委託による精査を踏まえ、特定業務代行者と協議を行ったが、大幅な減額は難しいことが分かった」とのことです。

精査は9月以降と推測されるため、上昇率を加味すれば、7月に事業認可申請したものが妥当な金額ではなかったのではと疑われても致し方ありません。

結果、事業認可の取り下げは東京都・国からの信用を大きく損なう行為となったのではと考えます。

中野区は2か月足らずで900億円が上昇した理由、証拠として何も施工予定者から資料を示されていないにも関わらず、事業認可申請の取り下げを実質容認しました。

施工予定者の判断に地権者である中野区が関与できない歪な体制です。

事業が中断した原因追及および公表がなく、区は区民への説明責任を果たせていないと考えます。

再整備計画が中断し、直近として大きな課題は、中野サンプラザ等の維持管理費です。

再整備が実行に移されていれば、中野区は663億円の価値がある旧区役所庁舎・中野サンプラザ等を野村不動産に売却し、転出補償金約400億円の収受、および新サンプラザ内に263億円分の権利床を権利変換という形で取得する予定でした。

その400億円を原資に中野サンプラザの土地建物を所有する株式会社まちづくり中野21(以後、MN21。中野区が株100%所有。)の解散に必要な43億円の借金返済、MN21の不動産売却益で生じる法人税100億円納税を予定しておりました。

中野サンプラザ土地建物の価値は354.5億円であり、この売却益におよそ30%の税金がかかる試算です。

新役所整備の借金116億円の返済も想定されておりました。

この計画が崩れたことにより、様々な費用が出てきます。

新北口駅前再整備に関わる費用

月々に換算すると「中野サンプラザの固定資産税」1850万円、「中野サンプラザと旧中野区庁舎の閉鎖管理費」400万円、「MN21借入金金利」550万円、月の合計2800万円、年間にして3.36億円の費用がかかりますが、何もしなければ、実質、区が支払うことになります。

また新区役所整備の区債(借金)116億円があり、年間利子が7600万円あります。

そのためサンプラザ再開発中断により発生した費用は年間4.12億円(3.36億円+7600万円)となります。

この支払いが生じた主要因としては、物価高騰等の社会情勢であることは間違いありませんが、大幅に時期が遅れたプロジェクトのマネジメントにも問題があったと考えます。

11月27日の中野区議会第三定例会一般質問(以降、一般質問)で筆者は、「プロジェクトのマネジメントにおいて、中野区側に全く問題がないと言い切れるのか」と確認したところ、

区としては施工予定者による事業計画内容について、施設計画とりまとめ段階、都市計画手続き段階など、事業の節目において事業収支を含む内容の確認を行っている。また、施行認可申請にあたっては、施工予定者が作成した事業計画内容を確認し、地権者の区として同意し、適切に手続きを行ってきたと認識している。今後、事業を再構築していくことなるが、区としては今回の認可申請から取り下げまでの経緯、状況を踏まえ、施工予定者に対し、強い姿勢で協議を進めていきたい。

との答弁でした。

煙に巻いた答弁でしたが、中野区側には全く問題がなかったのであれば、施工予定者に多分な問題があったということになります。

関係各所との信頼関係が損なわれた状況を作った施工予定者とそのまま事業継続するため、施工予定者には、大きく分けて二つの条件を受け入れていただく必要があろうかと考えます。

施工予定者との事業継続の条件

一つ目として「施工予定者が固定資産税等を負担する」ことです。

委員会において「施行予定者に対し、施行認可申請時の事業計画に示されていたスケジュールからの遅延に伴い新たに生じる地権者への負担については、施行予定者側で負担するよう求めている」と報告しておりますが、一般質問で「施工予定者側で負担することが叶わなかったとき、事業者の再選定をするか」との問いに、「状況によっては事業者の再選定の可能性も含めて検討していく」との答弁でした。

二つ目として、計画見直しは小規模かつ新たな区負担がないものとすることです。委員会に置いて「施設計画について、部分的な変更に留まらず、基本計画から見直しが必要であることから、令和7年度中の施行認可の申請は極めて困難である」と報告しております。

基本計画の見直しが大規模なものであれば、施工予定者選定のプロポーザルまでさかのぼる必要があると考えます。

中野駅新北口駅前エリア拠点施設整備(野村不動産提案)

