高額療養費制度の議論を適切に扱えるようになるための3つの提案

3月7日に冒頭追記ですが、引き上げの実施見送りが決まりましたね!今回のように方向転換を呼び込む議論の盛り上がりができたのは素晴らしい事だったと思います。ただ今後の議論はどうなるかわからないままなので、この記事はそういう”前向きな議論をどうすれば日本で共有できるのか?”という話だと思って読んでいただければと思います!)

既に各方面から問題視されている高額療養費制度の改悪案件ですが、これは本当に日本政治の今後を考える上で重要な案件だと思うので、その話をさせてください。

結論から言えば、日本の医療制度改革の中で「高額医療費制度」に手を付けるのは悪手中の悪手で、方向転換が必要な段階にいると思います。

とはいえ、どんどん混迷を深める日本政治の中では、正論を言っているだけでも通りづらい部分があるので、

外資コンサル出身だけど、今は中小企業メインのコンサルタントになっていて、”日本社会に”改革を受け入れてもらうこと自体を専門にしている私(倉本圭造)

…の視点から、

”次の一手”としてどういう政治的議論をすればこの問題が解決に向かうのか?

…という話を「3つの提案」としてまとめる記事を書きたいと思います。

話の前提知識が人によって全然違いすぎる話題なので、記事の冒頭は色んな基礎知識をざっくりまとめる部分になっていますから、「そんなことは当然知ってる」方は小見出し4からお読みいただければと思います。

1. 高額療養費制度と今回の改悪のあらまし

高額医療費制度というのは、家計の医療費負担額が一定額を超えると後で国が補填してくれる仕組みです。(マイナンバー連携するとその場での立替支払い自体も不要になる)

その「月の支払い上限額」の数字がこの制度のキモで、その金額は低所得者は数万円ぐらい〜高所得者は30万円近いという結構な差があるのですが、例えばあなたの上限額が5万円だとしたら、月に5万円を超えた分の医療費は払う必要がなくなるということですね。

この制度があることで、「金持ちも貧乏人も」ほぼ同じ医療が受けられる…という日本社会の安心感に繋がっている重要な制度というわけです。

その「上限額」が、段階的に引き上げられる見通しで、NHKの試算によると以下のような額になります。

これ、今年8月ぐらいのとりあえずの上昇幅だと「まあこれぐらいならなんとか」って感じもしないでもないんですが…(というかもともと結構負担感が大きい額だったので、この程度上がったから命に関わる治療を諦めるかというと…という感じではある)

2027年8月から予定されてる最終的な今回の引き上げの上限値になると、結構「うげっ」って思う感じになります。

特にこれ、低所得者層で大変なのは言うまでもないことですが、年収一千万強で家族がいる現役世帯で「月30万」っていうのは結構たいへんな額ですよね。

2. なぜ高額療養費制度が重要なのか?

先日、私の新刊のプロモーションの一環で、YoutubeチャンネルのPIVOTの収録をしてきたんですが(既に公開されてます)、その中で、この高額療養費制度の話が出たんですよね。(医療費の話は後編のこの部分から

結構突然この話になったんでちょっとグダグダ気味にですが、そこで私はだいたい以下のような話をしたんですよ。

金持ちと貧乏人であまりに寿命に差がつかないように高額医療費制度はなんとか残して、それ以外の日常レベルでの利便性みたいな部分で多少我慢してもらう方向がいい

日本の医療制度改革はできる限りこういう方向↑で行った方がいいはずですよね。

しかし現実では、

・その「多くの人の日常レベルでの利便性を少し諦めてもらう」の政治的コストは大きい
・ごく一部の患者しか該当しない高額医療費制度の改悪は政治的コストが小さい

ために、よほどの政治的工夫を真剣に積まない限り、

一部の人(特に現役世代)が本当に命に関わる病気をした時に治療を諦めちゃう方向で高額医療費制度が改悪され、一方で「普通の人のちょっとした利便性」みたいな部分で、削れるかもしれないコストは放置され続ける

…ということになっちゃう。

これはほんと良くない。マジで良くない。

なんで良くないかというと、「日常レベルの利便性を少し諦めてもらう」のはだいたい軽症者の例である一方で、高額医療費制度の対象者っていうのは本当に「命に関わる」病気なわけで、本当にココが崩れると「貧乏人は死ね」という世界になっちゃうんですよ。

