都市部のマンション価格の高騰が止まりません。ごく一部の優良物件に破格の金額がつくわけですが、私はフロスからバブルに近づいていると思っています。不動産価格は一部で上昇し始めると徐々にその上昇エリアが広がり、最終的にはどこもかしこもバブルまみれというのが過去の例です。
一方、冷える時は外側から冷えるのもこれまた歴史の教訓でリゾートマンションなどの価格が暴落し、少しずつ実需層の価格が下落し、最後に高級物件も下落する流れです。
今回のマンションバブルは火付けが投資家であることはほぼ間違いありません。都心の場合は海外からの投資家も巻き込み、優良物件が発売になれば「これ3つください」と野菜や果物を買うぐらいの勢いで投資家が触手を伸ばします。理由は簡単で、代替できないような場所に建っている場合、根強い実需があり、またブランド化すると完成後の値上がりが必至だからです。
私は不動産バブルを87-89年の日本、2006年にピークを打ったアメリカ、そしてずっと値上がりし続けてきたバンクーバーのマーケットで業務として経験してきました。その経験をベースにみると東京など一部の不動産については危険価格領域に入りつつあるとみています。よってそろそろ火消しをしてバブルが大きくならないうちに調整し、過激な崩壊を招く前に抑え込んだ方がよいとみています。
都心の高級物件になぜ引き合いが多いのかといえば供給が限定されていて値上がり期待が高い一方、海外物件と比べてまだ安いからです。2億円の物件といえば普通の日本人の方には論外の金額だと思うでしょう。これを米ドル建てで考えると130万ドルです。アメリカで130万ドルでマンション(コンドミニアム)を買おうとすれば買えますがまずまずの物件しか買えません。ところが日本だと東京の一等地にある見栄えの良い物件が部屋のサイズこそ狭いですが、買えるのです。投資家目線で見るとこの内外価格差はたまらない魅力なのです。
物価比較でビックマック指数というのがあります。各国のビックマックの値段を比べ、物価水準の物差しにするのですが、ある国のビックマックがいくら安いからと言って10個食べろと言われても困ります。ところが不動産の場合は持っているだけでよく、頃合いを見て売ればよいのです。つまり内外価格差のメリットを一番とりやすく儲けやすい投資なのです。
ではバブルつぶし対策です。
ひとつは外国人への不動産売買を規制することです。これは異例でもなんでもなく、例えばカナダでは外国人は不動産を購入できません。理由は価格高騰を招くからです。この外国人規制は一時的なもので今の法律は2023年1月1日から27年1月1日までの時限つきとなっていて、市場が沈静化すればそれを撤廃すればいいので運用のフレキシビリティを持たせています。仮に2026年でも住宅の需給がタイトならこの期限を延ばせばよいわけです。
次に空き家税を課すこと。投資家によっては空き家のままじっと持っていて1-2年後に新築同様の状態で売却する方がいます。私の経験値からは中華系の人にその傾向が強いと思います。これもカナダのバンクーバー市の例ですが、誰も住んでいない場合、空き家税が不動産評価額の3%かかります。ダウンタウンで眺めのあるコンドミニアムなら150万ドルは下らないので年間45000ドル、日本円で500万円も空き家税がかかるのです。
空き家税のそもそものコンセプトは不足する優良住宅を投資家が空室のままたくさん抱えていたり、不動産を複数持つ方への非有効利用に対するペナルティという発想です。この空き家税が導入されたら街のコンドミニアムに突然ライトが灯され、私も「へぇ、この建物に人が住んでいたのだねぇ」と驚きに近いものをあちらこちらで目にしました。最近では神戸市や京都市が空き家税の検討を始めるなどその動きは確実にあるので外国人に人気ある不動産地域ではこの動きは広がるかもしれません。
3つ目に短期売買の課税を更に引き上げること。日本では現在、5年未満の売買には通常の税率のほぼ2倍、つまり所得税と住民税の合算では通常の20.315%が39.63%の税率適用になっています。これを私は50-60%ぐらいまで引き上げてもよいと思います。
私が87-89年ごろに日本で開発事業本部に在籍した時、バブルで謳歌をしていたわけですが、バブル崩壊の足音も当然聞こえてきていました。その中で一般的には三重野日銀総裁悪玉説が言われています。もちろんそれもありますが、実務の真っただ中にいた者としての強い印象があったのは国土法改正で短期売買への厳しい規制とルール制定でした。
あの頃は地上げが不動産開発事業の基本中の基本だったわけですが、地上げは通常、地上げ屋に土地を買収させたあと、仮置きの会社に土地を一旦、抱かせるのです。それこそ全く目立たない会社、山田商事とかスズキ不動産といった適当な会社を作って一時所有させるのです。理由の一つは大手のデベの名前だとバレてしまうからです。
大手開発業者は地上げ屋に土地買収代金を実質的に提供しているのですが、その担保として登記なんてしないのです。バレるからです。そのため登記留保という手法で登記簿謄本を見ても誰だかわからない会社が担保なしで持っている形にします。地上げが全部終わり、地形(じがた)が整ったときに一団の土地として開発会社に所有権を移すのです。登記なしで危なくないのか、と思われるでしょう。私の時は地上げ屋の実印から通帳まで全部私が押えていました。
ところが改正国土法は短期売買に制約をはめたのでこれを邪魔し、地上げが非常にやりにくくなったのです。開発の実務者から見ればあの国土法改正は恨み節そのものなのです。
あの当時の実務を知っている人はほとんどがリタイアしていると思いますが、短期売買規制はそれぐらい効果があるのです。今、一部不動産の過剰な加熱を冷やすという点で見れば短期売買の課税強化と不動産取引の報告義務を課し、不動産売買を面倒くさくすることで投資家の気持ちを萎えさせることが可能です。
個人的には不動産価格の一定程度の上昇は健全なインフレ率を生み出すための最大のVehicleだと思っています。黒田前日銀総裁が苦労したにも関わらうず、10年経っても目標インフレにならなかったのですが、あの時、不動産価格を上がりやすくすればインフレになりやすかっただろうと思います。日銀は金融政策だけしかツールがないのですが、国交省と財務省がちょっと細工すれば不動産価格はかなり調整可能だったということです。
不動産取引において短期売買で利益を抜くのは株式の短期売買と違い、市場に大きな影響を与え、かつ、いびつな市場を形成するのです。さて、政府はこういうことに気がつくでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月4日の記事より転載させていただきました。