トランプ米大統領は20日、人の性別を「男性と女性」の二つのみとする大統領令に署名した。大統領令では性別を、「性自認」ではなく、「生殖機能」によって区別すべきだと明記している。すなわち、連邦政府機関は「ジェンダー(自己認識などに基づく性別)」ではなく「セックス(生物学的性別)」という用語を今後使用するというのだ。
性別を男女の2性しかないと考えてきた人にとって、「何を今更」ということになるが、過激なジェンダー思想の嵐の洗礼を受けてきた人の中には、「人間には男性と女性のほかに、他の性も存在する」と思い込む人が出てきた。それを元の常識に戻すために、トランプ大統領は「人間には2性しか存在しない」という生物学的に初歩の知識を改めて宣言せざるを得なくなったわけだ。これをトランプ氏の「常識革命」と呼ぶ。
トランプ氏が第2次政権をスタートしてまだ10日しか経過してないが、同氏の「常識革命」は北大西洋を越えて欧州にも波及してきている。中欧の小国スロバキアだ。スロバキア政府は「性別は男性と女性の2種類があり、それは生まれつき決まっている」という内容を憲法に明記する予定だ。
フィツォ首相は28日、「この憲法改正は私たちの先祖の伝統、文化的、精神的遺産に関するものであり、進歩主義に対する憲法上の障壁を築き、再び常識に戻りたい」と述べている。興味深い点は、同首相が「トランプ米大統領の発言に影響を受けた」と正直に告白していることだ。
フィツォ政権は憲法改正案の中で、「性別変更は重大な理由に基づき、かつ法定の手続きに従ってのみ行われるべきだ」と強調し、今後、少数の例外を除き、養子縁組は結婚した夫婦のみが可能と規定している。また、同憲法改正案によると、学校では「憲法に従った内容」のみを教えるべきであり、ジェンダーフリーの内容を学校教育の中では行わない。
憲法改正案は政府のウェブサイトに公開されており、1か月間議論される。その後、議会で改革案の採決が行われる予定だ。隣国ハンガリーでは類似の規定が既に導入されている。ハンガリーでは未成年者に対して同性愛について話すことが禁止されている。
欧米社会では生物学的性と性自認が一致しないことで悩む人が出ている。男性、女性のどの性にも属さない性自認(ノンバイナリー)を主張する人も出てきている。人間は男性、女性の2性ではなく、その混合性を含んで3性が存在すると主張する知識人がいる。「女性は女性として生まれたのではなく、女性となるのだ」といったジェンダー問題での社会的条件を強調する学者もいる。
ドイツでは昨年4月、自己決定法案(Das deutsche Selbstbestimmungsgesetz)が発効された。この法律(自己ID)により、今後は性別登録と名前の変更が官庁で大幅に容易になる。これまで必要とされていた裁判所の決定と2つの専門家の鑑定書は必要でなくなる。
ちなみに、オランダが2001年4月1日、同性婚を最初に合法化して以来、欧州を中心に同性婚を認知する国が増え、2024年6月現在で37カ国が同性婚を認めている。スロバキアは2014年、憲法に「結婚は男性と女性の間でのみ成立する」という条項を加え、同性婚を認めていない。これと同様の憲法改正が行われている国は、ポーランド、ハンガリー、リトアニア、ブルガリアなどがある。ポーランドでは憲法で、「結婚は男性と女性の間で成立する」と明記している。
なお、トランプ大統領は27日、トランスジェンダーの人間が米軍で服務することを制限する新たな大統領令に署名すると共に、軍内部で実施されていた多様性、公平性、包括性(DEI)プログラムの廃止を命じている。トランプ氏の常識革命は続く。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年1月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。