東京都の外郭団体「GovTech東京」が実施する中高生女子向け体験イベント「Girls Meet STEM」に対し、市民から批判が集まっている。
(参加者募集)中高生女子向け体験イベント「Girls Meet STEM」行政のデジタル化ってどんな仕事?
このイベントは、科学技術や情報分野(STEM)への女子生徒の関心を高める目的で、12月22日に都内で開催予定だという。だが、参加対象を「女子中高生」に限定するという条件に、市民による反発の声が高まりつつある。
「どういう理由で企画通ったのか知りたいわ」「男性が少ない分野に男子学生専用講座なんて見たこともない。何でこんな差別がまかり通るんだろう。」「体験格差を公的機関が助長」「これはイカンやろ…」など、SNSでも波紋が広がっている。
ホームページによれば、日本においてITエンジニアとして活躍する女性の比率が低いことを理由に女子限定としたという。しかし、批判側からは「本来、STEM教育は性別を問わずすべての学生が平等にアクセスできるべき」との声も根強い。
また、人権派と見られる市民からは「公的資金を用いる団体が特定の性別のみを優遇するのはおかしい」という意見が噴出。教育機会は平等であるべきだ、という主張が注目されている。
こうした動きは国内にとどまらず、国際的な議論と照らし合わせても問題が指摘されている。最新の研究報告注1)によると、米国ではSTEM分野における性別を限定した教育プログラムは「差別」とみなされ、公民権侵害として法的追及を受けるケースが多発しているという。
その報告によれば、1972年の教育改正法(通称、Title IX)が性別による教育機会の制限を厳しく規制しており、2024年時点で米国ではそういったプログラムが縮小傾向にあることが示されている。つまり、国際的な潮流としては、「女性限定」「男性限定」といった性別を問う枠組み自体が、差別行為として認識される可能性が高まっているのだ。
この報告はさらに、日本のSTEM分野における女性限定プログラムは、国際的なダイバーシティ推進の名の下で実施されてきたものの、現時点の米国事例と比較すれば、その実施根拠が揺らぎ始めていると指摘し、「STEM 分野における日本の女性限定の教育プログラムについて、再検討が求められるだろう」と締めくくっている。
つまり、東京都が推進する「Girls Meet STEM」は、その理念自体は「女性の参入促進」を掲げているものの、国際基準から見れば性別による一律な排他は、むしろ不当な差別として批判されかねない。性自認が女性である中高生も参加可能であるとされているが、その場合は参加するために自身が性的マイノリティであることをカミングアウトすることが前提となるため、より深刻な懸念を生じさせる。
また、東京都の外郭団体が行う施策である点も、問題を深刻化させていると言えるだろう。民間企業の性別制限キャンペーンとは異なり、今回の企画には公的資金が関与している可能性が非常に高い。つまり、都税などの公的資金が特定の性別のみを対象とする教育イベントに投じられることになる。
これは「公共性」という観点からの重大な疑問を突きつけるものであり、「東京都は多様性を掲げてきたが、男性は対象ではないのか?」「公的機関が性差別を行っていいのか?」といった批判が、今後さらに強まる可能性がある。
このような市民からの批判について著者が情報を募ったところ「男女別なく募集すると男子しか応募がなく、その結果を見た国が『ジェンダー平等』を推進している手前いい顔をしないから、しぶしぶやっている(教育関係者)」「女子限定にした方が助成金が取りやすい(NPO関係者)」といった情報が寄せられた。東京都だけでなく、日本社会全体としての構造的な問題が存在する可能性も示唆される。
東京都やGovTech東京がもし説明責任を果たさずに押し切ろうとすれば、さらなる反発は必至だろう。逆に、この機会に企画を再検討し、男女問わず幅広くSTEM教育機会を提供する方向へ舵を切れば、一定の理解が得られる可能性もあるが、現時点では、市民感情は悪化の一途をたどっていると言わざるを得ない。
牛角の女性限定割引騒動がまだ記憶に新しい中、公共機関が同様の「限定」を仕掛けたことで、「結局は多様性を盾にした一種の差別行為ではないか」との疑念が加速している。国際的な潮流、国内外の法的リスク、そして市民感情。性別限定の教育プログラムが逆風を受ける中、東京都はどう動くのか。対応次第ではさらなる批判の渦に巻き込まれることも避けられないだろう。
なお、当記事の執筆にあたり、GovTech東京に見解を求めたところ、以下のような回答があった。
(引用埋め込み)
当財団は、東京全体のDXを進める新たなプラットフォームとして2023年9月から、行政のDXに向けた様々な取組を展開しています。
今後、行政サービスを担う職員の大幅な減少が見込まれる中、行政サービスや行政運営そのものを変革する行政DXは必須であり、公共分野を支えるデジタル人材を創出していくことが重要と認識しています。
今回、公益財団法人山田進太郎D&I財団及び一般社団法人42 Tokyoが主催する取組の趣旨(以下のとおり※)に賛同し、「Girls Meet STEM〜ITのお仕事を体験しよう〜」というツアー形式のプログラムに参画する形で、GovTech東京においても実施するものです。
当財団としては、今後とも様々な取組を通じて、多様な方々に行政やそのDXに関して興味を持ってもらい、公共分野を支えるデジタル人材の創出に取り組んでいきたいと考えています。
※「Girls Meet STEM〜ITのお仕事を体験しよう〜」の趣旨
ITエンジニアとして活躍する女性比率が低い水準にあるなどの背景の中で、業界を代表するIT企業や官公庁が連携して、若い女性たちのIT*領域におけるキャリア選択を支援し、社会全体で彼女たちを応援する流れを作ることを目指して特別プログラムを開催するもの。*中高生女子にIT業界の仕事を体験できる実践的な機会を提供し、将来の進路やキャリア選択の幅を広げるための後押しを行うことを狙いとしている。詳細は、山田進太郎財団のホームページをご覧ください
【参考文献】
注1)國武悠人:STEM分野における性別を限定した教育プログラムの国際動向:米国事例の予備的調査, 情報処理学会研究報告, Vol. 2024-IS-170, No. 2, pp. 1-2, 2024.