若いころからかかる可能性があり継続的な治療が必要になる乳がん患者とか、あと出産の時の帝王切開の例とかも高額医療費制度がカバーしているらしく、むしろ「働き盛りの世代」で「ちょっとした大病しちゃう」みたいな例で直撃的に効いてしまうダメージになる(高齢者の場合は元々負担額が少なく所得制限の条件もあってダメージはかなり少ない)。

で、「現役世代で珍しい大病しちゃう例」とかって件数は本当に少ないので、そういう人たちに「死ね」という制度に改悪したからといってコスト削減効果はかなり小さいわけですよね。

そういう件について、今x(Twitter)には色んな医療関係者の憤怒の声が溢れています。

例としてはこんな感じですね↓

とにかく、「こっちに進む」のはなんとか食い止めようという観点自体は、多くの医療関係者、左派政党、そして結構維新とか国民みたいな「改革派」の人ですらもだいたい共通に思ってることなので、ここでとりあえず真剣に騒いでおくことが必要です。

今回の改悪だけの話じゃなくて、ここでキチンと政治的に反対しておいて「こっちに進むのは政治的コストが高そう」と思ってもらってないと、昨今の

「取りやすいところから取り、削りやすいところから削る」

ムードの中ではどんどん知らないうちに改悪が進むので、とにかく今ここで声をあげておくことが必要なタイミングであるわけです。

3. では、どういう改革の方向性がありえるのか?

さっき貼った私のPIVOTの動画での話にあったように、

金持ちと貧乏人であまりに寿命に差がつかないように高額医療費制度はなんとか残して、それ以外の日常レベルでの利便性みたいな部分で多少我慢してもらう方向がいい

…という方向性では、どういう具体策があるのか?

これについては、UCLA准教授の津川友介氏などが、色々な研究を元に青写真を描いてくれています。

国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な「5つの医療改革」|津川 友介
日本では社会保障費の負担増が社会問題化しており、その中でも医療費の適正化をどのように達成するのかが議論されています。その中で、最近では、高額療養費制度の自己負担の上限の引き上げが案として浮上しており、社会的弱者である重病患者およびそのご家族に経済的負担を押し付ける改悪であるとして、国民から多くの非難の声が上がっています...

詳しくはリンク先を読んでいただくとして、例えば

① 70歳以上の窓口自己負担割合を一律3割負担とする(1.0~5.1兆円の医療費削減効果)
② OTC類似薬を、保険収載から外す(3200億円~1兆円の医療費削減効果)

…といった方向性でもっと大きく、そして「ダメージが軽微」であるエビデンスがある方向性の改革があるようです。

OTC類似薬っていうのは、いわゆる「湿布」とか「風邪薬」とかのドラッグストアで普通に買えるもののためにわざわざ医療保険を使っているような部分から手を付けてほしい・・・というような方向性ですね。

こっちは「少額だけど人数が多い」の方なので、「変える政治コスト」は高いけど、変えられたら削減効果は大きい。

特に、①(高齢者の窓口負担)の方は政治的に結構揉めるでしょうけど、②(OTC類似薬)の方は反対しているのは医師会のみ(開業医の収入的に直結するという話があるらしい)で、結構医療関係者でも「まずはそこからだろ!」と怒ってる人が多い感じなので、まずはココカラ…という流れには今後なっていくように思います。

津川先生のプランには、さらに後半でもっと野心的なデータドリブンの医療合理化っていう色々な提言もあるのですが、まあそこは追々踏み込んでいければいいですね、という感じでしょうかね。

この津川先生のプランは、かなり今党派を超えてめっちゃ読まれてるので、そこから空気の変化が生まれて新しい流れが起きてきそうな感じではあります。

ただ、津川先生のx(Twitter)とかに、「そもそも医療費って削減しなきゃいけないんですかぁ?」みたいなコメントとかも結構ついていて、ここの部分での状況認識というのが徐々に更新される必要はありますね。

いや、別に「医療費削減しなきゃ即破綻する」っていうわけではないんですが、ただ医療費削減しなきゃどんどん(特に現役世代の社会保険料の)負担は激増せざるを得ないというだけの話なんですね。

「財務省解体デモ」とか最近あったように、それはそれで政治的に限界が来つつある状況ではないでしょうか。

実際、これは誰のせいでもなく日本が世界一の少子高齢化社会である事が原因で、これだけ「めっちゃ高い」とブーブー言われている社会保険料でも、今の医療費は半分ぐらいしか満たせてないんですよね。

