コーランバーナー(コーランを焼却する者)殺人事件から教訓を

ストックホルムから外電が入ってきた。コーランバーナー(コーランを焼却する者)として知られていた亡命イラクのサルワン・モミカ氏が29日、自宅で射殺されていたという。モミカ氏(38)は2年前、スウェ―デンの公の場でコーランを燃やし、世界のイスラム教国で大規模な抗議活動を引き起こした人物として知られていた。

イスラム教の聖典「コーラン」(バチカンニュース2023年7月4日、写真はANSA通信)

現地のメディア報道は、「モミカさんは29日裁判所に出廷し、判決を受ける予定だった」という法廷関係者の話を伝えた。警察は29日夜、「モミカさんはストックホルム郊外のセーデルテリエで射殺された」と発表した。

ラスムス・オーマン検察官はスウェーデンの新聞「アフトンブラデット」に対し、殺されていた死体がモミカ氏であることを認めた。警察官によると、殺人容疑で5人が逮捕された。モミカさんがTikTokでライブ配信をしており、その最中に銃撃されたようだという。犯人たちは集合住宅の屋上から侵入した可能性があるという。

モミカさんともう一人のイラク亡命者サルワン・ナジェムさんは昨年8月、「民族に対する扇動」の罪などで起訴された。起訴状によると、2人はコーランを冒涜することで、イスラム教徒が大多数を占める国で暴力的な抗議活動を引き起こしたというものだ。

興味深い点は、ストックホルムの警察は2023年7月15日のユダヤ教とキリスト教の聖典を燃やすデモを許可していることだ。デモ主催者は2週間前のイスラム教の聖典コーランを燃やした抗議デモに対抗し、イスラエル大使館の前でユダヤ人の聖なるトーラーとキリスト教の聖書を焼くことを目的としていた。
カリナ・スカーゲリンド警察広報官は当時、「許可は公にトーラーと聖書を焼くためのデモ申請に関するものではない。言論の自由に基づいて意見が表現される集会として許可しただけだ。両者には重要な違いがある」と説明した。宗教の聖典を燃やす行為を「言論の自由」に基づく意見の表現と受け取っているのだ。

モミカさんの殺害はどのような理由があったとしても許されない犯罪行為だ。ただし、その犯罪行為を誘発したコーラン焼却行為もやはり許されない行為だということだ。すなわち、モミカさん殺害事件から教訓をくみ取るべきではないか。

それは、コーランや聖書などの宗教聖典を冒涜する行為は犯罪だという教訓だ。自分が信じない宗派の聖典も信じている信者にとっては貴重で、尊い書物だとうことだ。換言すれば、他者の信仰心を不必要に侮辱したり、中傷する行為は許されないのだ。

モミカのコーラン焼却行為は世界のイスラム教国に大きな抗議を呼び起こし、イラク、アラブ首長国連邦、モロッコは、スウェーデン駐在大使を自国に呼び戻した。それに対し、スウェーデン政府は抗議デモを「イスラム嫌悪的な行為」と非難したが、同時に、「わが国には集会の自由、言論の自由が憲法で保護されている」と説明している。

スウェ―デン政府は頻繁に発生するコーラン焼却行為を禁止したが、その直後、ストックホルムの裁判所は「根拠は不十分だ」として禁止を取り消した経緯がある。曰く、「抗議とデモの自由は憲法で保護されている権利だ。一般的な脅威状況だけでは介入の根拠にはならない」と説明し、「言論の自由」は宗教団体の聖典を燃やす行為を容認しているという解釈だ。

スウェーデンの「言論の自由」を聞いていると、フランスのマクロン大統領が2020年9月、「フランス国民は冒涜する権利を有している」と表明して、トルコなどイスラム教国から激しいブーイングが飛び出したことを思い出す。

フランスでは2015年1月7日、パリの左派系風刺週刊紙「シャルリー・エブド」本社に武装した2人組の覆面男が侵入し、自動小銃を乱射し、建物2階で編集会議を開いていた編集長を含む10人のジャーナリスト、2人の警察官を殺害するというテロ事件が発生した。それ以来、フランスではイスラム過激派によるテロ事件が多発している。マクロン大統領は2020年10月24日、パリの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことに対し「わが国には冒涜する自由がある」と弁明したのだ。

宗教の聖典を燃やす行為を「言論の自由」の表現として容認するスウェーデンや「冒涜する自由がある」と主張するフランスの世界観は神仏への極端な排他主義がその根底にある。人間中心主義だ。繰り返すが、「信教の自由」を認めるのならば、その聖典の焼却行為は許されないのだ。モミカさん殺人事件から教訓をくみ取るべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。