中世カトリック教会なみの超国家的影響力を持つプラットフォーマー

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12月29日、「表現の自由を守る会フォーラム」@東京ビッグサイトを傍聴した。表現の自由を守る会会長の山田太郎参議院議員と最高顧問の赤松健参議院議員による講演だった。

前回、2024年8月のフォーラムでは山田議員の直前の米国視察模様が紹介された。その模様は山田議員の動画に詳しいので そちらに譲り、拙稿「36憶円の年間予算で表現の自由を守る米電子フロンティア財団」で、山田議員が訪問した電子フロンティア財団の活動を紹介した。

今回も新サイバー犯罪条約やクレカ規制問題が中心だったが、Q&Aでは両議員が会場を回り参加者の質問に答えた。

クレカ規制問題に関しては、山田議員の以下の動画で紹介されているのでそちらに譲る。

本稿では、席上配布された「表現の自由を守る 山田太郎ものがたり」の特集2「デジタル時代の独占企業による問題」で、クレカ規制問題とともに取り上げられている諸問題を紹介する。

デジタル時代の独占企業による問題

クレジットカード会社と表現規制
2019年以降、日本で合法コンテンツのクレカ決済の停止が相次ぎ、原因が不明なまま相談が殺到。2024年8月、VISA米国本社を訪問し、「合法コンテンツの価値判断は行わないと回答を得て大きく展開、クレジットカードが独占的な決済インフラであることを踏まえ、デジタル空間での表現物の取引が恣意的に制限されないよう透明で公平なルール作りが必要。

プラットフォーマーと課税
プラットフォームによって、海外アプリ会社の日本での売り上げは増加。しかし、日本へ消費税を納税する義務があるにもかかわらず、多くの海外アプリ会社が未納。そこで、適正な消費税の徴収のため、2024年の法改正でプラットフォーム課税の導入を実現。

外国会社と国内登記
日本で取引を行う外国会社には代表者の指定と登記が必要であるにもかかわらず、多くの企業が未対応。グーグルやマイクロソフトも登記を怠る中、総務省や法務省に働きかけ、多くのグローバル企業で外国会社の国内登記を実現。

海外ゲームと資金決済法
日本で課金ゲームを配信する多くの海外ゲーム事業者が、資金決済法に基づく届出・供託の義務を果たしていなかった。そこで利用者保護や国内ゲーム事業者との公平性の実現のため、金融庁に働きかけ、届出・供託の徹底を推進。

情報流通とプラットフォーム
名誉毀損・著作権侵害の深刻化や恣意的な自主的削除の増加で、情報流通プラットフォームの規制論が本格化。実効的な対策と表現の自由・通信の秘密の保護の両立を図り、情プラ法の制定を実現。行政に表現内容を判断させず、かつ匿名表現の自由を死守。

情プラ法は正式名称「情報流通プラットフォーム対処法」で、インターネット上の権利侵害情報への対策を目的とした法律。2024年5月17日に公布され、公布日から1年以内の政令で定められる日に施行される。

情プラ法については以下の動画に詳しい。

海外プラットフォーマーにモノが言えない日本

大屋雄裕 名古屋大学大学院教授(現慶応義塾大教授)は、グローバルなメディア企業が国家の垣根を超えて肥大化し、世界規模で影響力を持つ事態を中世のカトリック教会にたとえた(渡部明ほか『情報とメディアの倫理』ナカニシヤ出版)。

確かに国家を超える影響力は中世のカトリック教会を彷彿とさせるが、これには日本政府の対応も影響している。

若江雅子「膨張GAFAとの闘い デジタル敗戦 霞ヶ関は何をしたのか」(中公新書クラレ)(以下、「膨張GAFAとの闘い」)は、「はじめに」で以下のように指摘する。

(前略)
経済がグローバル化し、日本の消費者が海外からのサービスを日常的に享受するようになって久しい。海外事業者が日本人にサービスを提供する以上、日本のルールに従ってもらう必要があるのは明らかだった。それなのに、外国法人に法執行できない状況は放置され、適用できる法律を作っても実効性のある制裁の仕組みは用意されず、さらには外国法人に適用できる法があり、それを無視されているのに放置する―という驚くべき状況が延々と続いていた。日本はなぜ海外プラットフォーマーにモノが言えないのか。霞が関は何をしようとし、何をしようとしなかったのか—。

