労働生産性の国際比較:東欧・南欧

sesame/iStock

1. 労働者1人あたりGDPの国際比較

前回は、西欧・北欧・北米諸国の労働生産性(労働者1人あたりGDP、労働時間あたりGDP)についてご紹介しました。

この地域はどの国も労働生産性が軒並み高く、全ての国で日本の水準を大幅に上回っている事がわかりました。

今回は、急速に経済水準の上昇している東欧諸国と、変調が指摘されがちな南欧諸国の労働生産性についてご紹介していきたいと思います。

まずは、2023年の労働者1人あたりGDPについて国際比較してみましょう。

図1 労働者1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値 東欧・南欧 2023年
ILOSTATより

図1が東欧・南欧諸国の労働者1人あたりGDPについて、2023年の国際比較です。

バルト三国は機関によっては北欧に区分されますが、今回は東欧として区分しています。

この地域では、西欧・北欧ほど水準は高くありませんが、多くの国で日本を上回ったり、相応する水準となっています。

相対的にイタリア(10.9万ドル)、スペイン(9.4万ドル)の水準が高く、スロベニア(8.7万ドル)、チェコ(8.5万ドル)、リトアニア(8.4万ドル)、ギリシャ(8.3万ドル)も日本(8.0万ドル)の水準を上回るようです。

クロアチア(7.9万ドル)、ルーマニア(7.8万ドル)、ポルトガル(7.7万ドル)もほぼ日本と同水準と捉える事ができますね。

2. 労働者1人あたりGDPの推移

続いて、東欧・南欧諸国の労働者1人あたりGDPについて時系列的な推移を眺めてみましょう。

図2 労働者1人あたりGDP 実質・購買力平価換算値 東欧・南欧
ILOSTATより

図2が東欧・南欧諸国の労働者1人あたりGDPの推移です。

多くの国で右肩上がりで上昇していて、日本を追い抜いたり、追い上げたりしている状況がわかります。

ただし、イタリア、スペイン、ギリシャなど主に南欧諸国で2000年からリーマンショックのあたりを境に停滞傾向となる国が目につくのも特徴的ですね。

ハンガリーやクロアチアでも停滞傾向が見られます。

スロベニア、リトアニア、チェコは1991年の段階では日本を大きく下回っていましたが、2010年代後半あたりで日本を追い抜いています。

また、クロアチアやルーマニアなども1991年の段階では日本とかなり差がありましたが、大きく上昇している様子がわかりますね。

近いうちに追い抜かれそうです。

特に東欧諸国では急激な生産性の向上が見られるという事になりそうです。

3. 労働時間あたりGDPの国際比較

続いて、もう1つの労働生産性の指標である労働時間あたりGDPについても国際比較してみましょう。

図3 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 東欧・南欧 2023年
ILOSTATより

図3が2023年の労働時間あたりGDP(実質 購買力平価換算値)の国際比較です。

労働者1人あたりGDPよりも、日本(41.7ドル)を上回る国が増えている事がわかります。

イタリア(61.7ドル)、スペイン(56.8ドル)、マルタ(50.7ドル)、スロベニア(48.2ドル)、チェコ(46.3ドル)、ギリシャ(41.9ドル)に加えて、エストニア(43.9ドル)、ポルトガル(43.7ドル)、クロアチア(44.1ドル)が日本を上回ります。

また、ラトビア(40.7ドル)やルーマニア(38.4ドル)も日本と相応の水準ですし、スロバキア、ポーランド、ハンガリーもかなり近い水準となっています。

イタリアが日本の1.5倍近くという事も意外ですが、スペインも日本の水準を3割以上上回ります。

欧州諸国は平均労働時間が日本よりも短い国が多く、労働者1人あたりよりも労働時間あたりの水準の方が高い国が多いですね。

4. 労働時間あたりGDPの推移

最後に、労働時間あたりGDPの推移についても眺めてみましょう。

図4 労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算値 東欧・南欧
ILOSTATより

図4が労働時間あたりGDP(実質 購買力平価換算値)の推移です。

イタリアはこの地域では非常に高い水準ですが、横ばいが続いている事がわかります。

スペインは近年停滞気味ですが2005年の水準からすると上昇していますね。

スロベニア、リトアニア、チェコ、クロアチア、ポルトガルは2005年の段階では日本を下回っていましたが、2023年には上回っています。

ギリシャはイタリア同様停滞傾向が続いていますが、日本以上の水準です。

上昇傾向が続くルーマニア、近年やや減少傾向となっているスロバキア、ポーランド、ハンガリーも2005年の水準からすると日本との差はかなり縮まっています。

今後どのように推移するかわかりませんが、近いうちに日本を上回る可能性も高そうですね。

5. 東欧・南欧の労働生産性の特徴

今回は、東欧・南欧諸国の労働生産性についてご紹介しました。

南欧諸国は2000年代から労働生産性が停滞傾向となる国が多い一方で、東欧諸国は急激に上昇しています。

日本は主に東欧諸国の労働生産性で抜かれています。それだけ国際的な立ち位置が低下している事になりそうです。

日本は生産性が低いとされますが、現在進行形で少しずつ色々な国に追い抜かれている状況となります。

生産性の高さはそのまま給与水準と直結しますので、給与水準も他の国に抜かれている事になりそうです。

日本の商習慣のどのようなところが生産性を下げているのか、もう一度棚卸してみる必要があるかもしれませんね。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2024年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。