日本の人口減少が未曽有のスピードで進んでいる。総務省の言葉では、
我が国の総人口は、2004年をピークに、今後100年間で100年前(明治時代後半)の水準に戻っていく。この変化は、千年単位でみても類を見ない、極めて急激な減少。
現実は、予想を上回る早いペースでの人口減少を示している。たとえば2025年に50歳になる半世紀前の1975年生まれの日本人の人口は186万人である。それに対して、2024年の出生数は約68万人であった。一世代の人口が、ほぼ3分の1になっているのである。
わずか10年前の2015年には、出生数は100万人以上であった。たったの10年で出生数が3割減っている。
「出生数を改善する」「AIの導入で改善する」「移民を入れるしかない」といったことが言われており、それはいずれも必要な政策検討領域だ。だが、現状を見て、人口減少に歯止めをかける方法をしっているとか、今まで前提にしていた社会機能をそのまま維持する方法がある、などと真面目に考えることができる人がいるとは思えない。
減少ペースの鈍化は、あまりに急激な社会変化をせめて緩和させるために、目指さなければならない。だが、それも手掛かりがあるわけではなく、いずれにせよ減少ペースを「鈍化」させることができるかどうかだけの話だ。このような大規模な人口動態の動きを、小手先の政策で、短期間のうちに逆転させるなどということは、不可能だろう。
すでに日本の債務残高は対GDP比で257%の水準にある(2022年)。この数字の深刻さの評価をめぐって、苛烈な議論があることは承知している。しかし一般会計歳出の4分の1が国債費で占められている現実は、少なくとも大規模な財政出動を伴う措置を取ることが非常に難しい状況を示している。
歳出の3分の1を占める社会保障費に対する信頼感は失墜している。SNSで、高齢者批判、高齢者擁護の双方の立場から、攻撃的なやり取りが過熱している様子を見ることが多くなった。しかし端的に言えば、日本の社会保障制度は持続可能性がない破綻寸前の状態にある、誰にとっても絶望的な状況だ、ということだ。
私自身は、専門を国際情勢の分析の分野においている。日本の存在の縮小は、国際関係全体にもそれなりの意味を持つが、もちろんまずは日本外交にとって深刻な意味を持つ。今までのような外交では通用しない、ということだ。
日本は日米同盟を外交の基軸に置いているが、アメリカの世界最大の軍事力を持つ国であるだけでなく、そもそもGDPが日本の7倍以上の規模を持つ超大国である。約4兆ドルの日本のGDPは、アメリカのカリフォルニア州一州のGDP規模と等しい。広大な太平洋を挟んでいるとはいえ、アメリカは日本の隣国である。日米同盟を基軸にした外交は、今後も柱にはなるだろう。
しかし、ソ連の封じ込めの前線基地としてアメリカが日本の戦略的意義を見出していた冷戦時代のような事情はない。世界経済の17%のシェアを誇る経済力を持っていた時代の日本のような魅力はない。価値は下がる一方だ。アメリカに見放されないためにも、日本が自らの失策で安全保障環境の悪化を招くことなどがないように、周辺国その他との良好な関係の維持にも努めなければならない。
そのためにはアメリカと離反しない範囲で、アメリカ以外の諸国から信頼される外交姿勢をとっていくことが大切だ。ガザ危機をめぐる情勢など、アメリカが国際的な孤立も辞さずICCから逮捕状を発行されている人物の過激な政策を擁護しているような場合、日本外交の立ち位置も、非常に辛いものにはなる。
しかし漠然と追随しているだけでは、結局はアメリカ人の信頼も得られない。突出する必要はないが、世界の諸問題に真剣な関心と懸念を持っていることを、機会を見ながら表現していくことは、大切であろう。
クアッドの盟友となったインドのGDPが、日本のGDPを追い抜くのが、2025年であろうと言われる。ひとたび抜かれた後は、インドの経済規模は、日本の2倍、3倍となっていくだろう。日本のGDPの方が大きかった時代に、どれだけの信頼関係を築けていたかが、問われていくようになる、ということだ。
その他の諸国、あるいは国際組織との外交関係についても同じことが言える。余力のあるときに、どれだけ信頼関係を築いておけるかが、将来を見据えたときのカギだ。国際協力などでも、できれば長く記憶に残る支援をすることを心がけたい。長く残る建造物への資金提供もいいかもしれないが、関わった方々の記憶に残り続ける機会を提供する能力構築支援なども、重要になるだろう。
長く残る記憶を積み重ね、信頼感を得る。当たり前だが、簡単なことではない。大国意識を取り払い、奇抜な特効薬を求めて焦りを募らせることなく、地道な努力を続ける姿勢が求められる。
■
「篠田英朗国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月2回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。