その謎を解こうと、この10年の検証を試みたのが本書である。
(以下略)

膨張GAFAとの闘い」は「おわりに」でも日本にGAFAが生まれない理由などを解説している。これについては拙稿「官民癒着のガラパゴス体質が招いたデジタル敗戦」でも紹介したが、以下に再掲する。

GAFAが生まれないのではなく、GAFAになろうとする企業を潰してきた日本

「日本でGAFAが生まれないんじゃない。日本はGAFAになろうとする企業をポンポン潰してきただけですよ」

いつもの柔和な口調でこう話してくれたのは、 データセンターやクラウドサービスなどを展開する東証1部上場企業「さくらインターネット」の社長、田中邦裕(43歳)だ。

「違法行為が罰せられるべきは当然のこと」と断りつつも、田中はため息をつく。伝統的な企業と新興企業では日本社会は後者により厳しい。「米国では大きくなってから叩かれるが、日本では大きくなる前に叩かれて潰されてしまう」。
(中略)
例としてあげるのが、堀江らが有価証券取引法違反容疑で逮捕され、その後実刑が確定したライブドア事件である。06年1月16日、ライブドア本社などが東京地検特捜部の捜索を受けると、株式市場は大きく下落した。いわゆるライブドアショックである。
(中略)
最高裁まで争った堀江の有罪は11年に懲役2年6ヶ月で確定した。主な罪状は53億円の粉飾決算だった。同時期に約180億円の水増し が発覚した旧日興コーディアルグループが上場 廃止を免れ、 5億円の課徴金納付命令と、グループの社長と会長の引責辞任で終わっているのと比べ、バランスを欠くとの指摘も聞かれる。

日本の産業政策の失敗

膨張GAFAとの闘い」は続ける。

日本の産業政策も改めて検証されるべきだろう。経済の新陳代謝を後押しし イノベーションの芽を育てるための政索的な対応はなされてきたのか。むしろ、既存産業の保護に傾注するあまり、新産業の創出を怠ってきたのではないかー

日本の産業政策の失敗はデータでも裏付けられる。拙著「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」では、平成元年と31年の世界時価総額ランキング上位10社を比較した(13ページ)。まず、国別に見ると、元年に7社を占めていた日本は31年には皆無。

業種別に見ると、凋落の原因がよくわかる。元年には2社だったIT・通信が7社に急増。しかも上位4社はアップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグルの米IT企業。このうち、アマゾン、グーグルと9位のフェイスブックの3社はいずれも平成生まれ。中国の2社(アリババ、テンセント)も平成生まれである。

上位10社中7社を占め、うち5社は平成生まれのIT・通信業界で、米中のようにスーパースターが生まれなかった。言い換えると、成長分野でベンチャー企業を育てられなかったことがデジタル敗戦を招いたといえる。

グーグルに排除措置命令へ 公取委 米巨大IT企業へは初」によると、公取委は最近、競合他社を排除して自社を優遇し取引先の事業を不当に制限するなど独占禁止法に違反した疑いがあるとして、グーグルに対して違反行為の取りやめなどを求める排除措置命令を出す方針を固めた模様。

このようにプラットフォーマーに対する霞が関の対応に変化の兆しもみられるが、山田議員は動画の中でクレジットカード会社に続いて、プラットフォーマーも表現規制をするおそれがあると指摘する。

プラットフォーマーの表現規制を阻止するためにも、山田議員には引き続き頑張ってもらいたい。