後期高齢者の場合と合算した自己負担額の平均が15%、保険料で賄われてるのが53%で、残りの32%はずっと税金で補填しているわけです。

で、これがさらに少子高齢化で数年ごとに兆円単位で増え続けてるだけでなく、今後一件数千万とか億とかしかねない高度医療の普及によってさらに激増することが予測されている。

「高齢者の負担増」というのはかなりイメージが悪い政策ですが、ただ大枠でみると日本は高齢者の方がかなり裕福な状況ではあるんですね。

だいたい日本人の金融資産の6割以上を60代以上が持っていて、そしてこれは、「老後の蓄え」と言いつつあまり使われずに終わることが多いという研究結果がある

なので、「ストック」で見ると90代の高齢者が亡くなって70代の高齢者が相続して、それはほとんど取り崩されないままタンス預金され続けてる一方で、現役世代は「フロー」の部分だけでなんとかやりくりせざるを得なくなっている現状がある。

そういう意味では、もちろん貧困層の高齢者への配慮が必要なのは当然としても、「何らかの形でもう少し上の世代にも負担してもらわないと」という情勢になるのは避けられない情勢ではあるんですよ。

そういうのを無理やり排除し続けて、「老人は死ねというのか!」と一緒くたに抑圧していると、余計に相互憎悪が募って「ああそうだよ死ねって話なんだよ!」みたいな方向にヒートアップしかねない情勢にあるんですね。

また、よく言われてる事ですが日本の総合病院の経営状況とかはかなり青息吐息な事が多くて(以下ポスト参考)、海外比較でとんでもない薄給と激務をなんとかこなしてもらってる現状がある。

そう考えると、津川先生のプランの①と②になっている、「高齢者の窓口負担をなんとか増やす方向にしてもらう」と、「開業医利権」的な側面もある「OTC類似薬」の部分とは、今の日本の医療制度の歪みをなんとかもう少し時代に合ったものにしていくにあたって非常に芯を食った方向性なのだと思います。

今回の高額療養費制度の改悪が大きく問題視される情勢になれば、「じゃあどうするんだ」という方向の議論は自然に進むはずなので、その流れをいかに捉えて形にしていくかが重要な局面にいるということですね。

(長くなりましたが基礎知識のおさらいがここで終わりです)

4. 提案①「必要性の説得フェーズ」と「メンタルブロックを外すフェーズ」

で、ここまでが「基礎知識」で、ここからが「日本社会に何らかの改革を飲んでもらう仕事」をしてきた自分からの提案が大きく3つあるんですが、まずひとつ目は、

提案① 「必要性の説得フェーズ」と「メンタルブロックを外すフェーズ」は違う事を認識する

よく、「ダメな営業マンあるある」みたいな話として、実は相手が既に「欲しい気持ち」「買う気」になっているのに、「いつもの通り一遍の営業トークを長々と話す」事でウンザリされてしまう⋯というのがあるんですよね。

「お客様の買う気」というのは刻一刻と上がったり下がったりするので、「できるだけ温まったタイミング」で、できればサラッと具体的な次のフェーズに入ってしまった方がいいんですよ。(恋愛も一緒ですね)

そういう時、有能な営業マンは、

お客様のお悩みにとってこの商品は大変適していると思いますし、正直なところ結構乗り気になっておられるような部分もお見受けするところがあるのですが、実際に購入に至るにいたって懸念されている点などはございますか?

…みたいな感じで「押し付けがましくなく数歩踏み込んでみる」みたいなことをやります。

そうすると、

・値段のこと
・初回の支払いだけでなく商品を使用し続ける上でのトータルコストのこと
・使用上のトラブルが起きた時にどうしたらいいかというサポート面の心配
・自分が念頭においているユースケースにおいてその商品が使えるかという疑問・・・

といった「メンタルブロック」がどこにあるかが理解できる。

つまり、「既に買う気は結構出てきている」けど、「いくつかの懸念点」があるから躊躇している・・・という状況の人に、「あなたはこれを買うべきだ」という演説を長々としたら嫌がられますよね。

そうではなくて、「買う気は出てきたが懸念点がある」人にはその「懸念点の聞き取り」を丁寧に行って、「その懸念点に丁寧に答える」作業に入る必要があるんですよ。

今回の、高額療養費制度改悪みたいな現象は、ある意味で例の「財務省解体デモ」みたいな形で、インフレの状況下でなんとか国民負担を減らしてほしいという「切実なニーズ」が噴出してくる中で、政治的に「なんかしないと」という方向性で玉突き的に出てきているわけですよね。

ある意味で「国民のニーズ」的に選挙で示されている「方向性」自体は揺るぎなくある。

でも、「とはいえ、安心の医療制度が崩壊して、日本社会の一体感が崩れてすごく殺伐とした社会になってしまうのでは?」という不安感もものすごくあるわけですよね。

もしあなたが高額の買い物をしようとしていて、「買う気はあるが懸念点が色々ある」というタイミングにいるとして、あなたは営業マンにどういう対応を取られたいか?という部分が今考えるべきことなんですよ。

そのタイミングで欲しいのは「強引に自説を押し込んでくる」営業マンなのか?

