教員働き方改革の本丸は文科省改革?

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24年度(23年実施)教員採用試験の倍率が前年度より0.2ポイント低下し、史上最低値を更新した。

教員採用倍率、小中高で最低 採用数増の一方、なり手不足が深刻 文科省発表=訂正・おわびあり:朝日新聞デジタル
 文部科学省が26日、2024年度(23年度実施)の公立学校教員採用試験の採用倍率を公表し、小中高校の全てで過去最低だった。三つの校種が最低となったのは、記録が残る1979年度以降、初めて。 採用者数…

「小・中・高等学校が揃って最低となったのは1979年以降初めて」

「受験者数は全校種合計で11年減り続け、4割近く落ち込む」

など、かなり深刻な状況である。

教員の不人気は記事にもあるように学生だけでなく、広く一般市民にまで教員の厳しい労働環境が周知されてしまったことが大きいのではないだろうか。その教員の厳しい労働環境の一端を示しているのが精神疾患で退職・休職する教員の増加である。

うつ病などで休職した教員 初の7000人超 過去最多 文科省調査 | NHK
【NHK】昨年度、うつ病などの精神疾患で休職した教員は初めて7000人を超えて過去最多となったことが文部科学省の調査で分かりました…

休職した教員が過去最多を記録するなど危機的状況にある。退職・休職する教員が増えればその分教員が足りなくなるが、上記のように受験者数自体が減っているため、地域や学校によってはなかなか充足できない事態となる。

このまま受験倍率が低下し続ければ、今のところは少数であろうが、教師としての資質・能力に欠ける教員が徐々に増えていくことが危惧される。そうなれば不祥事を起こすような教員が増えやしないか懸念されるが、案の定23年度のわいせつ教員数は過去最多となっている。

わいせつ教員320人処分、子どもへの性暴力は20代が最多…「窓口へ相談」による発覚増
【読売新聞】 文部科学省が20日に公表した人事行政状況調査で、2023年度に児童生徒や同僚らへの性暴力・セクハラで処分された公立学校の教員は前年度比79人増の320人に上り、過去最多となった。国や教育委員会は未然防止に取り組むが、歯

もちろん単純に教員の質の低下がわいせつ教員の増加の要因とは断定できないが、結果的にわいせつ教員が増加しているのは事実である。こうした現状を踏まえると、今後学校現場において以下のようなデススパイラルが生じる公算が大きい。

① 求職者が教員の厳しい労働環境を敬遠→② 教員採用試験の倍率低下→③ 教員の質の低下→④ 教員の不祥事増加→⑤ 世間の教員批判の高まり→⑥ 教員管理の厳格化(教員への要請・制約の増加)→⑦ 精神疾患等による教員の退職・休職者の増加→⑧ 教員不足により一人当たりの業務量が増加→⑨ 超過労働(サービス残業)時間が増加→(①に戻り再び繰り返す)

もしこのスパイラルが断ち切れなければ、それほど遠くないうちに全国いたるところで数・質とも慢性的な教員不足に陥り、日本の学校教育は崩壊してしまうだろう。

ところが文科省は教師の本質がよくわかっていないのか、効果の乏しい的外れな政策(教員調整手当額の引き上げ4%→10%など)を繰り返すばかりでとても期待できない。

この学校・教員の危機を乗り越えるためには、新たな法整備など抜本的な制度改革と教育予算の大幅増額が必要だが、残念ながら省庁内における文科省の影響力は極めて限定的である。それは日本政府が教育にかける予算割合の低さにも如実に表れており、世界全体順位では下から4分の1程度、先進国内では最低レベルなのである。

世界の公的教育費対GDP比率 国別ランキング・推移

また、いじめ防止対策推進法が2013年から施行されたにもかかわらず、これまでいじめ認知件数は概ね増加の一途をたどり、その抑止力が疑問視されている(施行初期はいじめの早期発見が認知件数増加につながった可能性を否定できないが、施行からすでに10年以上が経過している)。

小中高、いじめ・重大事態・不登校が過去最多に…文科省調査 | 教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」
 2023年度の小中高などにおけるいじめの認知件数が73万2,568件と過去最多となったことが2024年10月31日、文部科学省が公表した「2023年度(令和5年度)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」で明らかになった。いじめの重大事態、不登校も過去最多を更新している。

さらに不登校児童生徒も増加しており、やはり過去最高を記録している。

小中高、いじめ・重大事態・不登校が過去最多に…文科省調査 3枚目の写真・画像 | 教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」
 2023年度の小中高などにおけるいじめの認知件数が73万2,568件と過去最多となったことが2024年10月31日、文部科学省が公表した「2023年度(令和5年度)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」で明らかになった。いじめの重大事態、不登校も過去最多を更新している。 画像出典:文部科学省「令...

このように学校・教員を取り巻く環境は問題が山積みであり、勤務時間外の労働時間は思ったほど減っておらず、実質的残業時間と教員調整額との開きはいまだに大きいままである。

先生の残業は前回より改善…それでも小学教諭64%、中学教諭77%が上限の「月45時間」超え
【読売新聞】 文部科学省は28日、公立学校教員を対象にした2022年度の勤務実態調査の結果を発表した。小学校教諭の64・5%、中学校教諭の77・1%が国の指針で定める「月45時間」の上限を超える時間外勤務(残業)をしていた。16年度

改めて文科省(教育委員会含)とその施策の問題点を整理すると、

  1. ほとんどの文科省職員が教育現場を知らず(教鞭をとったことがなく)、教師の本質・特性への理解が不足している
  2. 財務省との力関係もあり、長らく必要な教育予算が確保されていない
  3. いじめにはどめがかからず、防止対策推進法の効果が疑問視される
  4. いじめ・不登校の調査が報告のための報告になりつつあり、迅速かつ具体的な防止策につながっていない
  5. 教員の質を落としかねない採用試験の前倒しや易化を容認している
  6. 学校現場への煩雑な調査や報告の通達が教員を多忙にしている
  7. 教員の仕事の明確化・精査を後回しにして、超過勤務(サービス残業)の減少につながらないような施策(教員の給与増額)を行う
  8. 既定路線の定期的学習指導要領改訂が学校(教員)の負担を増大させる

このように効果が疑問視される数々の施策の遂行により、学校(教員)に過度な負担を強いている文科省を解体・改編でもしない限り、学校教育や教員待遇が目に見えて改善することはないだろう。

もちろん教育行政改革は、大学入試制度や受験産業(の肥大化)、新卒一括採用(学歴偏重等)などの問題も絡み、断行はそう簡単ではないが、少なくとも教員の職務明確化等の法整備とともに、教育の地方分権化を進めていかない限り教員の労働環境はなかなか改善されず、やがては学校教育の崩壊を招くであろうことを、政府も国民も肝に銘じておくべきではないだろうか。