私の人生で初めて7日間の正月休暇を取った。医師として働いていた若いころには、正月休暇中のアルバイトは生活費を稼ぐために必須であったし、ユタに住んでいたころには、クリスマス休暇は短く、新年も2日から仕事をしていたので、7日間連続で休むことはなかった。
1989年に帰国後は、時任二郎さんのリゲインのコマーシャルではないが、「24時間戦えますか」というブラックな生活を続けていた。墓参りと初詣以外にはすることもなく、ブラブラしている自分が不思議に思えた。
その間、米国バイデン大統領は日本製鉄のUSスチール買収を阻止する決定を行った。理由はUSスチールを買収されると国家の安全保障に関わるとのことだ。USスチールトップは「日本を侮辱している」と非難したが、私は米国の本音が露呈しただけのように思えた。
日本が世界第2位のGDPを誇っていて、「Japan as Number One」と騒がれていたころには、米国は日本に対して苦々しくは思っていても、日本は無視できない存在だった。しかし、今は、世界的な地位も落ち、東洋の小さな島国となった日本は、米国トップの政治的な思惑と日本に対する本音が優位に立ち、米国の自由主義を捨て去ったのだ。
USスチールという世界でトップ20にも入っていない製鉄企業が世界4位の規模の日本の製鉄企業に買収されることを大統領が反対するのだ。粗鋼の生産量の半分以上が中国であり、米国での生産量は中国の10分の1にも満たない状況なのに。
もちろん、この決定には、米国にとって日本は同盟国として信頼できない国であると表明したに近い意図が含まれている。1941年に真珠湾攻撃を受けた国に対して心のどこかで受け入れることができないのだと思う。
本来は日本の官邸が、米国としっかりと協議することが必要だったはずだが、今の官邸にそのようなことをできる人材がいるとも思えない。この買収反対の決定は、日本は米国に信頼されていないのだという気持ちを、日本人の中に静かに拡散していくことにつながるはずだ。
尖閣列島に攻め入ってくる国があったとしても、米国は味方をしてくれない可能性を想定した日本の国家安全保障が問われているのだと考えるべきである。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。