山本太郎はヒトラーになるか

池田 信夫

最近、れいわ新選組の躍進が著しい。フジ産経グループの世論調査では、次の表のように若年層では立民を抜いて第3位、全体でも維新を抜いて第4位である。

楊井人文氏のまとめ

これは何といっても、次のような山本太郎代表の動画が拡散し、そのカリスマ的な影響力が強いからだろう。れいわ信者はそれを素朴に信じて、こういう動画を拡散している。これは50万インプレだ。

彼の主張は単純である。

  • 消費税ゼロにすると税収が26兆円減るが、そのぶん国債を発行すればいい。
  • 国債は政府の借金だが、国民の資産なので、いくらでも発行できる。
  • 自国通貨建ての国債は、政府がお札を印刷すればデフォルトしない。
  • 印刷しすぎるとインフレになるが、財政赤字はあと100兆円増やせる。

もしも「山本太郎首相」になったら

もし山本首相が国債を100兆円増発すると、トルコのような大インフレになり、経済は混乱して大不況になるだろう。そのときは「法人税を増税すればいい」というが、大不況のとき増税法案が国会を通るはずがない。

日本政府は(統合政府で)約700兆円の債務超過だが、今は政府の信用(将来の徴税権)が担保になって債務を維持している。山本首相になると市場が察知すると、この信用が失われ、債務超過を意識して国債が売られる。国債が売られると価格が暴落し、さらに売られて雪ダルマ式に(元利合計の)債務が増え、ハイパーインフレになる。

では年金や公務員給与を止めるのか。そうは行かない。日銀が利上げしても、政府の信用が失われると、トルコのように政策金利が50%になってもインフレは止まらない。最後は物価統制令で抑え込むしかない(ケルトンもそれを推奨している)。

ハイパーインフレを防ぐには統制経済しかない

だがお金が世の中にあふれる一方で、物価を抑制すると物不足が発生する。人々は価値のなくなった紙幣を金などの実物資産に換え、資本が海外逃避する(これもトルコで起こっている)。それを防ぐには、全面的な統制経済にするしかない。

そこで山本首相がヒトラーのように全権委任法を制定して超法規的な権限を掌握し、国債を大量発行して公共事業や給付金を支給し、預金封鎖して資本逃避を防ぐ。このような世界最初のケインズ政策で景気はよくなり、失業はほぼゼロになった。

これが山本氏の描くバラ色の未来だろう。リフレ派の原田泰氏も同じことを言って批判を浴びた。ヒトラーのやった総需要拡大の最大の梃子は戦時経済だったのだ。失業した若者を徴兵して戦場へ送り込んだら、失業がなくなるのは当たり前だ。

「ワイマール化」する日本でれいわが政権に入るリスク

ヒトラーも最初から独裁者だったわけではない。ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)はならず者の集団で、初期には暴動を起こしてヒトラーも逮捕された。れいわと同じくまともな政党とは思われていなかったので連立は組めず、1933年に議会で第一党になっても、過半数に達せず政権は取れなかった。

ワイマール憲法でできたドイツ共和国の政権の多数派は社会民主党だったが、暴力革命の方針をとる共産党の勢力が強く、左右対立が激しかったため、15年間に首相が13人も交代する混乱が続いた。保守派が連立に失敗し、ヒンデンブルク大統領は暫定的な首相としてヒトラーを指名した。あとは歴史の示す通りである。

山本氏がヒトラーと似ているのは、低学歴だが演説がうまいことだ。れいわ新選組も無知なプータローの集団でナチスと似ている。政権がグダグダなのも1930年代のドイツと似ているが、最大の違いは共産党が衰えてしまったことだ。れいわはネオ共産党ともいえるが、知的には劣悪で、かつて知識人を魅惑したマルクスのような高度な理論はない。

結論としては山本氏がヒトラーになることは考えられないが、このように減税ポピュリズムの党の人気が出ると、他の党も(立民党のように)消費減税に傾斜するだろう。れいわが有力な野党になると、減税ポピュリズムという点で似ている国民民主党がれいわと組むリスクはゼロではない。

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