それとも、「懸念点を聞き出してくれて、具体的にそれは大丈夫ですよという提案をしてくれる営業マン」なのか?

まあ50年前ぐらいは前者の方が売れてた時代もあったと思いますが(笑)、今の時代は明らかに後者の態度が必要ですよね。

日本社会における医療改革を進めたい勢力は、徐々にこの「相手側の懸念点をほぐすようなコミュニケーション」が必要な段階に入っていることを認識するべきタイミングだと思います。

5. 提案②『現場の良心さん』を巻き込む

外資コンサルが提案してプレゼンは好評だったのにお蔵入りになるプロジェクトって結構あるんですが(笑)、それは結局「相手側のニーズや意志」の部分を取り込みきれなかったことが多いように思います。

そういう瞬間に大事なのは「現場の良心さん」というタイプの論者をいかに引き込めるかなんですよね。

「その組織の今までのやり方」と「違う新しいやり方」を受け入れてもらいたいとなった時に、結構すぐにその組織内部にいる

そうなんですよぉ〜僕もずっとそう思ってたんです!この組織の奴らは頭古くてほんと困りますよね〜

⋯って言ってくるタイプの人とはすぐに出会えるんですが、こういう人とだけ繋がっていてもその組織は動かせないんですよね。

そうじゃなくて、

その組織の中で信頼を得ていて、現場レベルでの責任感が強くあるために、新しいやり方には当初は懐疑的だが、ただし現状の問題点も理解してはいるので、筋の良い提案だと納得すれば受け入れたいと思っている

↑こういうタイプの人=通称「現場の良心さん」を引き込めるかどうかが鍵になってくる。

この「現場の良心さん」が納得して動き出してくれたら、色々な末端で生まれる「変化に対する抵抗」を、この人自身が奔走してくれて話をまとめてくれたり、そもそも「あの人がOKというなら」という感じで自然に協力体制が築かれていったりもする。

で、実際「こういうレベルの人まで話が通る」ようにしないと、実際の「改革案」が「全体的な方向性はいいにしても、実際に全然魂が入ったレベルで実行できない」ので、スカスカの形だけのプロジェクトになってしまったりそもそも実行されずに放置されてしまったりもする。

今回の医療制度改革においてはどうか?

今、結構Twitterにいる医療関係者とかの声が、既に結構高まっているのは良いことだと思います。

実際に「損をかぶる」可能性が高い開業医とか高齢者の人でも賛同する声がチラホラ見えてきているのは大変希望が持てる。

あと一歩重要なのは、

中道左派的な福祉の安定性を重視する層の政治家や学者や論客や現場の人

↑ここにどうやってアプローチするかが重要になってくる。

この層の中でも、「とはいえちゃんと現実的な対処もしないといつか破滅的な改悪になるのでは?」という懸念ぐらいは高まってきていると感じてます。

あのガチ左翼?の白井聡教授ですら、「国民負担軽減への民意というのが明確に見えていて、最右翼層もそのニーズに乗っかって党勢回復を目指そうとしているのに、立民をはじめとした左派勢力はそれに乗っからなくていいのか」みたいな話を動画でしているのを見ました。

いやらしい言い方をすると、この層にアプローチをすることは、「岩盤反対層」に対する「切り崩し」の側面を持つわけですね。

「とにかく一切の負担増は許さん!」っていう感じで、真ん中より左の層が完全に一致団結して抵抗されちゃうと、今の議席配分ではなかなか実現しない感じになってしまう。

一方で、「左派勢力の中でこの問題に呼応できる人」とのコミュニケーションをキチンと取っていくことができれば、それは「切り崩し」の側面が現実レベルではある。

そして、その「切り崩し」というだけでなくて、そのプロセスを踏むことで、本当に「改革プラン」が、「日本社会にとっての重要な紐帯の部分を破壊せずに済む」ような着地に持っていくためのブラッシュアップが可能になる側面もあるでしょう。

