ガリガリ君を10円値上げする謝罪CMが話題になった2016年から9年が経った。今ではもう、値上げでお詫びをする食品会社は無くなり、国民のデフレマインドも霧消したようである。
そして今、ランチを食べようとお店を覗いても、値上がりが激しくてお小遣い制のお父様には、何とも厳しい世の中になってしまった。
マクロ的にも、食料品支出は増え続け、エンゲル係数も上がり続けているが、食料品購入点数は減少し続けているという、何とも残酷な現実が垣間見える状況になってしまっている。

出典:家計調査
どうして、こうなってしまったのか?
もちろん、賃金上昇率が物価上昇率に追い付いていないという一般的な評価もそうだろうが、それでも、賃金を上げてもらえる労働組合のある会社に勤めている正社員は、まだマシである。
収入増加率が低い、フリーランスや年金受給者の人は、収入の増加が物価上昇率に全く追いついていない人が多く、ますます格差が開くばかりの状況にある。
しかし、それ以上に重要なのは、現在の物価上昇率が全体では年率約+3.5%(過去3年間の平均)と認識されている一方で、食料品に限ると年率約+6.9%にも達しており、食料品だけが狂乱物価の状態にあることをしっかり理解する必要がある。
なお、全体のインフレ率が低くなっているのは、住居費(≒家賃≒持ち家の人も賃貸住宅を借りているとして計算される)がほとんど上がっていないためだが、これは、賃貸住宅の普通借家契約が家賃の引き上げを厳しく規制しているため、なかなか賃貸住宅の家賃が上がらないためである。

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どうして、食料品価格だけが、これほど高騰するのか?
世界的な食料品の高騰が理由として一般的に挙げられるが、食料品の生産・加工・流通の各段階で最も大きなコストは人件費である。例えば、スーパーマーケット業界におけるパートタイマーの比率は75%に達している。すなわち、食料品価格に最も影響を与えるのは人件費であり、特にパートタイマーの人件費であることは、あまり報道されない。

出典:消費者物価指数
現に、最低賃金と食料品価格指数を比較すると、同じような勢いで上昇していることが確認できる。一方で、政府は現在1,055円程度の最低賃金を、2020年代中に1,500円まで引き上げるというアグレッシブな目標を公言している。
これを達成するためには、これから毎年+5.9%の最低賃金の引き上げが行われることになるため、これからも、食料品価格が最低賃金上昇率程度のスピードで上昇することは容易に想像できる。
そしてそれは、今1,055円のランチが5年後には1.42倍の1,500円になっているという事を意味する。
しかしその間に、一部の人を除いて収入は1.42倍にはならないので、ランチの外食はあきらめて、冷食・中食・機能性食品に切り替えるサラリーマンが激増していく未来が予想される。

出典:厚生労働省 政府統計の総合窓口e-Stat
しかし、暗い話ばかりではない。
現時点では、解雇規制が厳しいため、中高年以降の人は雇用の流動性がなく、会社で「働かないおじさん」と揶揄されながらも転職できない。その結果、雇用延長によって会社にしがみつき、ボーナスステージを過ごしている人が多くいる。
しかし、最低賃金が1,500円程度になると、最低賃金でも月収約25万円となり、中高年の雇用の流動性が徐々に高まってくる。その結果、これまで会社にしがみついていた中高年のおじさんも、ついに若いころに挑戦したかったことに取り組める環境が整い、いきいきと生活を謳歌する中高年であふれることになる。
これから、50歳未満のちゃんと働ける世代の人口は、つるべ落としで減少することが決まっている。だから、生き生きと働いてくれる中高年のおじさん達は、日本にとってとても貴重な存在なのである。

出典:国立社会保障・人口問題研究所