2021年の施工予定者選定のプロポーザルで野村不動産提案の施設は超高層ビル一棟でした。

中野駅新北口駅前エリア拠点施設整備(東京建物提案)

例えば、基本計画の見直しでコンセプトが当時、東京建物がプロポーザルで提案したツインタワーに類似するようなことがあれば、その基本計画を認めるわけにはいきません。

別件ではありますが、中野区においては落札後の業務の仕様変更においては落札できなかった他の入札業者に訴えられる可能性があるために簡単ではないという事例がありました。

そのため、基本計画の見直しは小規模である必要がありますし、新たな区の負担がないようにしていただく必要があります。

また900億円の総工事費の圧縮のためには当初案よりもスペックダウンせざるを得ませんが、区長は特別委員会でアリーナ機能を重要視する趣旨の発言がありました。

諸々の要件を満たしながらの基本計画の見直しが必要となり、かつ、施工予定者が選定された評価結果から逸脱していないかを判断する必要があります。

そこで一般質問で「中野区は見直された基本計画が許可すべきものであるかの判断基準をどのように考えているのか確認したところ、

これまでの計画内容と大きな乖離があった場合には、必要に応じて第三者に意見を伺い判断することも検討していきたい。

との答弁でした。

二つの条件をこなして、ようやく施工予定者との事業継続を許容するといったところでしょう。

しかし口を開けて施工予定者が基本計画を見直すことを待っているだけでは、最悪の事態に対して後手に回ってしまい、区はいらぬ出費をすることになります。

そこで施工予定者の再選定とならざるを得ない事態に備えて、シミュレーションをしておく必要があります。

中野サンプラザ等の維持管理費の内訳とその圧縮手法

維持管理費のうち、まちづくり中野21の借入金利息は元本43億円を返さなければ、なくなりません。

一般質問で「当初案であった旧庁舎・中野サンプラザの転出補償金約400億円の収受できるかは未定であり、何も生み出さないこの借入金の早々の返済は選択肢のひとつと考えますが、中野区の見解は」と確認したところ、「MN21の借入金元本は約43億円であり、会社単独での返済は難しい状況であることから、区が支援することも想定のうちの一つとして考えている」との答弁でした。

まちづくり中野21がサンプラザ土地建物を寄付する条件・メリット

次に固定資産税ですが、まちづくり中野21が民間企業であるため納税してきましたが、区が所有することで公共の土地建物となれば、固定資産税は発生しません。

区が中野サンプラザを所有する方法として、区が買い取る方法もありますが、まちづくり中野21が中野区に寄付する方法もあろうかと思います。

国税庁HPに、「法人が支出した寄附金の損金算入」については「国や地方公共団体に対する寄附金及び指定寄附金は、その支払った全額が損金に算入されます。」と記載されております。

もし寄付ができるのであれば、まちづくり中野21解散時に支払う予定の法人税約100億円を納税する必要もなくなるかもしれません。

一般質問で「まちづくり中野21の借金等をすべて清算し、土地建物だけを純資産とし、寄付し、解散をするような道筋とすれば、実現できるのはないかと考えますが、区の見解を」と確認したところ、

区への資産移転は、負担軽減のための有効な方策であると考えており、今後の選択肢の一つとして検討を進めているところである。資産移転の手法は、寄付や配当など様々考えられるが、その手法により発生するまちづくり中野21に対する課税について、専門家に確認を行っており、今後、国税局と相談を行うことを考えている。

との答弁でした。

これまでの提案がすべて実現できれば、旧庁舎・サンプラザの閉鎖管理費のみが維持管理費となり、月々400万円です。

現在稼働中の駐車場、今後サンプラザ前広場の開放により、維持管理費分の収益は見込めます。

維持管理費を実質ゼロにできたとすれば、プロジェクト、土地所有のあり方、様々なことに対して、腰を据えて考える時間もできるのではないかと考えます。

そこまで当初案と前提条件が異なれば、定期借地という考えも浮かんできます。

900億円上昇してしまった総工事費のうち、転出補償金約400億円を建設前に支払う必要がなくなり、新たな施工予定者もプランを考えやすくなるのではないでしょうか。

中野区には、今後あらゆるシチュエーションに対してシミュレーションをしていくことを強く望み、私もアイディアを今後とも提案してまいります。

(2024年12月5日 加筆)