先週、『亡国宰相』というタイトルの連載を『夕刊フジ』にしたここでは、その第一回と二回をまとめて加筆して紹介したい。
第一話は石破氏の何処がトランプ大統領との関係で心配かという話で、第二話は南米でのAPEC・G20での失態を独自の情報も交えて紹介している。
亡国宰相①
「石破外交」は危惧されていた以上に、国を滅ぼしかねない。保守派の人々は、中国や韓国に融和的過ぎることやグローバリストらしいということを問題視してきたが、私は安倍晋三元首相の後継が議論され始めた2010年頃から一貫して、石破茂首相の語学力や社交術、外交経験のなさなど「外交能力の欠如」こそ心配だと指摘してきた。
夕刊フジにも2020年8月、「石破氏は国際経験が乏しく、もっと自ら外遊して海外の要人と会ったり、彼らが集まるスイスのダボス会議などに出かけて、英語でスピーチなどをすべきである」「回りくどい話しぶりも良くない。ドナルド・トランプ米大統領には、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と同じように嫌われ、日本の国益を守れないだろう」と書いた。アゴラでは、「5分で電話を切られそう」と書いたことがある。
9月の自民党総裁選の9候補のなかで、石破首相だけが英会話ができず、石破首相と加藤勝信財務相以外はすべて米国留学経験者だった。バブル期の留学ブームの結果、官僚主審者も世襲政治家もこれだけ国際化人材がそろっているのに、唯一、「鎖国脳」で民間エリートでも考えられないほど低レベルのリテラシーしかない石破首相を選んだ自民党も支持した世論もどうかしている。
トランプ次期大統領には私の予言通り、5分で電話を切られた。日本政府は早期会談を提案したが、「来年1月の就任式まで外国首脳とは誰とも会わない」と断られた。
だが、カナダのジャスティン・トルドー首相や、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、米フロリダ州にあるトランプ氏の別荘に呼ばれた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領から、パリのノートルダム大聖堂の復興式典に招待されて、トランプ氏は集まった各国首脳と会談している。
石破首相は電話会談の後、「本音で話せそうだ」と語ったが、何を根拠にそういったのか。国益を背負って外交を行う国家のリーダーとしてはお粗末な脳天気ぶりだ。
盟友関係を築いた安倍氏や、ゴールドマンサックス時代にビジネスでトランプ氏の会社担当だった公明党の岡本三成政調会長は、口をそろえて、トランプ氏はいい気分にさせたうえで、おもむろに、「ただ、実は数字を見ると…」と繊細かつ周到に説得すべき人物だと語っている。そういう助言も聞いてもいないようだ。
石破首相は20年7月、日経新聞主催のイベントで、「(米国と中国のいずれか)二者択一の立場は取らない」と、鳩山由紀夫元首相並みに物騒なことを言ったと報じられた。いくらじっくり話をするのが好きだからといって、「安倍外交からの方針変更」と受けとられる危険性がある発言は、国際的信用にかかわるから言うべきでない。
特に、トランプ氏相手では、「石破首相=親友だった安倍氏の敵対者」であることを思い出させる発言は禁句だろう。
また、大東亜共栄圏の復活と受け取られかねない東アジア版NATOとか、大胆な憲法改正や、自衛隊の行動範囲を大きく広げることも、目算もないのにいう話でない。
日米地位協定の改定も、米国では日本の人質司法への懸念から、日本の司法では米兵の人権は政党に守られないとむしろ「現状より後退させるべきだ」という意見すらあることを知っているのだろうか。司法改革を根本的にしないと地位協定をドイツ並みにするなんてまるで無理な相談だ。
沖縄の期待を安直に膨らませるのは、普天間飛行場の移設先について、鳩山氏が「最低でも県外」と発言した二の舞になりかねない。
亡国宰相②
石破茂首相は11月、ペルーでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)と、ブラジルでのG20(20カ国・地域)という2つの重要な首脳会議に出席した。だが、外交経験に乏しい石破首相にとっては、「針のむしろ」だったようだ。
ペルーの首都リマでは、自分は座ったままで各国首脳と握手したり、腕を組んで式典を観覧したり、外交マナーで不慣れが目立った。大統領府で催されたAPEC首脳歓迎夕食会では、5皿のフルコースのうち2皿で予定外の途中退席で夕食会場から逃げ出したも同然の狼藉だった。
最終日も、各国首脳との集合写真撮影にも、フジモリ元大統領の墓参りに出かけて、交通渋滞で間に合わなかったと報じられた。ただ、そもそも大事な各国首脳との交流機会を犠牲にする話でないし、そこに各国首脳と話さざるを得ない会場から逃げ出したのではと揶揄(やゆ)する声もある。少なくとも交通渋滞などなかったらしい。
中曽根康弘元首相が英語とフランス語を駆使して日本外交の地位を上げたのは、もう40年も前の話だ。安倍晋三元首相は、ドナルド・トランプ次期米大統領と各国首脳らとの橋渡し役になった。岸田首相もそこそこ健闘していた。
そもそも、首相になりたいと思うなら、ひごろから語学のレッスンを欠かさないのは常識だ。積極的に海外を訪問したり、国際会議に出席して、自ら外交能力を磨いてアピールすべきだった。国民も国益を守る国家リーダーを選ぶときには、そういう部分を重視すべきだ。もう五年もすれば、英語での候補者討論会くらいしてもいいくらいだ。
もちろん、外国語が苦手でも、森喜朗元首相などは社交能力の高さで補っていた。村山富市元首相は外務省の助言をよく聞き、なかなかよく対応していた。そういう能力も石破首相にはない。
これに対して、菅直人元首相などは、外国人への苦手意識が先に立っている。野田佳彦元首相は、外交センスに欠ける物言いで相手を怒らせたりもした。石破氏はそのレベル以下だ。
もちろん、在外経験があっても「本格的な外交経験」がない人物は安心できない。
鳩山由紀夫元首相は、バラク・オバマ元大統領に米軍普天間飛行場の移設先について、「トラスト・ミー」といって墓穴を掘った。自分の語学力などを過剰に評価していたのだ。
あるいは、首相候補といわれる人たちで、高市早苗氏や小泉進次郎氏らは、語学面は不安なさそうだが、ダボス会議にでも行って、外交能力や社交能力について、厳しい洗礼を受けて安心させてほしい。
今年は、石破首相と野田氏がそれぞれ、総裁と代表就任前に台湾を訪問した。行かないよりはマシだが、欧米など避けて初級コースでお茶を濁したと思われても仕方ない。
石破首相は、正月明けの韓国訪問が予定されていたが、情勢緊迫で中止し、インドネシアとマレーシアに行くようだ。トランプ氏に会うのは怖いかもしれないが、いつまでも逃げてはいられない。
日本の首相として、国益をかけた首脳外交を担えるようになるよう自己改造するには何をすればいいか、戦略を立てて正月休み返上でベストを尽くしてほしい。自信が持てないなら、潔く退陣すべきだ。
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