顧客の利益の創造こそ経済成長の原動力であること

今でも、電気事業の規制部門においては、総括原価方式が採用されている。総括原価とは、電気を提供するのに必要な原価に、販売管理費、負債の金利や適正な資本利潤なども含めて、全ての経費を加えたものであって、電気料金は総括原価に基づいて決定されるのだから、公正で合理的であるとされる。

総括原価のような価格決定方式は、金融、電気事業、医療などの規制業に広くみられるもので、規制業の本質として、一方では、価格の公正性を確保することで、顧客の利益を守り、他方では、供給業者の経営の安定性と持続性を高めることで、供給能力を確保することが目的になっているわけである。

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電気事業でいう総括原価に該当するものから、資本利潤を控除したものを包括原価と呼べば、一般の事業においては、販売価格と包括原価の差が資本利潤になる。市場原理とは、競争によって価格が公正になることだから、企業は、資本利潤を維持するために、公正価格に応じた適正な包括原価を実現する努力を促される。これを逆にいえば、企業は、経営努力によって適正な包括原価を実現することによって、価格を公正化させて、競争に勝てるように競争しているということである。

一般の商業は、顧客が見出す価値は、価格よりも大きく、その差分として顧客に利益が発生していなくては、成立し得ない。こうして、一方では、価値と価格の差として、顧客の利益があるからこそ、価格は公正であるといわれ、他方では、価格と包括原価の差として、資本利潤があるからこそ、企業経営は持続可能になって、供給能力が確保されるのである。

顧客の利益が拡大すれば、新たな需要が創造され、その需要に対して、供給能力を高めるための企業による資本投下がなされることで、経済は成長する。逆に、同じことを供給側からいえば、新たな顧客の需要を創造しようとして、企業が資本投下を行い、それが真の顧客の需要に適い、顧客に利益が生じるとき、経済は成長するわけである。

こうして、顧客の利益の拡大を起点として、それが資本利潤の拡大につながり、資本利潤が顧客の利益に適う需要の創造のために再投資されるとき、その好循環のもとで、経済は持続的に成長するのである。また、顧客の真の利益に適う需要創造において、先行する企業は、最も大きな資本利潤の拡大を得るわけで、この先行者の利益こそ、競争を促す誘因にほかならず、顧客の利益の拡大を目指す競争こそ、経済成長の原動力なのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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