2024年の世界平均気温は1.6℃で、パリ協定の努力目標1.5℃を超えた。これについてマスコミは「脱炭素化の加速が必要だ」というが、それは科学的に正しくない。
最近の気温上昇の最大の原因は「低層雲の減少」
その原因についての論文が、昨年12月のScienceに掲載された。著者はGoesslingなどドイツの気候学者3名。
要旨:2023年、地球の平均気温は産業革命前の水準を1.5度近く上回り、これまでの記録を約0.17℃上回った。人為的な温暖化やエルニーニョ現象の発生など、既知の要因に関するこれまでの最良の推測では、気温上昇を説明するには約0.2℃足りない。
衛星データと再解析データを利用して、このギャップを埋める主な要因として、記録的に低い反射光(アルベド)を特定した。この低下は、北部中緯度と熱帯地方の低層雲の減少が主な原因であると思われるが、これは複数年にわたる傾向の継続である。
昨年の気温上昇はの主な要因は、低層雲の減少による反射光の減少だというのが、この論文の結論である。まず反射光のアノマリーは図1のように分布している。黒い部分が反射光の減った地域だが、中国とインドで減少が大きい。
図1(Goessling et al.)
地球平均気温の上昇の最大の原因は反射光の減少で、全体で1.48K(絶対温度)上昇したうち、0.22Kが反射光の減少によるもの(左の棒グラフの黒の部分)と推定される。その原因を地域別に分解すると、北半球の中緯度地方が0.119K、熱帯が0.083Kで、これらが大部分を占める。
図2(Goessling et al.)
この傾向は長期的に続いている。図3の赤い部分が反射光の減少だが、2010年代から始まり、2020年に新型コロナの流行で大気汚染が減少したころ激減し、その後も減少が続いている。
図3(Goessling et al.)
その原因は大気中のエアロゾルの減少だと思われるが、その因果関係は明確ではない、というのがこの論文の結論である。
低層雲の減った原因は中国とインドの大気汚染の改善
この因果関係については昨年4月のNatureに論文が出ている。図の折れ線は衛星観測データで、そのトレンドが黒の実線である。
図4 気温上昇の要因分解(Hodnebrog et al.)
この24年間にグレーの線で描かれているように温室効果ガスは減ったが、地上の照度は10年間で約0.8W/m2上昇したため温暖化した。その原因が、図の赤線で示した大気汚染(エアロゾル)である。空気がきれいになって透過度が上がり、地上の照度が上がって温室効果ガスによる照度低下のほぼ40%を相殺した。
世界全体で大気汚染(PM2.5濃度)は改善されており、特に中国は習近平が2013年に「大気汚染撲滅宣言」を出してから、エアロゾル濃度は半減した。シカゴ大学の調査によると、最近は南アジア(インド)の減少が大きい。その結果、世界の大気汚染もピークから20%近く改善した。
図5 世界のエアロゾル濃度の推移(シカゴ大学AQLI)
この他にも同様の観測結果やシミュレーションが発表されているが、最近の温暖化の最大の原因が低層雲の減少だという点は、ほぼ一致している。その原因は検証中だが、エアロゾルの増加で気温が下がることは、1991にフィリピンのピナツボ火山が噴火したときも実証されている。
図6 ピナツボ火山の噴火による地球寒冷化(国連)
したがって大気中にエアロゾルを散布するジオエンジニアリングが有効で低コスト(脱炭素化の1/200以下)である。これについては気候改変を禁止する条約(ENMOD)の改正が必要なので、国連がイニシアチブをとるべきだとEconomist誌は提唱している。