オーストリアで10日、極右政党「自由党」のキックル党首と中道右派政党「国民党」のストッカー党首代行の間で連立交渉が始まった。
自由党は昨年9月29日の国民議会選挙で同党としては初めて第1党に躍進。一方、国民党は第2党に後退した。紆余曲折があったが、ファン・デア・ベレン大統領が第1党の自由党のキックル党首に連立政権の交渉を要請したばかりだ。このコラム欄でこれまでの経緯は報告済みだ。
キックル党首の自由党主導の連立政権の発足が現実味を帯びてきた。ドイツでは来月23日、ショルツ連立政権の崩壊を受け、早期連邦議会選挙が行われるが、隣国オーストリアで極右党主導の政権が誕生する可能性が高まったというニュースが伝わると、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の躍進を恐れる他の政党の間で強い反発と懸念の声が出てきている。
ドイツだけではない。欧州各国でオーストリアの自由党主導政権の誕生に警戒の声が高まってきている。10日はウィーン市中央の英雄広場で自由党主導政権の発足に反対するデモ集会が開かれた。
ところで、欧州のメディアではここにきて自由党党首のキックル党首(56)のプロフイールに強い関心が寄せられている。例えば、ドイツ民間放送ニュース専門局の著名なコラムニスト、ヴォルフラム・ヴァイマー記者は人物評欄でキックル党首を紹介している。
そのような中で、オーストリア民間放送OE24は10日、ヘルベルト・キックル党首(Herbert Kickl)の名前はオーストリアの名前ではなく、スロベニアから由来したもので、その意味は「女性のスカート」という内容の記事を掲載した。
ニュース源はドイツのライプツィヒの「名前研究センター」の名義学者ユルゲン・ウドルフ名誉教授だ。同教授によると、キックル党首の名前は出生地であるケルンテン州のフィラッハ(Villach)にその由来がある。キックルというの名前はケルンテン州で比較的多く見られるという。「同州にはスロベニア由来の名前が少なからず存在する。この名前もそうだ、疑いようがない」と主張している。
「この分野の標準的な資料によれば、簡潔に記されている。Kikel,Kikelj,Kiklはスロベニア語のkikel,kikla(婦人用スカート、シャツ)に由来する。また、スロベニア語の語源辞典によれば、kiklaは婦人用スカート、18世紀にはkikla,kiklezaは女性用スカートとなっている」という。同教授は「この名前の最初の使用者は服装に基づき、スロベニア語の言葉で名付けられた。キックル党首の名前は間違いなくスロベニア起源だ」という。
ちなみに、ユルゲン・ウドルフ(81歳)氏はライプツィヒの「名前研究センター」の創設者だ。彼はゲッティンゲン大学でスラブ語学とフィン・ウゴル語学を専攻した後、ライプツィヒ大学で名前学の教授を務めた。65歳の時に大学を退職した。著書には2007年の「名前の本─その起源と意味』などがある。
ここで断っておくが、当方は「キックル党首の名前がオーストリアから由来していないこと、その語源はスロベニアで女性のスカートを意味していたこと」を書くことで、キックル党首を侮辱したり、中傷する意図はない。OE24関係者もそうだろう。
ただ、外国人排斥、移民・難民に対して批判的な自由党の党首自身がその家系を辿っていくと、オーストリアの隣国スロベニア出身であり、その名前はそれを証明しているということだ。自由党に批判的な人ならば、「それみろ、キックル党首よ、あなたの祖先も移民出身者だった」ということになるが、欧州では移民出身者ではない政治家、人間のほうが少ないのではないか。
話はすこし飛ぶが、俳優で日本でも人気のあるアーノルド・シュワルツェネッガー氏がカルフォルニア州知事だった時、米大統領に立候補することを考えたが、米国籍を有していても米国内で出生していないため立候補する資格がなかったという話を聞いた。何もキックル党首のことを意識して言っているのではない。移民出身者は政治家になれないとすれば、多くの優秀な人が政治家の道を失うことになる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。