アップル社が同社の廉価版スマホSEシリーズに自社開発した通信用半導体を25年に搭載すると発表しました。これはもともとアップル社に半導体を供給していたクアルコム社との間で特許料という名目の費用が高すぎてトラブルになっており、アップル社は「それなら自前で作ってやる!」と啖呵を切ったところがスタートです。
ところが自前の半導体はそう簡単ではなく、悪戦苦闘しながらもようやく製品に搭載できるようになったということかと思います。手始めに廉価版のSEに搭載するという選択肢はアップル社がその半導体に「恐る恐る移行する」というスタンスが見えるのですが、これはやむを得ないでしょう。同社としては今後、同社のスマホ全般にこの内製化した半導体を徐々に組み込むとされています。
これで困るのはクアルコム社。アップル向けが約2割あったとされますから業績には大きな影響が出てきます。
内製化とは他社に依存していた業務を自社で賄う、つまり自前主義にすることです。メリットはコストコントロールが容易であることと作業の流れ、工程管理がやりやすくなるのです。また品質コントロールもしやすいと思います。
例えば私の会社では今、海上浮上型事務所を工場制作しています。業者選定の決め手の一つとなったのが選んだ業者が自前主義を徹底している点でした。つまり設計と建築作業なのですが、工場制作ゆえに現場作業員まで囲い込んでいるため、作業工程が早いのです。
今回の全体の工程は7カ月。いわゆる現場で作る在来工法ならカナダではこの2倍かかってもおかしくありません。顧客である私からすれば工期が短く、品質がしっかりしているのはありがたいのです。
この自前主義は大企業で徐々に進んでいる気がします。テスラやBYDは自前主義の代名詞のようなものですが、その結果どうなるかと言えば技術を囲い込むだけでなく、顧客の囲い込みもできるのです。つまりテスラやBYDならでは、という特性を出すことで顧客が他のブランドに浮気しにくくなるわけです。
iPhoneだって一度使ってしまうとなかなかアンドロイド版のスマホに戻しにくいのは、機種を変えた時にデータの移行がスムーズではなく「別の会社の機種にするのは面倒くさい」と顧客が感じるからです。これは私も同じ。だから私は「アップル信者」ではなく、「アップルの囚人」だと思っています。囚われてしまったのです。同様にテスラにはまるのも同じこと。
今、アメリカでTikTokの規制問題が話題になっています。連邦控訴裁判所がTikTokの規制は合憲と判断し、1月19日に施行されます。
さて、これが正しい判断なのか揺れるその裏側で理解しておくべきことがあります。それはTikTokが規制されれば誰が笑うか、です。そう、メタ社のマークザッカーバーグ氏が笑うのです。そりゃそうです。SNSの覇者である同社にとってライバルが規制されればこれは願ったりかなったりでしょう。同社の株価はうなぎのぼりで上昇していますが、ほとんど話題にはなっていないのはむしろ話題にしないようにしているのではないかと勘繰りたくなるのです。
ただ、トランプ氏の考えは揺れており、ザッカーバーグ氏が独り占めすることに躊躇しているとされ、もしかすると施行される1月19日の翌日、つまりトランプ氏が大統領に就任する時に「いや、待て!」というかもしれません。これも一種の囲い込みの発想の一つであり、その結果、寡占化、複占化から独占に移行するわけで、資本主義経済学としてはあまり芳しくない展開になるのです。
つまり自前主義が行き過ぎると顧客側は選択肢が少なくなり、供給側の言うなりなりやすくなるのです。これは競争の原則とか、切磋琢磨された商品開発といった観点からは相当のマイナスです。
日本では「出る杭は打たれる」傾向が強い為、自前主義とか独占という発想はなかなか展開しません。たとえば旧経営陣の時代のシャープは自前主義ブラックボックス型ビジネスでしたが、結局それは行き詰ります。そもそも自前主義を唱えてもそれより良い製品が必ず出てくるため、自前にこだわることで技術的革新が遅くなることを日本の経営者は経験則で理解しているのでしょう。
そういう観点からすればアメリカは巨大化し、M&Aと自前主義で「大きいものだけが生き残る」道を驀進しています。一方の日本は引き続き企業戦国時代ですが、この切磋琢磨、ライバル心むき出しが最終的には日本の技術が廃れない理由なのかもしれません。
日本のビジネスは他国に比べて劣っているかといえばそんなことはないのです。企業の規模と知名度が足りないのです。その改善をすればよいだけです。世界戦略のためのマーケティングとその人材の育成。それができれば日本は今の世界の潮流の中で案外しぶとく生き残れると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年12月13日の記事より転載させていただきました。