私が「士業」の方々から「遺言作りましたか?」と言われ始めたのは50代前半の頃。その頃は「何をおっしゃるうさぎさん」と気にも留めなかったのですが、それから5年ぐらい経ち、ふと考えるようになりました。真剣に考えるようになった最大の理由は「自分の会社は自分がいないと廻らない」というリスクです。人間、いつどこでぽっくり行くかわかりません。健康を維持していても事故にあうかもしれません。その時に自営業者である私には代替が効かないという最大の欠陥があるのです。
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先日も申し上げましたが、私は手持ち事業に関して銀行などからの借入金はもうしないと決めています。不動産事業が生業ですから借りると返済までに10年とかそれ以上かかるケースが多いのです。もちろん私があと10年でぽっくりとは微塵たりとも思っていませんが、事業者はリスクをどうヘッジするのかということを最優先で考えるのが大事です。故に少なくともいくつかある会社のバランシートの負債欄は短期負債だけが最も美しい形なのです。
次に考えたのが事業継承プランです。誰にどうするかですが、これは既に何年か前から準備しています。また自分にかかる相続時の課税もどう対処するか税務戦略があります。カナダは相続税はないのですがキャピタルゲイン課税はあります。会社の価値の根源である不動産価値が簿価と時価で差があればそれは課税対象になります。また会社組織なのでその譲渡や移転もなかなか面倒くさいのです。
そこで更に現在対策の一つとして法人を設立準備中です。非常に特殊な連邦登録の法人でカナダ国税の許可をもらう必要があるため7-8か月かかります。通常の会社設立はそれこそ瞬時にできるのですが、弁護士や会計士と慎重に調整しながら進めています。これで会社の方はどうにか対策ができつつあるかな、と思います。
では個人。私はあまりお金に固執しないので、余ったお金を投資し続けたので手元にはカスカスの現金しかありませんが投資の部分は確かに一定程度残高があります。これが問題。さてどう使うか、です。
人間、お金があるから今までの生活がすっかり変わるということはあまりありません。よく耳にするのが宝くじが当たって生活が変わり果てて不幸になった話があります。金銭が人のあり方を変えてしまうのです。ウォーレンバフェット氏が未だに普段の生活スタイルを変えていないのと同じで私も変えることはないのです。
日経に相続人がないために国庫に入った遺産が2023年度に1000億円を超えたと報じられています。調査を開始した2013年から3倍に膨れ上がっています。多分ですが、この相続人なき遺産額は2030年ぐらいには3000-5000億円ぐらいになるとみています。人生、買い物ゲームのようにはできないので余ってももったいないとは言えないのです。
ただ、余った金を国庫に吸い取られるのは悔しいなぁと思えばよいのです。そのために日経には遺贈寄付があるとさらっと書いてあります。遺言に「余ったお金は〇〇に寄付してください」というやつです。すると財務省に吸い取られるのではなく、自分が思っているあの施設、あの組織にお金を流すことができます。あくまでもすべてを清算後の残りなので誰にも迷惑をかけません。
こういう仕組みに対してもう少し広く啓蒙した方が良いと思います。だれも憎き財務省から「ありがとう」と言われたくないのです。
日本は高齢者天国だと思いますが、カナダは高齢者への優遇は少ないと思います。先日、カナダで安楽死が年間1.5万件あると報じらえていました。カナダにいて思うのは老人医療とか延命措置は手厚くないと思います。するとある程度の年齢になると自力の経済力がないと本当に厳しい状況になります。医療費は無料でもまともな医療を受けられるかどうかは別なのです。また老人施設もお金がなければ政府支援のところなどに入るのでしょうが、正直、ごめんなさい、というレベルです。すると例えば私どもが昨年開業したグループホームということになりますが、それなりにかかるのです。自分で将来そこに入ると思うとちょっと財布と相談しなくてはならないな、と思ってしまいます。
つまり最後いくらかかるかわからない、その点で日本よりカナダの方が大きな貯蓄を抱える必要がありそうです。カナダの調査では楽な老後を過ごすのに1.7ミリオンドル(1億9千万円)程度必要とあります。幸いにしてカナダの考え方は「遺産相続は積極的にしない。余れば子供にやる」という発想。つまり日本のように「子供たちに少しでも残してあげよう」なんて微塵とも思わない点は気楽なところでしょうか?
一般的な方ならそれなりに資産はお持ちだと思います。それをどう費消計画するか、改めて考えてみたいところですね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月15日の記事より転載させていただきました。