財務省は罪務省か?

日本人の言葉遊び好きは高い教養ゆえの高尚さということかもしれません。財務省が罪務省とか、お亡くなりになった森永卓郎氏は「ザイム真理教」とかまぁ、財務省というのは叩かれやすい省庁なのかと思ってしまいます。外務省も害務省という言葉遊びがありました。

森永卓郎氏 NHKより

財務省がなぜいじめの対象になるのか、一言で言えばケチだからです。

一般家庭の例を見てみましょう。ご家庭の大蔵大臣は奥様でしょうか。大蔵大臣は勤労大臣の御亭主に「はい、今月のお小遣い」、少年少女団員の息子や娘には「お昼のパン代」と細かい管理。今夜の献立はスーパーマーケットの特売次第で何が出てくるかわからない、だけど大蔵大臣のおかげで我が家では1年に2回、小旅行ができるし、贅沢できないけれど家族で外食もできる、となれば勤労大臣も少年少女団員も大蔵大臣の指示に従わざるを得ません。

財務省と一般家庭の大蔵大臣の違いは家庭では税金を徴収されることはないのです。ケチだけどそれなりに配分を頂けるだけ。一方、本物の財務省はクレクレ星人なのです。「僕の稼ぎをバキュームのように吸い取る吸血鬼」、故に一般大衆からは嫌われるし、それを叩くユーチューバーや評論家は国民の不満を代弁してくれるヒーロー扱いであるわけです。

さて、2024年度にもしかしたらプライマリーバランス(基礎的財政収支)がいよいよ黒字になるかもという期待があったのですが、年後半で使いすぎもあり達成できそうにありません。一応、翌年持ち越しになっています。ですがプライマリーバランスが黒字になるのは財政体質改善では第一歩にすぎません。

財政には歳出の一部に国債費があります。企業でいう利払いにあたりますが、これが今年は28兆円ほどあり、プライマリーバランスの外側。つまり日本がプライマリーバランス黒字化という第一歩を踏み出したとしてもまだ28兆円、国債費を払わねばなりません。どう考えても日本の一般財政はこれだけ見れば大赤字。諸外国との財政健全性で使われるGDP比では249%で欧米の60-120%レベルに比べてあまりにも高いのであります。

ここからがポイントで国際水準では日本の財政は悪いので財務省としては支出を減らし、収入を増やすことで見栄えの良い収支にしたいわけです。とりもなおさず、財務省は国際派で「先進国レベルの水準や見栄えは維持したいよね」という願望をもっています。

一方、財務省を叩く人たちのポイントは「金はあるじゃないか?それぐらい使えよ」です。この違いは財政をフローで見るかストックで見るかの違いです。上記のGDP比といったものは国債の累積を当該年度のGDPと比較するわけです。ところが鼻息荒い後者の方はストック、つまり日本の資産ベースで見ているわけです。「借金ばかりに目を向けないで貯金を後生大事にしまい込まないで使うところで使ってよ」です。

財務省は「いやいや、これお金を以上使うと財務指標が悪化し、レーティング会社の厳しい格付けが待っているぞ」というわけです。使いたい派は「何いってんねん、日本で発行する国債は多くが日本国内で消化されているじゃないか。日本政府が借金し、日本人がその借金を買っているのだから格付けなんて何を申すか」というわけです。最近は日本国債も海外の引き受けが増えてきて約12%ぐらいの水準ですが、何と言ってもおよそ半分は日銀さまがご購入されているのです。「おまえ、これ、循環取引じゃないか?」と言いたいところはぐっとこらえます。

一般財政の歳入をじーっと見ていると多少不健全だな、という気はします。最大の収入源は消費税で24兆円、次いで個人所得税の18兆円。これは両方とも個人からの徴収ですから合わせて42兆円は国民のポケットから出ていることになります。ではその国民のポケットを提供する雇用主、つまり法人から上がる法人税は17兆円でこれがまだ不十分だと思います。ただし、私がいつも指摘する中小企業の淘汰と会社数の減少で法人税収入は確実に増えるはずです。

一方、支出は社会保障費が38兆円の断トツですが、医者好き、救急車好きの癖を直すことからでしょうね。私は本来持っている人間の自然治癒力を期待したいし、高齢者に健康管理をしっかりして元気で頂き、自立促進をするべきだと思います。そうすれば社会保障費の膨張対策は可能だと思っています。また、日本ほど財政出動が簡単な国もないと思います。私から見れば何でも出し過ぎ。それが逆にぬるま湯の日本を作っている気もします。

お前はドイツのような厳格な財政が良いと思うのか、と言われればそれは極端な話だけど日本には税率を引き上げなくても削れるところはあるし、政治家は飴玉を配ることだけを考えるべきではないとは思います。カナダでも財政はそんなに緩くはありません。本当に必要な時に必要な額を出せる管理体制こそ真の意味での財務省と言えるでしょう。補助金行政などは私は間違っていると思います。

この辺りの姿勢を変えていくと財務省も家庭の大蔵大臣のようにもう少し評価されると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年1月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。