大枠で、高齢者の負担増とかOTC類似薬の問題が、「合理性がある」のは間違いない。

ただ、「実装の細部の部分」の配慮が足りない状態で強引に実行しようとしてしまうと、「あまりにも印象が最悪」な形になったら永久に禍根を残す部分が生まれてしまう。

「中道左派勢力の中に協力者を見つける」プロセスの中で、現実的な着地が「ラストワンマイルの配慮」が十分になされたものになっていくプロセスを踏めれば、あとは着々と実現していく流れに乗っていけると思います。

6. 提案③「去りゆくものへの敬意」があればあとは勝手に進む

私は外資コンサルのマッキンゼーからキャリアを始めて、ちょっとこういうやり方ばっかしてるとそのうち社会が真っ二つになってヤバいな・・・と思って、その後肉体労働やらブラック企業への潜入やらといったフィールドワークののち、今は中小企業コンサルタント兼「思想家」業みたいなことをしてるんですね。

(なんでそんなアホな遍歴を・・・というのをすごくわかりやすくYouTubeメディアのPIVOTがまとめてくれてすごい面白い動画になってるんで、良かったらどうぞ)

で、その中小企業クライアントの中には、この10年で150万円ぐらい平均給与を引き上げられたような例もあるんですが・・・

その「改革」のプロセスの中で、クライアントの経営者の人が「抵抗勢力」側にいる高齢の役員にやめてもらう例があったんですが、もう結構身軽なコンサル側の視点からすると「さすがに配慮しすぎでは」ってぐらい丁寧に丁寧に敬意を払って徐々に権限を減らしてもらって「勇退」していただいた、みたいになってたところがあって、それがすごい勉強になったなと思ってるんですよね。

アメリカ企業が勢いよく意思決定できるように見えるのは、反対なら全員明日にでもクビにできちゃうからで、日本において、しかも人間関係がウェットな地方においてそんなことをしたら、もう「●●派」「☓☓派」に真っ二つに分かれて永久戦争になって10年20年の間何も新しいことはできないみたいになりかねない。

しかしそこで「全体としての方針は譲らないが、その人のメンツは最大限守る」ような形になったことで、むしろ「ガチの反対派」になってもおかしくなかった人も含めて「新しい方針」に対して合致して向かっていけるような雰囲気に持っていくことができた。

日本の組織は「そうなった」らめっっっっちゃ強いというか、もうほっといてもどんどん自主的にうまくやってくれる情勢になったりするんですよね。

今回の医療改革が、「老人は死ね」みたいな雰囲気で動いている限り決してそうはならないでしょうが、

・国の未来のために融通しあって、持続可能な制度に変えていきましょう

…という雰囲気が維持できさえすれば、結構「国民の総意」みたいなものとして「高齢者負担の多少の増加とOTC類似薬の部分」ぐらいは「まあそりゃしゃあないよな」ぐらいに納得感を得られる情勢ではあると思います。

その時に大事なのは、「一切の負担増も許さんぞ!」ってなってる人たちも、彼らなりの正義があるってことを理解することなんですよ。

彼らが「血も涙もないネオリベどもに無理やり押し切られた」と感じちゃうような持って行き方だと日本では決して実現しないところがある。

その「アリの一穴」的な部分が崩れると本当に日本社会の重要な紐帯の部分が破壊されるのではないか、という危機感なのだ、と捉えると、「それに配慮しながら変えられるか」は超大事なことだとわかるはずですよね。

現実レベルではある意味で「中道左派層の切り崩し」を行っていく中で、しかしその層が持つ「良識への敬意」を保っていけるかが重要だと言えるでしょう。

「納得は全てに優先するぜッ!」っていうのは「ジョジョの奇妙な冒険(スティール・ボール・ラン)」の有名なセリフなんですが…

日本の組織では「そこ」がすごい重要で、「そこ」さえ乗り越えられたら政治的にかなり難しい決断でもできて、むしろ自主的に細部まで勝手にブラッシュアップされて配慮された着地になっていくことも多い。

今まさにそういうチャレンジが可能な情勢だと思うので、なんとか「ラストワンマイルの丁寧な配慮」によって乗り越える道を探っていきましょう。

PIVOTの動画は前・後編になってて、後編↓の方では医療改革自体の話も出つつどうやって「社会全体で問題意識を共有していくか」という話も掘り下げているのでぜひ。

また、上記動画で紹介されている私の新著もかなりこの問題への「向かい方」について掘り下げていますので、こちらもよろしくおねがいします!

論破という病 「分断の時代」の日本人の使命

つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。


編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2025年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。