独立後に待つサラリーマン時代にはない苦労

黒坂岳央です。

SNSを中心にサラリーマンの不遇を主張する声をよく見る。「独立するとこんなにいいことがある」「税金面でもサラリーマンは不利なので会社なんてやめろ」といった意見である。

確かにいっていることは事実ではあるが、この件に限らず物事の評価というものは、いい面・悪い面を両方出した上で総合評価が好ましい。日経新聞の記事によると、フリーランスから会社員になる人が5年で3倍になっている。動機は安定を求めて、である。

筆者は独立後の仕事や生活に満足しており、一生このまま続けたいが同時にサラリーマンが恵まれていると感じる点もある。取り上げたい。

yopinco/iStock

仕事は自分で作る

独立して感じる、サラリーマンとの最大の違いは「仕事の出どころ」で間違いないだろう。

サラリーマンは会社から仕事が与えられる立場である。それは医師やエンジニアといった高度専門職でも変わらない。

だが独立すると仕事は待っているだけでは向こうからやってこない。クライアントワークやある程度仕事の地盤が固まればそうなるが、少なくとも駆け出しの頃はどんな仕事でも営業活動が必須になる。インバウンド型の仕事であっても広告を回して受注数を増やすなど、やはり営業がいる。

正直、独立してやっていけるかどうかはこの「営業」を受け入れられるかどうかで決まると思っている。ラーメン屋で独立する人は良いラーメンを作りたいし、エンジニアはプログラミング開発をしたくて独立するのであって、営業がしたくて独立する人はあまり見たことがない。

だが、独立すると100%営業活動が必要になる。それ故に「仕事内容は楽しいし続けたいが、営業がしんどいので勤め人に戻る」という人が生まれる。

筆者の場合は営業のことを考えずに独立し、元々営業活動は合わないと思っていた。だがいざ必要に迫られると「営業は楽しいし、自分に向いている」ということが理解できた。運が良かっただけだが、独立前には知っておきたい事実の一つだ。

目標も自分で作る

自分で作らなければいけないのは仕事だけではない。目標も同じである。

サラリーマン時代、自分は部門長と定期的に面談をして「今季の目標はどうする?」と言われて作成をした。この目標達成度合いに応じて、ボーナスの支給額も変動するのだ。

ところが独立すると目標設定は自分がしなければいけなくなる。人によっては「YouTuberとしてチャンネル登録者を増やす」とか「月収100万円を目指す」といった目標を持つ。だが、こうした数値目標の難しいところは設定そのものが非常に難しいという点である。

たとえば収入増を目標にすると、最初はモチベーション作りの道具に過ぎなかった目標が目的化してしまい、お客さんに迷惑なハードセールスをしかけて無理に売上を作ったりと段々本質からズレることがある。

そこであくまで顧客満足度を高めることを第一目標に設定し、その上で結果として売上目標を達成する、というのが理想だがこうすると今度は「顧客満足度アップ」という数値化できない目標を追うのが難しいと感じるようになる。

独立すると外圧がなくなるので、油断すると同じルーチンの繰り返しをやりがちで、そうなると視野狭窄に陥ってビジネスの環境変化においていかれるリスクがある。そこで上手に目標を設定し、追いかける過程で自己成長を追求し続ける、という難しいタスクが待っているのだ。

安定性がなくなる

そして冒頭に述べた通り、多くの場合、良くも悪くも安定性がなくなる。

なぜ「良くも悪くも」なのか?それは予想外に売上が大きく出ることも珍しくないからである。

独立直後は「まずは会社員時代の収入を超えるところまでいきたい!」というのが一つの目標になる。理想としてはフリーランスであれば2倍、いや3倍くらい取りたいところだが、とりあえずの目下の目標になることが多いだろう。

努力の方向さえ正しければ売上は伸びていく。多くのサラリーマンの場合は「毎年着実に昇給」といった想像をしがちだが、実際は「前年の5倍、10倍に増え、翌年は一気に半分に」みたいなことが普通に起きる。

とはいえ、年数を重ねれば下限が底上げされるので、「どんなに業績が悪くても月収◯◯万円は割らない」という具合になっていく。

問題はここからで一度、最高益を達成するとそこが一つの基準になってしまうため、前年より売上が落ちるとそれがたとえ、サラリーマン時代の10倍、20倍の収入でも「収入が不安定で将来が不安」という感覚になってしまうものなのだ。

人間のメンタルは悪い方に引っ張られがちなので、独立すると「収入額」以上にその不安定さに揺さぶられないメンタルが重要になってくる。

「自由になりたい。収入を増やしたい」という動機で独立しても、自由の代償に責任がついてくる。ここは完全に人を選ぶ世界であり、自分は責任の大きさより自由を優先したいので楽しくやっているが、その逆の感覚の人は独立後の生活に満足がいかないだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。