石破首相と「公邸の幽霊」の相性は?

日本のメディアは27日、石破茂首相が間もなく公邸に引っ越しする予定だと報じた。引っ越しに際しての石破首相の説明がいい。「自分はオバケのQ太郎世代だから、(幽霊は)たいして怖くない」というのだ。

「公邸」と「幽霊」の話は長い。首相時代に公邸に住んだ首相もいたが、さまざまな理由から公邸に引っ越しするのを避けた首相もいた。当方は11年前、「公邸の幽霊は人を選ぶ」というコラムを書いた。首相の立場からではなく、幽霊の視点から、幽霊も首相を選んで出現するという内容だ。

自由民主党総裁選で当選が決まり、祝福の拍手を受ける石破氏 自民党公式サイト、2024年09月27日

このコラム欄の読者の皆さんは既にご存じだと思うが、当方は過去、幽霊については結構、頻繁に書いてきた。幽霊は当方には欠かせられない現実の存在だからだ。幽霊の存在や彼らの考えを理解しないと、問題が解決できないことがあるからだ。それだけ、幽霊は地上で生きている人間にさまざまな影響を与えているのだ。

「幽霊」といえば、どうしても書かざるを得ない話がある。スウェーデンの国民作家と呼ばれるヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849~1912年)は、霊魂をキャッチするためにガラス瓶をもって墓場に行ったというのだ。

また、スウェーデンのカール16世グスタフ国王の妻シルビア王妃は、首都ストックホルム郊外のローベン島にあるドロットニングホルム宮殿について「小さな友人たちがおりまして、幽霊です」と述べたことがある。ドロットニングホルム宮殿は17世紀に建設され、世界遺産にも登録済み。王妃は、「とても良い方々で、怖がる必要なんてありません」と強調している。国王の姉クリスティーナ王女は『古い家には幽霊話が付きもの。世紀を重ねて人間が詰め込まれ、死んでもエネルギーが残るのです』と説明しているほどだ。

日本の皇室関係者が「幽霊」の話をしたとは聞かない。日本には幽霊がいないのではなく、幽霊が反社会的な存在として嫌われているからかもしれない。

欧米の映画やTV番組では幽霊はまだ生きている人間と同じように取り扱われるケースが多い。その意味で、幽霊は欧米社会では市民権を有している。日本の場合、幽霊は単に好奇心や恐怖心の対象として取り扱われることがまだ多いのではないか。

当方が好きな映画「希望を救え」では、病院で最高の外科医と言われていたチャーリーが交通事故でコマ状況(昏睡)に陥り、体から霊が抜け出し、霊人と対話できるようになったことからこの映画のドラマは始まる。

事故から回復し、再び勤務するチャーリーは手術中に意識を失った患者が霊人となって自分の前に現れ、話しかける体験をする。患者は自分の病歴などをチャーリーに話したり、家族問題を相談する。チャーリーは最初は驚いたが、霊の存在を次第に生きている人間のように感じ、コマ状況で霊が肉体から離れてしまった患者の人生相談に応じる。チャーリーが手術前から患者の病気の原因を知っていることに同僚の医師たちは驚く。チャーリーには患者が教えてくれたのだ。

また、カナダのTV映画には霊人(幽霊)が出てくる番組が多い。カナダ騎馬警察官の活躍を描いた「Due South」や、劇団の世界を演出した「スリングス・アンド・アロウズ」もそうだ。それもホラーな怖い話ではなく、霊人が日常生活の中で自然に出てきて、生きている人間と会話を交わすストーリーが多い。

日本のメディアでは一時期、安倍晋三氏が首相時代、なぜ公邸に住まず、私邸から首相官邸に通っているのかで話題を呼んだことがあった。その際、公邸には幽霊が住んでいるからではないか、といわれたほどだ。それなりの理由が報じられた。産経新聞によると、「公邸は昭和11年、旧陸軍の青年将校が起こしたクーデター『2・26事件』の舞台となっており、犠牲者の幽霊が出るとの噂話がある」という。

安倍さんの後継者の菅義偉元首相は議員宿舎に寝泊まりしていたという。岸田文雄前首相は公邸に住んでいたが、幽霊騒動は聞かない。要するに、公邸の幽霊は誰でもいいというわけではないのだ。相性の合わない首相の前には出現しない。出てきてもそれが幽霊だと分らない首相の前には出てきたくないのではないか。

幽霊の特性を知らなければならない。幽霊が出る場合、幽霊とその人物の間には何らかの関係があるはずだ。自分の性格を理解できないような人物の前に幽霊は出て来ない、というより出てこられない。幽霊が傍にきてもそのような人物は分からないからだ。幽霊は何らかのメッセージを地上の人物に託したいと願っている場合がある。地上で出来なかったことがあったら、地上の人物を通じて成し遂げたいと願うこともある。公邸の幽霊の場合も同じだろう。

当方は石破首相の生い立ちや性格、政治家としてのキャリアを知らないから、石破さんと「公邸の幽霊」の相性は分からない。石破さん自身は「オバケのQ太郎の世代」だから、「幽霊は怖くない」と言われている。幽霊を漫画やTVの主人公のようなキャラクターと誤解されているのかもしれない。いずれにしても、石破さんが公邸に引っ越しされ、「昨夜、幽霊を見たよ」と記者団に語ることも決して排除できない。

米テレビ番組「Dr・House(ドクター・ハウス)」でハウスが「人が神に話しかければ、『あの人は信心深い人』」といわれるが、神が彼に話しかけたといえば、『彼は狂人だ』と冷笑される」と語っていた。石破さんが「昨夜、幽霊を見たよ」といえば、「首相は度胸がある」と言われるかもしれないが、「幽霊が自分に話しかけてきたよ」と言って、その内容を語り出したら、記者団は「首相が可笑しくなった」といった記事を速報するかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。