安楽死といえばスイス、オランダ、ベルギーなどが有名ですが、アメリカ合衆国においても安楽死が実施されていることはあまり知られていません。今回は、アメリカ合衆国の安楽死制度について考えてみます。
安楽死は、積極的安楽死(医師により致死薬を投与)と 自殺幇助(医師が処方した致死薬を患者が自ら摂取)に分けられます。ちなみにスイスで実施されているのは後者です。
アメリカ合衆国で実施されている安楽死は、後者の自殺幇助のみで、10州とコロンビア特別区で実施 されています。なお、アメリカ合衆国ではこの自殺幇助を尊厳死(death with dignity)と呼んでいる場合があります。日本の尊厳死(延命治療の中止)とは定義が異なりますので注意が必要です。
日医総研リサーチレポート(2011年)のデータを基に、アメリカ合衆国の安楽死制度を表にまとめてみました。参考資料として、スイス、オランダ、ベルギーのデータも追加しました。
注目するべきことは、アメリカ合衆国で法制化しているすべて州において、安楽死の対象者を「余命6ヶ月以内」と規定している点です。
私は以前の論考において安楽死を次に3つに分類することを提案しました。
安楽死B:徐々に進行し回復の見込みのないALSなどの神経内科疾患の患者を対象
安楽死C:うつ病などの精神疾患、認知症の患者を対象
アメリカ合衆国では安楽死Aのみが実施されていることになります。重要なことは、年数が経っても対象が恣意的に安楽死BやCに拡大されていない点です。これは、法律の条文に「余命6ヶ月以内」と記載されているためと考えられます。
安楽死の議論では、しばしば「すべり台」の危険が指摘されています。これは、一度安楽死を認めてしまうと、際限なくその対象者が拡大されてしまうリスクを意味しています。
ところが、既に述べたようにアメリカ合衆国ではそのような現象は起きていません。一方、スイス、オランダ、ベルギーではすべり台現象が起きています。これは、これらの国の法律には「余命6ヶ月以内」という規定が記載されていないためと考えられます。スイスでは法律自体が存在しません。これでは、際限なく対象者が拡大されてしまっても仕方がありません。
安楽死反対派は、このすべり台現象を根拠として安楽死を容認できないとを主張します。しかし、アメリカ合衆国ではこの現象は起きていません。したがって、日本で安楽死制度を作るのであれば、法律の条文に「余命6ヶ月以内」という規定が記載されるべきであると私は考えます。
アメリカ合衆国での安楽死法の採決方法は、住民投票を採用した州は3州のみで多くはありませんでした。しかしながら、日本では国民投票を採用することが望ましいと私は考えます。なぜならば、安楽死の是非には正解はないと考えられ、国会の採決で決めることは日本の国会議員には荷が重すぎるからです。
この問題に正面から取り組める胆力のある国会議員は、日本には多くはないように私は思います。批判を恐れて、いつまでたっても採決されないことが予想されます。現に、尊厳死の法制化は放置されたままです。国会議員の仕事は、国民投票のための下準備をすることだと私は考えます。安楽死の是非を決めるのはあくまでも国民であるべきです。
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