670年以上の歴史が証明する日本人に合った歩き方?

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現代社会では、生活様式や学び方の変化により、日本人の身体や心のあり方が大きく変わってしまいました。これらの変化が、身体的な健康だけでなく、精神的なバランスや対人関係にも影響を与えているのです。

本稿で取り上げる「和儀」は、670年以上続く狂言の伝統的な身体技法や呼吸法をもとにした新しい健康法です。

カラダが20歳若返る!和儀 医師もみとめた狂言トレーニング」(茂山千三郎 著)秀和システム

ナンバ歩きとは何者か?

江戸時代の日本人と現代の日本人は、歩き方が異なっていました。ナンバ歩きとは、日本の伝統的な歩行法です。腕は振らず、足のかかとから着地しない、身体はねじらないなどの特徴があります。

「上半身を上下に揺らさずに体から運ぶイメージだとわかりやすいでしょうか。この歩き方は、大正時代くらいまで広く実践されていた自然な動きです。体のねじれを最小限に抑え、エネルギー効率を高める効果があります。平安時代や鎌倉時代は当然として、縄文時代にもおこなっていたのは間違いないだろうとされています」(茂山さん)

「よく考えると、四足歩行時のゴリラもナンバ歩きをしているので、ひょっとしたら800万年前に枝分かれした人類とゴリラの共通祖先から、ナンバ歩きなのかもしれません。かつては、武士や飛脚、忍者などが、長距離を疲れずに移動するために用いたとされ、上半身を揺らさず、重心を安定させて歩くことができます」(同)

いまでも、ナンバ歩きは、日常的には旅館などで、着物を着た仲居さんが、お盆を揺らさずに運んでいる姿などで見ることができます。クラブのボーイもナンパ歩きです。トレンチトレー(お盆)を揺らしてはいけないからです。

「体の中心である『丹田』を意識することです。丹田は、体の中心となるポイントであり、ここに意識を集中させることで、自然に下半身の筋力や体幹がきたえられます。足を高く上げず、滑らせるように床を進む摺り足の動きを取り入れており、上半身が上下左右とも揺れず、体の負担が減る効率的な歩行を目指しているのです」(茂山さん)

体をねじってはいけない

現代の歩行スタイルは、体を左右にねじる歩き方です。動きが多く、それが腰や膝、肩への負担につながることが少なくないと、茂山さんは言います。

「ナンバ歩きでは体の軸を意識し、無駄なねじりを抑えるため、怪我のリスクを低減する効果もあります。実際、現代のスポーツにおいても、ナンバ歩きの技術を取り入れることで、ランニングのパフォーマンスが向上し、効率的なエネルギー消費が可能となる例が見られます」(茂山さん)

「ナンバ歩きは、単なる歩行法ではなく、身体の使い方全体を見直すことにつながる歩行です。かつての日本人が自然とおこなっていたこの体使いは、身体のバランスを整え、健康を維持するための知恵が詰まっています」(同)

和儀を通じて摺り足を習得し、無理なくナンバの動きを現代の生活に取り入れることで、体への負担を減らし、健康的な生活を送る手助けとなるでしょう。これは、単なる身体的なトレーニングではなく、心と身体のバランスを見つける方法です。簡単ですから、この機会に取り入れてみませんか。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

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