トランプ政権の出方に神経使うイラン

イランのIRNA通信が2日報じたところによると、ペルシャ語で「信頼」を意味するエテマドと名付けられた射程距離1,700キロメートルの新型弾道ミサイルがペゼシュキアン大統領の出席したテヘランでの式典で初公開された。エテマドはイラン国防省が開発した最新の弾道ミサイル。長さ16メートル、直径は1.25メートルで、衝突するまでミサイルを操縦できる誘導弾頭を備えているという。

イランの新型中距離ミサイル「エテマド」の展示を視察するぺセシュキアン大統領、2025年02月02日、IRNA通信

ペゼシュキアン大統領はイランの防衛能力を称賛し、同国の軍事力は自衛を目的としたものであり、他国に脅威を与えるものではないと述べ、「弾道ミサイルは米国とイスラエルに対する重要な抑止力だ」と強調した。ちなみに、エテマドの射程距離でイスラエルのどの地域にも到達することができる。

このコラム欄で数日前、イランがロシア製最新戦闘機SU-35を購入したと報じたが、イランはここにきて自国の軍事力を鼓舞することに腐心している。なぜかと言えばイスラエル空軍がイランの核関連施設を破壊するのではないか、といったイランの悪夢がここにきて現実味を帯びてきているからだ。イラン指導部が払拭できず苦悩している悪夢について説明する。

イランの宿敵イスラエルのネタニヤフ首相は現在訪米中で4日、トランプ米大統領と会談する。そこでの主要テーマは、米国からの軍事支援の継続、パレスチナ自治区ガザの停戦計画のほか、イランの核開発計画への対応が議題に上がっているからだ。

イスラエルは既に2回、イラン領土へ報復攻撃をし、2回目の空爆ではイランの核関連施設へ攻撃を加えている。イランの出方次第では次はナタンツなどのイランの主要核関連施設への空爆となることを示唆している。一方、イラン側は対空防衛システムを強化する一方、ロシアから最新戦闘機SU-35を購入して、イスラエル空軍の主用戦闘機F-35対策を検討してきた。そして今回、中距離ミサイルを公開して、「いざとなればイスラエル領土に向けてミサイルを発射する」との強硬姿勢を誇示しているわけだ。

実際、イラン側はイスラエル空軍が米軍の支援を受けてテヘラン近郊の核関連施設を空爆するのではないかと深刻に悩んでいる。例えば、スカイ・ニュースとのインタビューに答えたイランのアラグチ外相は先月28日、「米国とイスラエルがイランの核施設を攻撃することは狂気の沙汰だ。我々は、我々の核施設へのいかなる攻撃に対しても、即時かつ断固とした対応を行うことを明確にしてきた。彼らがそんな狂ったことをするとは思わないが、行えば地域全体がひどい災害を受けるだろう」と述べている。

一方、トランプ政権との交渉について、同外相は「トランプ氏は就任1期目で、制裁解除と引き換えにウラン濃縮を制限するイランの核兵器開発疑惑を巡る国際交渉による合意を反故にした」と批判する一方、トランプ氏がイランとの新たな合意が「素晴らしい」と述べ、外交的解決を望むことを示唆したことに言及し、「状況は前回とは異なり、はるかに困難になっている。私たちの信頼を買うために、相手側がやるべきことはたくさんあるはず…私たちは『素晴らしい』という言葉以外何も聞いていない」と語っている。

ところで、イランが軍事支援してきたパレスチナ自治区ガザを拠点としてきたイスラム過激テロ組織「ハマス」やレバノンの「ヒズボラ」はいずれも指導者がイスラエル軍に暗殺されるなど守勢を強いられている。一方、イランがロシアと共に支援してきたシリアのアサド政権は昨年、崩壊するなど、イランの同盟勢力は急速に弱体化した。アラグチ外相はスカイ・ニュースとのインタビューで、「ハマスとヒズボラはダメージを受けたことは事実だが、同時に彼らは再建しつつある」と説明している。

イランの対イスラエル網は綻ぶ一方、イスラエルを支援するトランプ政権の発足で、イランを取り巻く政治、軍事情勢は楽観視できない。一方、イランの国民経済は国際社会の制裁もあって深刻だ。インフレ率は50%を超え、青年たちの失業率はほぼ20%と高い。

トランプ新政権がイランに新たに制裁を実施すれば、イランの国民経済は一層厳しくなることは必至だ。米国なしでは、イランが核交渉を再開して制裁を解除し、経済状況を改善することは不可能だからだ。そこでイランは硬軟混ぜたシグナルをワシントンに送っているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。